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ゲーム感想 ゼルダの伝説 スカイウォードソード

 伝説はすでに始まっていた。

 Wii時代にとうとう触れずに過ぎてしまったあのゲームをプレイしましたよ。『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』NintendoSwitch版。もともとはWii対応ソフトとして制作され、発売されたのが2011年11月。Wiiリモコンを剣に見立てて操作する……というコンセプトのゲームだった。当時の売上本数は日本で36万本、世界で367万本。
 評価は圧倒的に高く、ファミ通クロスレビューで満点40点。IGNでも満点獲得。ユーロゲーマー、ゲーマーインフォーマー、Edge、VideoGamer.comといった海外のゲームメディアでも満点評価。その他のゲームメディアでも概ね高評価を獲得した。第15回インタラクティブ・アチーブメント・アワード(現在のD.I.C.E アワード)でゲーム・オブ・ザ・イヤー、アドベンチャーゲーム・オブ・ザ・イヤー、ゲームプレイ・エンジニアリング賞などを受賞。2011年もっともゲーマーの注目を集めた名作タイトルとなった。
 その『スカイウォードソード』のHD版リメイクが今作。2021年7月16日発売。HD化されただけではなく、フレーム数も60fpsに向上、ロード時間も短縮。操作体系もジョイコンに変わったことによって見直された。
 そのSwitch版『スカイウォードソード』は日本での売り上げが45万本。世界での売り上げが415万本。なんとオリジナル版よりも売り上げてしまった。発売から10年過ぎても、伝説は続いていたのだ……。


冒頭の物語


 かつて、女神と邪悪なる者との戦いがあった。戦いは女神が勝利し、女神は戦いの最中に生み出した万能なる力とともに、それを継承する人々を大地ごと天に浮かべた。

 あの戦いから幾世代も過ぎて――。天空の大地に住む人々は、かつてあった戦いを忘れ、自分たちがどうして空の暮らしをしているのかも忘れ、平和な日々を漫然と過ごしていたのだった。

 その年も『鳥乗りの儀』が開催される。鳥乗りの儀では人と鳥の絆と技量が試される。優勝者は、その年の女神となる少女から、祝福を得ることができる……。その年の女神を務めるのは、スカイロフトでも美少女として名高いゼルダ。優勝すると目されているのは、その幼馴染みの少年リンクだった。

 いくつかのトラブルを乗り越えて、その年の優勝を勝ち取るリンクだったが……。

 その直後現れた不吉な嵐に飲み込まれて、ゼルダが行方不明になってしまう。

 姿を消したゼルダと入れ替わりに現れた謎の精霊ファイ。そのファイに導かれて、女神像の足元に隠されていた部屋に入っていき、リンクは「女神の剣」を授かるのだった。

 リンクは伝統的な騎士団の衣装を身にまとい、人々が存在すら忘れていた「地上」へと赴く。姿を消してしまったゼルダを探すために……。

一昔前のゲーム


 「十年一昔」という言葉がある。10年も経てば世代の変化が起きて、10年前の文化や伝統は忘れられる。ゲームの世界でもそれは同じで、10年経てば様々な面で劇的な変化が起きるものだ。それは10年前のゲームであるこの作品でも見ることができる。

 操作体系は最初に説明したように、ジョイコンを振って、直感的な操作ができるようになっている。これが最初から引っかかって……。
 剣の操作は、わりと丁寧に説明してくれるのですぐに了解できるが、それ以外の操作……例えば崖に捕まっている時に横に飛ぶ操作とか、特殊アイテムの使い方とか……。一度理解できれば簡単なのだけど、最初は「なんのこっちゃ?」と思うところもあった。こういうときの説明は、妙に雑で投げっぱなし。
 本作ではプロコンで操作することも可能で、ならばプロコンではどうだろうか……やってみたけれど、プロコンになると急に必要なボタン数が多くなって難しくなる。しかも説明がないからよくわからない。ジョイコンならさっと振るだけの操作が、プロコンだとボタンを押しながらスティックで操作……と操作に一段手間がかかる。遊びやすさでいうと、ジョイコンのほうが格段に上だった。

