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7月7日 『Splatoon』の背景描写から見える世界観

前回

 では、ここから『Splatoon』のゲーム中に示されているものから、このゲームの世界観がどうなっているのか、を推測してみよう。

 『Splatoon2』のオクトパスエキスパッションでは、普段インクリング達が生活しているエリアの地下部分が舞台となっている。ローマでは人々が生活している街の下に「古代の街」が眠っている。昔作った町の上に、道路を埋め立ててさらに街を作っている。そんな立地だから、ローマでは地下鉄の建造が非常に困難という事情を抱えている……という話はさておき(現在はローマの街に地下鉄は普通に運営してますし)。『Splatoon』でも実は同じような状況にある。ただし、問題なのはこの「地下の世界」が誰によって建造された世界だったのか?

 残されているものから考えてみるとしよう。
 まずは地下世界のドア。やたらとでかい。このドアが、私たち時代のドアと同じものだと考えると、ドアノブまでの高さは85センチ。この画像から仮定すると、インクリングの身長はだいたい40センチくらい。意外と小さい。

 ただし、地下世界の遺物はすべて巨大というわけではない。でかいものもあれば、インクイングたちにとってちょうどいいサイズ感のものも存在する。どうしてこんなにゴチャゴチャな縮尺なのか?

 電車のサイズ感も、だいたいインクリング達にとって都合のいいサイズ感に作られている。

 縮尺がゴチャゴチャになっている理由は、ちょっと保留にしておくとして、こちらの画像を見て頂きたい。

 場所はデボン海洋博物館。ここでインクリング達の貴重な歴史を読むことができる。

 インクリングにとっての、古代の石版。4対4にわかれ、勝敗を決める……というゲームはすでに行われていたことがわかる。上部分にリスポーン地点が描かれていることから、インクリングは性質的にここにジャンプするということがわかる。
(この画像の鮮明なものが、スプラトゥーンベースの「イカとタコの歴史」の中にも掲載されている)
 ただ、これがいつ頃のものかはわからないが……。

 実は人類と思われる骨格も展示されている。
 ステージエリア外なので、思い切って飛び出してみよう。

 この距離感に関わらず、人類の骨格はあれだけ大きく見える……。ということは、インクリング達は非常に小さい……ということがここでも推測できる。

 再び『オクトパスエキスパッション』を見てみよう。
 ネタバレになるが、『オクトパスエキスパッション』のクライマックスで、人類が登場する。といっても、人類を象ったもの。人類が石像で現され、しかも滅茶苦茶に巨大……ということは、人類が滅んでしまったこの時代においては、人類は「崇められる存在」になっている、ということがわかる。
 神様とはなんなのか? 以前ちょっと触れたけど、神様というのは死んだ人のことではないかと推測される。例えばアイルランド神話における『ティル・ナ・ノーグ』とは、はっきりと後から入植してきた人が、海の底に追いやった人たち……と伝えられている。つまり自分たちが殺した人たちを神様と崇めていた。この例に限らず、神様はすでに死んだり、殺されたりした人たちが、生存した人たちに祀られることによって神様になる。そうやって「神様」は生まれてくるのではないか。
 というわけで、私たち人類は、インクリングの時代では立派に神様になれたわけだ。やったぜ。私たちはホモ・デウスの時代を超えて、本当の神様になれたんだ。

 では人類はいつ頃滅んだのか?
 タルタル総帥が語るところによると、1万2000年前であるという。
 1万2000年前……。すると大昔というわけではない。人類がアフリカを脱出したのが10万年前、農耕文明を発明したのが1万2000年前……と語られているから、インクリング達はずっと短い期間で、現在のような高度工業社会文明を築き上げた……ということがわかる。

