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11月24日 そのキャラクターもっと細くない?

 前回の『ガールズ&パンツァー』の感想文を書いた時、「美少女の虚像性と設定」みたいな話をしたけど、それに微妙にまつわっている話。

 アニメの美少女のウエストって、どれも大抵50~60の範囲内に設定されている。現実的に、まああり得るかな……という数字が割り当てられているが……。
 いや、もっと細くない?

あまんちゅ 10話 (26)

 『あまんちゅ』の小日向光。
 『あまんちゅ』は出てくる女の子みんなとってもセクシー。かといって過度に性的にもなっていない。ほどよく爽やかな色気に満たされた作品。良い作品です。出てくる女の子はみんな細い!

ゆゆ式 3話 ゆいの水着

 みんな大好き『ゆゆ式』。登場キャラクターはみんな細い! 肩幅も狭いし、ウエストも細いし、足もとっても細い! そして可愛い!

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 体が細いといえば初音ミクさん。ウエスト30センチくらいじゃない?

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 こちらは『けいおん!』等身大ポップ。某所で私が撮影したもの。
 『けいおん!』は素晴らしい作品で、美少女キャラクターのデフォルメ表現について新たな見せ方を提示した作品。女の子の微妙な足の太さや、O脚といった身体的特徴を、可愛らしいデフォルメ表現で示し、後の色んな作品に影響を与えた。
 等身大ポップと実際に向き合うと、ちょっと不思議な気分になる。実際スケールなのに、なぜか小さく見える。リアルな人間とバランスが違うことがわかる。

2021年5月29日挿絵4体まとめ

 こちらを描いたのは私(忘れられがちだが、私は昔、絵描きをやっていた)。一見するとリアルな感じに見えるが、でもよくよく見ると頭部が大きすぎ。首長過ぎ。ウエストも細すぎ。
 細かいパーツがリアルに描かれているから、それに引っ張られて、全体的にリアルな雰囲気に見えてしまうが、実はよくあるアニメキャラ・テンプレートスタイルにきちんと基づいて描かれている。なんでも描き方次第……だ。

 全てのアニメ・漫画のキャラクター達が身体の正確な数字設定を公開しているわけではないけれども、数字設定を出している作品も多い。でも、その数字設定と、キャラ絵……なんか違わなくない? 絵ではみんなものすごく細く描かれるのに、数字設定を見るとわりと普通……ってなことがよくある。絵を見ると「これZカップ越えてるだろ」という巨乳でも、設定を見るとEカップとなっていて、「いやいやいやいや……」とかなることも……。
 『けいおん!』の等身大ポップなんかを見てみると、キャラクターを設定通りのサイズにスケールアップしても、やっぱり現実の人間のプロポーションとまるっきり違う(でもやっぱり可愛いんだわ)。アニメキャラクター達を現実スケールに引っ張り出して、正確にウエストを測ったら、まあウエスト40とか、それ以下のキャラクター達が一杯出てくることでしょう。
 なのでアニメキャラクターの設定で唯一重要なのは「身長設定」のみであって、他の設定(バスト・ウエスト・体脂肪率その他)が記載されている設定通りキャラ絵に反映されて描かれることは非常に少ない。というか、そういう実例はないかもしれない。

 ここで現実的な数字設定を当てはめておく……ということが、キャラクターのリアリティを維持する方法でもある。実際のキャラ絵通りに、「ウエスト40」とか設定として出しちゃったら、「いや、それは現実にはあり得ない」という意識が働く。「それは現実的ではない」と思うと、その時点でそのキャラクターを信じることができなくなってくる。
 キャラクターの描き分けでも、数字設定通りの細さ・太さを描き分けたりしない。だいたい一つのアニメの中で描かれるキャラクターのプロポーションはみんな一緒。女の子キャラクターの場合、描き分けられる要素といったら、せいぜいオッパイのサイズくらいなもんである。
(なので、アニメのキャラクターが「最近太った?」といった話題をすると不思議な感じになる。そこで描き分けされることがない。他キャラクター達とどう見ても一緒じゃない……となる。こういうのも設定上の話でしかない。実際には太っていないのだ)
 人間は不思議なもので、キャラクター絵のイメージは受け入れるけれど、そこに付与されている「設定」が現実的かどうかはかなり厳しく審査しがちである。要するに、誰もイメージと「設定」の齟齬が起きていることを気にしていないのだ。(それはイメージが違和感なく成立しているから……でもあるけど)

