見出し画像

2月12日 Netflixが日本のアニメーター育成に支援するそうです

日本経済新聞:Netflix、日本でアニメーターの育成支援

米動画配信大手のネットフリックスは12日、日本でアニメーター育成支援を始めると発表した。提携を結んでいるアニメ制作会社、ウィットスタジオ(東京都武蔵野市)が4月に開くアニメーター育成塾のカリキュラムを監修し、受講生の生活費と授業料を負担する。

IGN:Netflix支援のもとWIT STUDIOがアニメーターの育成プログラムを開講 60万円相当の受講料と月15万円の生活費を支援

 内容一緒ですが、こちらはお金を払わなくても読める記事ですので……。

 「Netflixがアニメーターの教育に投資する」というかなりビックリする記事。
 記事を読むと主催はWITSTUDIOで、募集定員は10名前後となっている。ということは、代々木アニメーション学院みたいな専門学校と違って、かなりしっかりとした「精鋭」を育てようという意図が見えてくる。たぶん、この塾に入ること自体、狭き門だと思われる。

 専門学校は「とりあえずの頭数」を揃えるだけの場所で、ああいったところを卒業した人が業界に残るのは数パーセント。そういういい加減なやり方ではなく、きちんとした残る人材を育てよう……という趣旨なのだろうと思う。それで、募集人数も10数人とごく少数。

 アニメーターというのはだいたい1年~2年で大半はやめてしまう。それは仕事のキツさと給料の低さ。そもそも、アニメーター1年目2年目というのは、まともな社会生活ができないことが前提となっている。
 色んな問題はあるかと思うが、アニメーターは薄給とはいえ、昔はそれで生活することが可能だった。ところが社会というのは少しずつインフレを起こして物価は上がっていく物だし、お仕事の賃金体制は変わっていく物……。しかしアニメーターという仕事だけが、そうした社会の変動から切り離されてしまった。手塚治虫がシステムを作り上げて以降60年間、時代に対応して変化しなかったことが今にまで残る問題だった。

 私が業界内部を一番よく知っている頃というのは2000年代初頭だが、この頃でも「アニメーターになるには親の資産に頼るか、バイトして給料稼いでおけ」と言われていた。アニメーターの低賃金を社会の側からどうにかするのではなく、それぞれ個人で、20になってそこそこの若者に独力でどうにかしろ、と無茶を要求することが普通になっていた。親を頼れ。金を用意しておけ……となぜか駆け出しで一番大変な人たちの方へ負担を掛ける方向に傾いていた。どう考えてもおかしいのだが、それが業界に送る“常識”となり、それに対応するのが“当たり前”……という状況になっていた。“常識”で“当たり前”だからそれに疑問を持つことの方がおかしい、疑問を持ってはならない……みたいな感覚だった。
 それで親から支援が得られなくて仕事を辞めていく人や、バイトばかりでそのうちそっちのほうへ行ってしまって辞めてしまう人や……様々だった。生活するのも大変なのに技術も磨け……というのは完全なる無茶ぶり。アニメーターが職業として定着しないのは、当たり前でしょ……という状況が続いた。いや、続いている。それでも生き残れるアニメーターは逆にどうやって生き残っているのか、わからないくらい。よほど先天的な素質に恵まれてなければ、生存不能の業界になっていた。
 こんな体制が続いていたら、アニメーターの質も落ちるのも当然。

 若い人がアニメーターをやめてしまう初期の数年を、金銭的に支援してもらえる。授業料のみならず、生活費も支給。こんなありがたいことはない。

 で、こういう支援システムは日本でもちらほらやっていたりはするのだけど、それが今回、Netflix……海外の企業が来てしまった、という驚き。

 Netflixがどうしてアニメーター育成に協力するのかというと、Netflix発信の日本のアニメは再生数が取れるから。
 こういうと、「日本のアニメは日本人にしか興味はない! 世界で視聴されているなんてウソだ!」という輩が必ず出てくる。
 Netflixは再生数を明らかにしてくれないが、日本のアニメは世界的に視聴されている。視聴帯で見ると、日本より海外の方が多く視聴されている。私は個人的に『ジョジョの奇妙な冒険』のラジオ番組を聴いているのだが、最近は「世界中のありとあらゆる国からメールが来ている!」ということが毎回紹介されている。私はこれもNetflix効果だと思っている。
(Netflixに限らず、最近はクランチロールなど「公式」の動画配信サイトが増えてきた。色んな国で、色んな言語でアニメを見られる環境は整っている。そうしたところでアニメを視聴している人たちは多い)
 Netflixは毎年、日本のアニメに10億や20億といった金を出してオリジナル作品を制作している(あまり面白い作品はないのだけど)。それだけ期待を掛けるほどに売れている……と考えて貰いたい。もしも「日本のアニメは日本人しか見ていない!」というのだったら、なんで海外企業が投資するんだい? という話だ。
 Netflixにとって日本のアニメは再生数が取れる、会員数を増やせる財産であるから、それを制作するアニメーターの育成を支援する。とても理に適っている。優秀なアニメーター育成に支援して、良い作品を作ってもらい、それをNetflixで配信すれば自分の所に利益が来る。アニメーターは最初の数年がしんどいのだから、支援して貰えるのはありがたい。両者ともに良いことだらけだ。

 Netflixはこれまでアニメの作品そのものに投資してきたわけだけど、そこから一歩進んで、アニメーター育成にもお金を出すようになってきた。Netflixがそこまで日本のアニメの現状を理解している……ということが窺える。
 アメリカ型の投資というのはすでにできあがっている物の上澄みだけを買い、利益を出さなくなれば手放す、というやり方だ。関心があるのはその瞬間「金」を生み出すか否か。“育てる”ということは基本的にしない。
 でもNetflixは“後進の育成”にまで視野を伸ばし、そこに関心を持って投資を始めた。ここまで来ると、日本のどの起業でもできなかったこと、やろうとしなかったことに手を伸ばしてきている……といえる。日本は何をやってるんだ……と文句の一つ二つ言いたくなる。
 日本側からしてみれば、こんなふうにお金を出してくれるのはただただありがたいというしかないわけだから、こんな申し出があれば当然引き受ける。だって、アニメの業界、みんな貧乏なんだもの。

 当然ながら、Netflixの後進育成への投資は今年だけで終わりじゃないだろう。今後も続いて、そのうちにも「Netflixで育ったアニメーター」が業界にぽつぽつと生まれてくるだろう。「Netflixの子供達」だ。
 初年度は10人だが、10年も続ければ100人。専門学校上がりのテキトーな人材100人だったら別にウンコなのでどうでもいいが、きっちり育て上げられ、確実に業界に残る優秀な100人。それだけでも戦力は非常に大きい。将来のアニメーションの質向上に貢献するだろう。

 ただし、一つ懸念もあって……もしかするとここの卒業生は自由に仕事を選べない可能性がちょっとだけある。アメリカの企業がタダで投資してくれるわけないので、就職後はNetflixオリジナルアニメの仕事ばかり……になっている可能性がちらっとある。というのもこの教室卒業後はすでに進路も決まっている。ひょっとすると仕事内容も……?
 Netflixは自分たちにとって意になりやすい新人を育てている……のかもしれない。
 この辺りは確定の話でもないのでわからないが、どうでもいいような深夜アニメを制作するくらいなら、案外それでもよかったりするかも知れないしね。


とらつぐみのnoteはすべて無料で公開しています。 しかし活動を続けていくためには皆様の支援が必要です。どうか支援をお願いします。