 イカ達は人類滅亡後、自然な進化で地上に上がってきた……というわけではなく、人類による遺伝子操作で生まれてきたものだろう。
 タルタル総帥は「博士の命を受けて1万2000年の間、ずっと貴様らのデータを収集してイタ…」と語っている。ということは、博士が在命していた時には、すでにインクリングは地上に上がっていた。人類は滅亡前にインクリングたちの姿を確認し、AIに監視するように命じている。
 高度工業化文明が絶頂の最中に、人類以外の知能生命体が姿を現す……というのは考えにくい。人類は自然界のあらゆるものを家畜化していった。自然の中でそういう兆候が現れかけても、人類が攻撃し、その芽を潰してしまうだろう。あり得るとしたら人類が自ら作り上げ、密かに野に放ち、その後の経過を見守る……というケース。
 人類が生存していた時代の末期は、海面が上昇していて、いよいよ哺乳類が生存が可能な限界を迎えようとしていた。生物種が生きて暮らすためには食料が必要で、その食料を生産するためには一定の“土地”が必要で、しかしその土地がほとんどなく、残された土地も荒廃してしまって食料生産に向かない状態になっていった。人類は高度文明を築いていたがゆえに、ある時一斉にバタバタと崩壊していった。人類は認知能力に欠陥があり、現代のような高度文明を築いてしまうと、食糧問題は知っていたとしても現実的な問題だと認識できなくなってしまう。どこか遠い国の話だと誤認してしまう……それが認知能力に欠陥があるためだ。文明社会はやたらと人が一杯いる世界だから、そういった世界で突如食糧を確保ができない事態に陥ると、ゆっくり人口が減っていくのではなく、ある瞬間一気にバタバタと死んでいく(おそらくは、そうなるという事態も予測できたが自覚できなかっただろう)。末期時代に急転直下のカタストロフを迎えたのだ。

 そういった「いよいよ人類はダメだ」というのを察した時、科学者達はAIに記憶を託し、その後の未来を託した。それから、なぜかジャッジ猫もその後の時代を生き残れるようにコールドスリープした。ジャッジ猫が目覚めたのは、人類が滅んでから1万年後……と語られている。じゃあ、あの猫、いったい何年生きているのだろうか……。ジャッジ猫も、おそらく遺伝子操作された何かであろう。

 それはともかく、間もなくインクリングは地上で生活するようになっていった。インクリングは地上生活を引き換えに、海には入れなくなってしまう。水が苦手になってしまい、水に潜ると溺れてはじけ飛んで……その後復活するという奇妙な体質を獲得する。それが「ナワバリバトル」を生み出していく切っ掛けになるわけだが……。
 すぐに脱線する!
 地上に出てきたインクリングは“古代人の生活”を始める。その時の記憶が石版として残されているのが、デボン海洋博物館で展示されている。インクリングの手による土偶も残されている。
 インクリングはどうやって文明を作り出してきたのか……それは人類が残していったものを参考にした。その時のインクリングの文明観で理解できるものを選び取って、文明の「インクリング版」を作っていった。初期の頃は、人類が古代時代と同じものを作っていた。なぜなら、それこそがその時代のインクリングたちにとって“理解できるもの”だったからだ。
 土偶はなんなのか……最近では「木の実」をベースにしたものだったんじゃないか説が出てきて、おそらくそのあたりが正解だろう。土偶はなんなのか、色んな人が色んな仮説を出してきて、ようやく……古代史研究が始まって100年経ってようやく答えに行き当たることができた。中途半端な文明人になると、自分たちが過去に作り出してきたものがなんなのか、わからなくなってしまうものなのだ。
 しかし、文明初期の人たちであれば、むしろ逆に土偶のようなものがなんなのか理解できる。初期のインクリング達は、残されていた土偶や原始的な道具を見て、「おっ、これはいいな」と模倣したのだろう。