 キャラクターのイメージ絵は、あくまでもイメージでしかない。リアルな人間像ではなく、理想型である。しかし数字設定までも非現実的だと、そのキャラクターが現実的に存在する……という意識が生まれにくい。だから数字設定は現実的に設定しておく。人間はイメージではなく、数字で現実的かどうかを推し量る性質を持っていることがここでわかってくる。
 アニメのキャラクターを愛でている人々も、イメージを見ながら、「こんな巨乳がCカップなわけないだろ」とか思ってはいる。でもどこか、現実的な数字で示されている「設定」に安心感を得ている。ああ、この子は現実にありえる「設定」として描かれているんだ、と。
 でもキャラクターイメージを見ていると、リアルとの齟齬はやっぱり気にはなるもの。描いているほうからすると、「こんなウエスト細くて、設定52とかあり得ないんだけどな……」とか思ったりはしている。
 もはや、そういう自覚もなしにキャラクターを描いている人もわりといるけれども……。

 作り手も実はなんとなくのイメージで描いているんじゃないの……? という根拠は漫画やアニメでよくあるシーン。
 成人女性が、部屋を整理していると、高校時代の制服を見付けて「懐かしー、ちょっと着てみようかしら」……でも高校時代の制服はぜんぜん体に合わなくてキツい……というシーン。
 では13歳からの女子の平均身長を順番に見ていこう。
 13歳 155.1センチ
 14歳 156.8センチ
 15歳 157.3センチ
 16歳 157.7センチ
 17歳 158.1センチ
 おわかりいただけたであろうか。女子の成長期って、(成長期が早いから)実は12歳から13歳あたりで完了し、その後ほぼ成長しないのだ。18歳以上の成人女性の平均身長も158センチなので、高校1年あたりから体格はほぼ変わらない。
 だから、学生時代の制服を着てみて、キツい……というシーンはウソ。なんだったら中学生時代の服も人によっては着られてしまう。もしもキツい、というなら、それは単に「太った」というだけの話。

 世の中にはアニメの虚構性をとことん廃して、現実的に描かれた作品……というのもございまして……。

惡の華 8話 (27)

 アニメ『悪の華』です。実際の俳優に演じてもらって、それを線画で書き起こす、「ロトスコープ」という手法で作られた作品。めちゃくちゃな労作。
 現実的に見ると佐伯奈々子役の女優さんはなかなかの美少女なのだけれど、普段アニメになれてしまっている目で見ると、肩幅が広すぎ、ウエストも太すぎ……に見えてしまう。(冷静に見るといたって普通の体型なのだが)
 アニメから虚構性を廃し、数字設定通りにキャラクターを正確に描くと『悪の華』っぽくなっちゃう。『悪の華』までリアリティを打ち出してしまうと、ぜんぜんアニメの虚構性や理想が現れない。やっぱり、普段のアニメ絵のほうが可愛いよ……となる。正確に描くことは、表現として正しいわけじゃない。

 さてイメージか、現実的な設定か……。
 もういっそ、見た目のイメージ通りに設定を作っちゃうという開き直りもありかな……とかも思ったりもする。「ウエスト40、バストZZZZカップ」とか……。それをやってしまうと「リアリティがない」とか言われるんだけど。イメージの時点で、すでにリアリティなんぞないんだけどな……。
 アニメキャラクターを現実的な世界に押しとどめるために、「設定」なるものは必要なのだ。



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