 ではジョイコンでの遊びが素晴らしかったのか……というと、そうではなかった。どうしても“ズレ”る。私の感覚では「横斬り」のつもりが、「ななめ斬り」と判定される。「縦斬り」のつもりがやっぱり「ななめ斬り」と判定される。では斜め斬りは……縦か横と判定される。私の感覚では「横」のつもりがジョイコンが「横」と判定してくれない。横切りの時はまっすぐ横! に振り払わなければならないのだけど、これがなかなか難しい。この場合、私の感覚のズレのほうが悪いのだが。
 ジョイコンでの操作が作品への没入感をもたらしてくれたか……というとそうはならない。ずっとリンクと私の感覚はズレっぱなしだった。

 このゲームでは、シチュエーションによっては正確に「横斬り」「縦斬り」「突き」と切り分けなければならないことが多い。これも難しい。
 というのも、人間の生理として、ジョイコンを縦に振り落とそうとする時、ジョイコンを上へ構えようとする。その上に構える動きを、ジョイコンは「斬り上げ」と認識してしまう。右へ振ろうとする時は左へ身構え、左に振ろうとする時は右に身構える。その時の身構える動きもやっぱり認識してしまう。
 このゲームの極意は、“その場でいきなりジョイコンを動かす”こと。斬り上げの時はいきなりジョイコンを上へ振る。身構える動きは必要ない。というか、身構える動きをやってはいけない。右へ振るときは、ジョイコンを左に構えてから……ではなく、いきなり右へ振る。斬り下げる時も構えることなくいきなり下へ振る。
 この操作をやっと理解して使えるようになったのは、ゲームの終盤も終盤……。
 いや、難しいわけではない。生理的なクセを修正するのに、それくらいかかってしまった。できる人ならば、簡単にできるはずだ。私はこれができるようになる頃には、ゲームも終わりだったから、なんだかねぇ……という感じだった。

 それに、ジョイコン自体にも問題があり、ジョイコンは「動き」は判定するが、「位置」を認識しているわけではない。ゲームをやっていると、次第にポインターの位置がずれていく。私の場合は、アイテムウインドウを開くたびにポインターが右端にズレている。Yボタンを押せば修正できるのだけど、Yボタンを押した直後でもなんとなく右にずれる。カーソルを左側に持っていくのが妙に大変。

アイテムウインドウを開いたところ。いつも常に右側へ偏った状態だった。

 ジョイコンのほうが反応してないのでは……という瞬間もあった。明らかに動きがズレている、それ以前に反応しない。
 気のせいだろうか……いや、とある場面でハープを弾くイベントがあるのだけど、明らかにズレるし、反応しない瞬間も多い。ただジョイコンを左右に振るだけなのだけど、異様に難しい。
(何度やってもジョイコンが半分くらいしか反応してくれない……こんなイベント、やってられるか)
 ちなみに、ジョイコンは先日修理から戻ってきたばかり。ジョイコンの不調ではない。
 『リングフィットアドベンチャー』をやっている時でも、素早い動きに反応しなかったり、動きがだんだんズレる……ということは頻繁にあった。故障しやすい、という問題を含めて、次ハードへの課題にして欲しいところだ。

 と、こんな感じに、ジョイコンを使った“直感的操作”は、従来のボタン操作よりもはるかに簡単、体の動きで覚えられるから身につきやすい。しかし思った通り操作できるようになるまで、かなり時間がかかる。もっとも簡単な横斬り、縦斬りさえなかなかできない。しかもズレる。ジョイコンは位置を認識しているわけではないから、普通にプレイしているつもりでもどんどんセンター位置がずれてしまう。
 簡単なのは確かだが、しかし“思った通り動かせるか”は別問題。ジョイコンを振って、リンクの気持ちになれるか……というとこれが難しい。私の操作するリンクは、思った通り剣を振ってくれない。ずいぶん間抜けなキャラクターだった。ジョイコン操作でゲームキャラクターと一体感を感じたかったが……それはだいぶ難しい問題だった。