 間もなくインクリングは、人類文明の残してきた色んなものを理解し、それを模倣して道具を作り始める。インクリングがこうも早く高度工業化文明を獲得できたのは、こういう理由だろう。
 いわゆる「後進国」と呼ばれる国は、ある時経済援助を受けて、いきなりな発展を遂げることがある。例えば、戦争で荒廃したベトナムは、その後の20年ほどで高層ビルが建ち並ぶ高度経済都市を作り上げてしまった。他にも、数十年前までは「やや遅れた国」だったのに、技術支援を受けてデジタルインフラが導入され、突如日本以上の「デジタル国家」になってしまうような国もある。
 こんなふうに、「学ぶもの」が横にある状態だと、文明発展の速度というのは一段飛ばしで一気に跳ね上がる……ということが起こりうる。インクリング達もある時までは土偶を作っていたが、あるとき急に高度文明の仕組みを理解できるようになって、それを模倣した世界を作り始めたのだろう。
 しかし問題がある。
 高度な文明の遺物ほど、後世に残りづらい。例えば、「銅鐸」は残っている。銅で生成されたものは長く残る。しかし「鉄」で作られたものは早々に朽ちてしまう。おそらく、古代文明も鉄の精錬していたと考えられるが、ほとんど残っていない。「鉄鐸」も作られていると考えられているがそれが残っておらず、ある種レプリカ的な存在だった「銅鐸」が残っているのはそういう理由である。
 人類文明が作り上げたより高度なものほど、1万年後の世界にはほとんど残っていない。ではインクリング達は、何を参考に、文明の復元を行ったのか?

 もしかしたらそれを解き明かすかも知れないヒントは……。

 そのヒントは……これだ!(『逆転裁判』っぽく)
 地下に潜っていくと、ずいぶん古いものが不思議な状態で保存されている。これがなんなのかは、とうとうわからないままだったが……。
 仮説を挙げるとしたら、これが人類文明が最後の時代に作った「タイムカプセル」。インクリング達はここからいろんな道具や文化的なものを学んで、再現し、文明を作った。インクリングの文明が、機能面だけではなく見た目まで私たち文化によく似ているのは、そういう理由だろう。

 では最初の問題。
 どうして地下に作られた駅は、大きさがゴチャゴチャになっていたのか。明らかに旧世代の大きさのものと、新世代の大きさのものとが共存している。この理由はなんなのか?  仮説は――おそらくインクリング文明の初期時代の頃、人類文明が残したものを参考に作っていた。一部では忠実に、一部では自分たち向けにアレンジして。人類文明を再現しているだけのフェーズの頃は、それがなんなのかわからなかった。とりあえず模倣し、作ってみた。作って設置してみて、「あ、やたらと大きい! ……でもまあいいか」みたいになった。
 作ったのはイカ達ではなく、主にタコたちだろう。イカ達がこんなふうに器用にモノを作るところは想像しづらい。地上の文明も大半はタコたちが作った。それを、最終的にイカ達が独占した……というのは、タコたちにとって納得がいかなかっただろう。

 それはさておき、そうやって作り上げた、「フェーズ1」の文明は、やがて使い勝手があまり良くないことに気付き、埋め立て、なかったことにして、その上に新しい文明を作り上げた。「フェーズ2」の文明は、完全に自分たちに向けて作り上げた文明だ。
 ローマが大昔の遺跡を埋め立てて、その上に現在の都市を築いたように。
 イカ達は天性のおおらかさ……いや、記憶力のなさゆえに、地下世界のことは忘れてしまった。

 それはともかく、地底に追いやられたタコたちは、やがてテロリスト化してDJタコワサ率いるタコ軍団がイカ達にテロ行為を仕掛けるようになる。
 が、イカたちはそんな過去などすっかり忘れていて……。タコたちが真面目で賢いがゆえに、猛烈な恨みを抱えてタコ軍団になっていったのだが……しかしイカ達は何も気にすることもなく脳天気に日々を過ごしているのだった。
 そんなしょーもない、そして『Splatoon』らしいお話が、この物語だった。

 最後に残された謎はクマサン商会率いる「サーモンラン」。ゲーム自体は楽しいのだけど、今もって何をやらされているのかさっぱりわからない。あの木彫りのクマサンは何者なのか? 略奪した金イクラは何に使われているのか??
 この辺りも第3作目のテーマとして掘り下げられるんじゃないか……ということで期待しよう。


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