300_スリーハンドレッド___帝国の進撃_409-l2

10月映画感想 300〈スリーハンドレッド〉 ~帝国の進撃~

 この映画に何が足りないかと言えば、筋肉。圧倒的筋肉不足の映画だ。

 あの神話的な映画『300』の続編。てっきりあの後のできごとが描かれるのかと思っていたら、その前後の物語。「灼熱の門」での戦いと同じ時、別の場所で起きていた戦いが描かれる。
 というその本編に入る前に、10年前の戦いから描かれ、神王ことクセルクセス王誕生の秘話……これが15分ほど。次にエヴァ・グリーン演じる影の王ことアルテミシア誕生の秘話が15分ほど描かれ、本編はそれから。
 時間軸があっちこっちに行ったり来たりするので、本編がどこだかわからなくなるし、誰を中心に物語を追っていけばいいのか、しばらくわからないまま。展開がまったく整理されておらず、意味もなくわかりづらい。

 画作りだけども……ザック・スナイダー監督の『300』はこうだったかな。というのも、いうほど画作りに力強さを感じなくて。『300』の画作りは堂々たるウソ、ただし途方もなく美しく、圧倒するような絵画的なウソ――伝承で語られている物語を、現代的な視点を一切挟まず、そのまんま描きましたという……それがむしろ逆に、「たった300人で数万人の兵団を押し留めた」というウソのような史実にリアリティを与えていた(しかもその300人の兵士は、真っ裸だ)。それにその戦い、戦いぶりと戦士達の姿がどこまでも美しかった。レオニダス王の勇壮ぶりには、ちょっと惚れてしまうくらい。

 今回の『帝国の進撃』も同様の方向性を持って描かれているのだが、どうにもよくできた偽物を見ているような感じになる。確かに思い切った絵画的なウソで描かれているのだが、構図の一つ一つがさほど美しくない。
 特に気になったのは、背景の絵と人間の肌色の不調和。スパルタの街のシーン……ここでは雲間から光が射し込み、埃がキラキラ輝きながら辺りを舞っている……というアニメのような作りで画が作られているのだが、背景の光の感触と人物の肌色が合っていない。浮いてしまって美しくない。
 それに人物……今回は「スパルタ軍本隊」ではなく、寄せ集めの一般市民による兵団……ということなのだが。装束は前作と同じく、裸にマントとパンツのみ(本当かどうかわからないが、史実ではフルチンだったそうだ)。前作は「裸が鎧です」と言わんばかりの全員が堂々たるマッチョ、それにレオニダス王の何とも言えない男臭い顔。裸にマントとパンツという変態じみた格好だったのにも関わらず、何だか納得してしまったし、あそこまでの堂々たるマッチョだとむしろ格好良くも感じた。
 が、今回はあまりにも筋肉が不足している。現代の、そこそこ体格のいい兄ちゃんがコスプレしてみました……という感じだし、そこそこの筋肉であの格好はただの変態。そういう設定だから……という前置きがあるものの、あまり見栄えがよろしくない。
 あと海戦が今回のメインだったわけだけど、一部のシーン……水飛沫が飛び交うシーンとかだが、妙に質感が軽い。ビデオっぽくなっていた。

 気になるところはあるものの、一部のシーン……特に血が飛び交う一部のシーンは非常に印象的。ものすごくかっこいい画はあった。今回は前作よりも惨殺シーン多めだが、そういったところで作り手の美学が現れているように思える。

 映画のちょうど中盤辺りに、“交渉”シーン……バトル・セックスシーンがある。セックスというか、ほとんどレスリングのようなシーンだ。
 印象的なシーンではあるが……必要だったかな? やるだけやって、結局は「断る」だもの。ただのヤリ逃げじゃん、あれ。
 エヴァ・グリーンのおっぱいはありがとうございます。

 この映画、結局は何がまずいかというとお話が面白くない。お話の流れがぜんぜん整理されていない。前半部分は誰が主役なのかわからないし、時間軸がどこだかわからないし。
 前半シーンを抜けて海戦シーンにはいるのだけども、ペルシャ軍が間抜けすぎて……アテナイ軍の船を追いかけていったら岩礁にぶつけて沈められて……ってそれくらいの地形はちゃんと把握しておけって話だし。
 役者にもあまり魅力はない。テミストクレスはマッチョと言えばマッチョだけど、裸にマント・パンツが似合うほどのマッチョではない。これが主役か……と思ってうーんとなる感じ。
 悪女アルテミシアを演じたエヴァ・グリーンはそこそこ魅力的だが、絵画的な背景に立って輝くか……というと微妙。
 この二人が戦う物語……なのだが展開を追いかけていって「燃える」かというとさほどでもなく。戦いの一つ一つにハラハラ感もないし、倒れていく仲間達の姿を見てもドラマ感もないし。いや、展開にちゃんと波はあるのだけど、追いかけていきたいと思えるほどの魅力を感じない。
 前作『300』はとことん「燃える」映画だったんだけどな……。燃え上がって叫びたくなるような、筋肉に喜びを感じる映画だった。筋肉万歳! ……だったんだが。やっぱり筋肉不足なのが残念。

10月13日

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