 では次に、ゲーム作法的なところを見ていこう。
 ゲームの進化……というと、一般的にはゲーム機のスペック的な進化や、グラフィックの進化で比較するものだが、「ゲーム作法」も進化する。ゲーム作法も日々刷新されていく「ゲーム制作技術」のうちの一つで、これが進化するからこそ、ゲームはどんどん遊びやすくなっている。なんならゲーム機のスペック進化よりも重要なポイントで、数世代前のゲーム機でも現代のゲーム作法を丁寧に載せるだけで、だいぶ遊びやすいゲームになるはずだ。
 今作、『スカイウォードソード』をプレイして古さを感じたのは、実はここ。

 まず画面を見てわかるように、ミニマップすらない。いや、2011年当時のこういったゲームではすでにミニマップはあったはずだが……なぜか『スカイウォードソード』にはない。方角を示すものもない。
 おかげで「○○へ行こう」と考えた時、まずマップを開く。しかし向いている方角がわからないので、「たぶんこっちかな」という方向を向いてまたマップを開き、正解ならそっちの方向へ進む……というやり方となる。
 カメラの動きも遅い。設定画面で調整すらできない。最近のゲームでは必ず「カメラ設定」がない。こういうところも、遊びづらく感じさせる。

ロフトバードに乗って、いよいよ空へ……って、シームレスじゃないの?

 パラショールでゆっくり滑空する……。すでに『ブレスオブザワイルド』で進化版を見ているせいか、「ただ滑空するだけ」のパラショールはなんだか魅力に欠けるというか……。動きが固定されている感じがあるし、このパラショールがなにかしらのギミックと連動しているわけでもないので、いまいち必要性を感じない。
 それに、上昇する時のアニメーションがただ機械的に回転しているだけ。あんなふうに激しく回転したら、パラショールを掴んでいる人間は大きく左右に振り回されるはずだが……。そういう動きがないから、アニメーションの作りが雑に感じられる。

 アイテムの使用はRボタンだが……この時間中もゲームは進行している! 早く回復しないと……。せめてアイテムを選んでいる最中はゲームを止める……と設定で変更できるようにしてほしかった。

 今はそれどころじゃない! ……というのはこのシーンに限らず。手に入れたアイテムととりあえず掲げるのは、『ゼルダ』シリーズの定番だし、ある意味で輪廻転生を続けるリンクが継承しているクセ。
 どうしてこの演出に引っかかったかというと、『スカイウォードソード』まで来るとリアルに作られた世界観と「掲げる」というすこしコミカルな演出が合ってない(『トワイライトプリンセス』の時点でも合ってなかった)。『ブレスオブザワイルド』でなくなって良かった。

 いろんなダンジョンでよくある、扉が閉まる演出。
 こういうのも『ゼルダ』シリーズ伝統的な見せ方だけど、こういう見せ方もシーンの流れを寸断する。ゲームの流れ、物語の流れを寸断する演出、それも古くさい見せ方がどうにも引っかかる。

 今作でも、キャラクターは様々にアニメーションするのだが、しかしある動きから、ある動きへ移る時、なにか魂が抜けたようにすーっと姿勢変更する。一瞬、操り人形に見えてしまう。最近のゲームでは、こういう場面でもなめらかにアニメーションが繋がるようになっているのだが……。『スカイウォードソード』の時代では、そういうアニメーションの作りをまだやっていなかったのか、ということに驚く。HD版であっても、そういう最新のアニメーション技術を採用していなかったことが意外。

 それ以上に良くないのは、イベントムービー中の演出。とにかく動きが少ない。止め絵ばかりで動きのない、ダメなテレビアニメでも見ているよう。ポーズを決めて、とにかく動かない。
 ついでに構図も悪い。印象に残る画、というのはぜんぜん出てこない。この時代の任天堂はまだムービーシーンの構図やアニメーションにこだわってなかったんだな……。

 え! 今作では行けるエリアはフィローネ、オルディン、ラネールの3箇所しかないの!?
 冒険の舞台は思った以上に狭かった……。冒険のエリアは3つしかなく、その代わりにストーリーが進むと探索できるエリアが徐々に増えていく……という方法を採っている。
 このようにしたのは、たくさんの地域を作りすぎて、印象が薄くならないようにするため……とのことだが、逆に少なすぎて色んな地域を冒険した……という気分にならない。
 それに、それぞれの地域の「物語」も薄い。というのも、フィールド全体が「ゲームのため」に作られたエリアでしかない。アスレチックみたいな印象だ。アスレチックだから、数歩歩くたびにゲーム的な仕掛けが次々と配置されているのだけど、しかしそのエリアにいて、世界観や物語が感じられるか、文化的な奥行きを感じられるか……こういう「物語」としての要素があまりにも薄い。その空間に浸っていたい……という気分にさせない。あくまでも「ゲーム的な空間」であって、情緒に欠ける。

 とにかくも、引っかかるところが多い。ただ引っかかるだけではなく、ゲーム的な流れを寸断しちゃっている。微妙に展開が悪い。プレイをスムーズに進める工夫が、最新のゲームより薄い。ミスをした時、何度もやり直したい……という気分にさせない(こういうところは、プレイヤーの根性に依存している)。
 この作品が『ブレスオブザワイルド』の前作だった……というのがにわかに信じられない。『ブレスオブザワイルド』の進化が実はとんでもなかった……というのが、この一作でわかってしまう。

世界観を見る すでに伝説は始まっていた


 まず始めにスカイロフトという場所に驚いた。『ゼルダ』の歴史の中でも、もっとも古い時代……と聞いていたが、ここまで豊かに発展した文明が描かれたのは始めてではないか。
 まず、街の中心地に市場がある。市場があるということは、職能分離が進み、消費者文化が相応に発展しているということだ。ゲームをやっていると、歩き回れるエリア自体は少なく、住人も少ない印象だが、それは「ゲーム的事情」で省略されているというやつで、実際にはもっとたくさんの人があそこには住んでいるのだろう。

 なんと水洗トイレが!!?
 ということは下水が存在する? その下水を管理する黒子のような人物はどこにいるのだろう。こういうところはゲーム的事情で省略せず、むしろきちんと描いて欲しかったような気がする。

 この文明の豊かさはどういうことだろうか? ゴロン族おじさんのマルゴはこう語る。

「島に建っている建物はみんな黄金! 枯れることのない泉からは、聖なる水が川と流れ、飲めば不老長寿が手に入り、木には食べるだけで病気が治る果物! 畑にはずっと腐らないかぼちゃ! 島中色とりどりに咲き誇る花!」

 地上では天空の島が伝説として語られているから、いろいろ尾ひれは付いているが、ヒントはつかめる。

 事実として、水は非常に豊富。見ての通り、一つ上の島から、水がえんえん湧き出ている。
 水が無限に供給されている、ということは自然も豊かになる。文明の豊かさは自然の豊かさがなければ成立し得ないものだから、どうしてスカイロフトがここまで豊かな文明を築けたのかは水からわかってくる。
 「飲めば不老長寿」の水と言われているが、単純に「水質がいい」ということだろう。質のいい水を飲み、その水で育てた作物を食べれば、体は自然に丈夫になる。「食べるだけで病気が治る果物」というのも、栄養が豊富だからだろう。栄養豊富な食べ物を普段から食べていたら、普通に病気に強い体になる。ある意味で「病気が治る果物」と言われるとおりのものになる。女神による加護があるからこそ……かも知れないが、質のいい水と土があったから、スカイロフトが豊かな文明を築けたんだ……と推測できる。

 地上でもっとも進んだ文明を持っていたのは、ラネール地方だった。
 しかし高度な機械文明は、自然を猛烈に消費する。高度な機械文明を作ったものの、その文明を維持できず、自然の崩壊とともに文明も心中した……といったところだろう。世界中にありふれた「文明崩壊」のストーリーだ。
 ラネールは『ブレスオブザワイルド』時代では高低差が激しい山地で、水源も豊かな場所だったから、それがかつて砂漠だった……ということに驚く。

 もう一つ驚くのは『ゼルダ』史の始まりの物語であるのにかかわらず、“すでに始まっていた”ことだ。地上ではすでに人類の長い歴史があって、その歴史が一つ幕を閉じた後……その後の物語だった。
 ラネールでは機械亜人達が高度な文明を作り、自身をかたどった像をえんえん並べている。自身こそが神……という自負があったのだろう。いったいどういう種族だったのか、今となってはわからないが、相応の自尊心を持っていたことが遺跡から読み取れる。そして、ゆえに滅んだのだろう……ということも推測できる。
 ただし、機械亜人たちの文明は無駄にならず、天空のスカイロフトに断片的に受け継がれていく。スカイロフトは高度に発展した文明……という印象がないというか、むしろ素朴さを感じさせる空間であるにかかわらず、よくよく見ると不釣り合いに高い文明を持っているのは、機械亜人たちの文明を引き継いだからだろう(水洗トイレとか)。機械亜人の文明を引き継ぎつつ、しかし文明崩壊に陥らなかったのは、豊かな水源と土のおかげ。

 『ゼルダ』シリーズのハイラル王家の紋章といえば、「鳥」。しかしどうして鳥なんだろう……というのは前から引っかかっていた。かつて空を居住区としていて、そこでロフトバードという鳥とともに過ごしていた。しかもそれはハイラル王家誕生の秘話と直接結びついていた。ロフトバードはその後、どうやら絶滅したが、その記憶が「鳥」の紋章に残っていったのだろう。

 もう一つ、見過ごすわけに行かないのが、シーカー族のサインだ。なんとハイラル王家成立以前から存在していた。シーカー族のインパは、スカイロフトの人々が忘れてしまっていた「女神の教え」を継承し続けている人物であるから、シーカー族のサインは同じくらい古いものと推測できる。

 シーカー族のサインと技術は、ハイラル王家よりもさらに古い歴史を持っている。しかしハイラル王家が権力を持った後、シーカー族は解散を命じられる。

 ちなみに、こちらがシーカー族追放の場面を記したタペストリー。攻略本の表紙をスキャンしたものなので、文字が入っているが気にしないように。
 追放されたシーカー族が、やがて女神像の庇護の下に入った一団と、反逆者になった一団が描かれている。技術を捨てて体術を極めた一団と、反逆者となった一団だ。イーガ団が生まれる切っ掛けを作ったのは、他ならぬハイラル王家自身だった……ということがわかる。

 『時のオカリナ』以来、オルディン山地に住んでいる種族……といえばゴロン族だったが、今作ではモグマ族が住んでいる。誰だお前!
 この時代ではゴロン族は、まだオルディン山地には住んでいなかった。作品の中で描かれていないどこかに住んでいたのだろう。それがやがてオルディン山地が居住区として最適……と気付き、移住し繁殖し新たな文化を築いていったのだろう。そうなる以前のお話しである。
 ではモグマ族はその後どうなったのか? 『スカイウォードソード』以降、まったく姿が描かれない……ということは、ハイラル地方から完全に去ったか、完全に滅んだかのどちらか。 ただ、モグマ族は住んでいると言っても、簡単なねぐらを作る程度で、「村」のようなコミュニティは作ってない。その当時はお宝が豊富なオルディン地方に住み着いていた……というように見える。
 しかしやがてゴロン族がオルディン地方にやって来るわけだから、そこでもしかしたら戦争が……。詳しく描かれないからこそ、いろいろ想像の余地はある。

 ところで、オープニングムービーの中に、気になる部分がある。

「女神様は邪悪なる者から万能の力を守る為、生き残った人間を乗せ、大地を天に浮かべたのです・・・。魔の手が及ばぬ場所・・・雲海の向こう、高き空の果てに。そして女神様と亜の者達は命を賭して戦い、邪悪を封印し・・・大地は再び静寂の日々を取り戻したのです」

 つまり、物語が始まる前に“始まりの戦い”がかつての時代にあったのだが、その戦いに人間達は参加していない。地上に人間が1人も描かれないのは、すでに避難した後だったから。
 邪悪な存在との大戦争はこの後。この時に、自然が荒廃し、文明もずいぶん後退したのだろう。地上の文明がことごとく荒廃した理由は、邪悪な何者かとの大戦争があり、その後復帰できなかったから……と推測できる。

 『スカイウォードソード』のゲームとしての案内役はもちろんファイだが……実はこの人、“謎の人物”でもある。物語の冒頭から、あたかもすべてを知っている……という感じで出てくるが、肝心のファイ自身が何者なのか……という説明が最後まで出てこない。
 私は一時、「こいつ、実は敵なんじゃないか」……と疑っていたくらい。

 すこし、推測してみよう。
 ゼルダの声優だが、今作では嶋村侑が演じている。なんと『ブレスオブザワイルド』のゼルダ姫と同じ声優(きちんと輪廻転生したようだ)。ファイも同じく嶋村侑が演じている。

 登場シーンを振り返ってみよう。
 ゼルダが黒い竜巻に飲み込まれた直後、ファイが登場している。
 その後、再びゼルダが登場するが、その場面ではファイは登場しない。

 その後のシーンをずっと見ていても、ゼルダとファイが一緒に登場している場面はたぶんない(記憶違いでなければ)。
 ここから推測するに、ファイも女神自身の属性を多分に引き継いだ存在なのだろう。

 ファイの姿でもう一つ引っかかるのは、宿敵ギラヒムのこの姿。

 そっくりだしょ?
 ファイとギラヒムが似ているのには理由があって、ギラヒムも実は剣の化身。
 同じ属性だから、あえて似通ったキャラクターデザインにしている……というのもあるが、これはラスボスが持っている剣は、マスターソードと対になっている、ということの比喩でもある。女神とラスボスは、陰と陽の関係だった。もしも『ゼルダ』の世界観が陰陽道的な世界観であった場合、女神という陽の存在がいたから、邪悪なる者も同時に出現してしまった……ということになる。

 今作のゼルダは、“女神が直接転生した存在”ということになっている。「初代ゼルダ」ということだ。
 なぜ女神は転生し、邪悪なる者は転生ではなく復活だったのか。
 簡単な推測では、女神はその時代に死んで、邪悪なるものは死なずに封印されたから。
 かつての戦いでは、女神自身が剣を手に持ち、戦う存在だったのだろう。しかし転生後のゼルダに、戦う力はなかった。戦う力が継承されたのはリンクのほう。これはどういうことだったのか……女神の属性が二つに分かれてそうなったのか、そもそも「女神と騎士」という2つの存在だったのか……。この辺りは、『スカイウォードソード』のさらなる過去が描かれない限り、わからない。

 『スカイウォードソード』の戦いの最後、ゼルダとリンクは呪いを受けてしまう。邪悪なる者はこの後も復活し続ける。ゼルダとリンクも休まる時はなく、戦うために永久に輪廻転生し続ける。

 多分、この時呪いを受けたのは、ゼルダとリンクだけじゃないんだろう。おそらくは、この時代に生きている人全員が呪いを受けている。この後のシリーズで、なぜかよく似た顔の人に出くわすのは、全員が呪いを受けて、転生し続けているからだろう。

 『時のオカリナ』のように、時代があまりにも荒廃し、ふさわしい人間が生まれてこなかったら、動物になって転生してしまう人もいる。
 「ワシ、今期はフクロウなのか……」みたいに……いや、前世の記憶はないから、そう思うこともないか。

 転生するたびに、毎回同じ姿になるというわけではない……。
 例えばオルディン地方の「大地の神殿」。ここに入ると、様々な動物をかたどった色彩豊かな彫像が並べられている。オルディン地方はかつてかなり豊かで、たくさんの種類の動物がいた……ということがここからわかる。神殿全体が溶岩に浸っているが、当然ながら建造された時代から溶岩があったわけはない。生態系豊かな土地だったが、やがて火山の噴火によってすべてが一瞬にして滅んだ……といったところだろう。
 その最奥へ入っていくと、巨大な蛇を思わせる骨が飾られている。さらに龍を思わせる巨大な彫像も。

 しかし、実際のオルディンは、この姿。どういうこと!?

 『ブレスオブザワイルド』でのオルディン。
 たぶん、どっちもオルディンなのだろう。『スカイウォードソード』のような姿をしている時もある。ある時は完全に龍の姿をしているし、ある時はすこし擬人化したような姿もしている。どちらの姿にもなれる存在なのだろう。

 『スカイウォードソード』は「ゼルダの歴史」の始まりが描かれる……という話を聞いていたが、実際にはすでに始まっていた。すでに女神の伝説と、邪悪なる何者かの闘争の伝説は始まっていた。
 そうなると見てみたいのは、本当の始まりの物語。伝説なるものが生まれる以前の物語。『スカイウォードソード』よりもさらに前。そこでどんな戦いがあったのか……いつかそれが描かれる時を願おう。

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