マガジンのカバー画像

ブログ:アニメの話

166
私の個人ブログの中から、アニメに関する話題のみをピックアップしました。
運営しているクリエイター

記事一覧

2月5日 コナミがアニメスタジオを作るそうです。その話を聞いて思ったこと。

 えー…コナミが独自にアニメーション会社を作りました……という話です。  私がアニメーターだった頃の話、コナミは業界の全アニメーターの「リスト」を作っていた……という話を聞いたことがある。私の先輩はそのリストを直接見て、自分の名前もあった……と話していた。  ……私の名前もあったのだろうか?  この話も十数年前の話になるから、今もリストがあるのかどうかわからない。とにかくも、コナミは実は意外とアニメ業界を見ていた、ということがわかるエピソードだ。  今回の話は、「表」の面

1月13日 孤独な天才。『ジブリと宮崎駿の2399日』の感想

 NHKの『ジブリと宮崎駿の2399日』を視聴した。いやぁ、録画してたの、すっかり忘れてた。  内容はすごく良かった。編集に凝ったドキュメンタリーで、現在の映像とアニメの映像、過去映像がパッチワークのように組み合わせて宮崎駿の現在地を表現している。この表現が現実とアニメの境界が崩れかけようとしている人……という印象をうまく表現できている。  ドキュメンタリーの大テーマは、2018年にこの世を去った高畑勲との関係。宮崎駿と高畑勲。ともに東映動画出身で、高畑勲のほうが6つ上の

11月1日 なぜアニメはブラックになるのか? それは儲からないから

 アニメの労働環境に関する興味深い記事が出てきたの紹介。  10月28日の講演だから、このブログ記事が載る頃にはまるまる1ヶ月が過ぎていることになる。  詳しい内容は、リンク元を読んでいただくとして……。  徳島県で開催されている大規模アニメイベント・マチ★アソビのなかで開催された舛本和也さんの講演会リポート。TRIGGERの現取締役の桝本和也の著書は、以前私のブログでも紹介した。こちらではアニメーション制作のなかの「制作進行」について解説されている。興味のある方はぜひ著

映画感想 長靴をはいた猫と9つの命

アメリカのアニメーションがアップデートされた瞬間。  『長靴をはいた猫と9つの命』はドリームワークス・アニメーション製作の『シュレック』シリーズのスピンオフ作品。実は2011年に『長靴をはいた猫』を主役にしたスピンオフ映画は制作されていた……知らなかった(いや、知っていたけど忘れてたのか?)。今作は11年ぶりに描かれた続編。「長靴を履いた猫」であるプスを主人公にした映画の2作目である。  監督はジョエル・クロフォード。絵コンテアーティストとしてキャリアをスタートし、2017

8月1日 YouTube見たらなんかやってた 『響け!ユーフォニアム《総集編》』

 7月の終わり頃、YouTubeを見たら京アニチャンネルから『響けユーフォニアム』が特別配信されていた。8月1日現在は……あ、もう配信終了しているのか。  配信されていたのは第1期の総集編『響け! ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ』、第2期の総集編『届けたいメロディ』、黄前久美子2年生編『誓いのフィナーレ』の3作品。いい機会だから、仕事終わりに一気視聴した。  まず1作目『北宇治高校吹奏楽部へようこそ』。第1シーズンがテレビ放送されていたのは2015年の春から。

映画感想 鹿の王 ユナと約束の旅

 日本最高アニメーター・安藤雅司第1回監督作品!  『鹿の王 ユナと約束の旅』は2022年公開のアニメーション映画だ。原作は上橋菜穂子による小説『鹿の王』。監督はジブリきっての実力アニメーター安藤雅司。『もののけ姫』をはじめとして『千と千尋の神隠し』『思い出のマーニー』などのジブリ作品で作画監督を務め、他にも今敏監督『東京ゴッドファーザー』『パプリカ』で作画監督、新海誠監督『君の名は。』で作画監督……我が国を代表する大ヒットアニメーション映画にはだいたい関わっているだけでは

映画感想 犬王

 室町時代にいたかもしれないロックスター。その名は犬王!  『犬王』は室町時代を舞台とした湯浅政明監督による5本目の劇場アニメーション作品だ。タイトルにもなっている「犬王」は15世紀頃、世阿弥と同時代に実在した猿楽の名手であるが、奇妙なことにほとんど記録に残されていない。Wikipediaで「犬王」を見ても、書かれているのはほんの数行。この謎めいた人物を題材にした作品が、古川日出男による小説『平家物語 犬王の巻』だ。湯浅政明監督のもとにオファーが来たとき、企画にロックアーテ

2023年春アニメ感想 水星の魔女 後編

 今シーズンアニメの中でも突出した存在感を発揮した『水星の魔女』。『ガンダム』シリーズがこんなふうに話題の中心になるのはいつぶりの話だろうか……。カジュアルなアニメファンの人気を獲得しつつ、『ガンダム』らしい奥行き感をしっかり備える。よくもこんな複雑な仕事をこなしたな……と素直に感心する。  私としてもテレビシリーズの『ガンダム』を見たのは実は十年ぶりくらい。ガンダムはなんだかよくわからない。むやみに複雑で、情緒でわかるようなシーンが少ない。要するにドラマが弱い。40年前に生

2023年春アニメ感想 鬼滅の刃 刀鍛冶の里編

 本編の感想文に入る前に、ちょっとその周辺の話。  『無限列車編』から気になっていたことだけど、予告編の編集……あまりにも下手すぎないか?  予告編動画を見ても、テロップと回想シーンばかり。テロップはワンフレーズ出てくるたびに「バーン! バーン!」と派手な音の繰り返し。そういう回想シーンとテロップだけの映像が数分続いて、やっと数秒の新規映像が出てくる……。  なに、この素人編集……。でもufotableの優秀な編集スタッフがあんな素人編集するわけがない(ufotableの他の

映画感想 ハケンアニメ!

 日本を代表するエンターテインメント、アニメ。その市場規模は2兆円とも言われ、毎クール50本近い新作が今この瞬間も生み出されている。制作現場で働く人々は最も成功するアニメ、つまり覇権を取るために日夜戦っている。彼らが目指す最高の頂、それが覇権アニメなのだ!  原作版『ハケンアニメ!』が発表されたのは女性週刊誌『anan』においてであった。『anan』という媒体だから「仕事小説がいいだろう」……しかし辻村深月は仕事小説の執筆経験がなく、そこで以前から好きだったアニメ業界を取材

映画感想 リズと青い鳥

 「青い鳥」は誰?  業界屈指の存在感を誇る京都アニメーション制作の『響け!ユーフォニアム』が最初にテレビ放送されたのは2015年4月。最初の放送時の評判はさほど高くなく、Newtypeアニメアワードでも中間発表14位。ただ吹奏楽を描いた作品としての評価はすこぶる高く、高校吹奏楽部の内実を当事者なら「わかる」というほどに描き込んでいた。なにより凄かったのは楽器描写。ただでさえ描写の難しい金管楽器を1コマの手抜きなしで描き、演奏シーンの指使いは専門家も太鼓判を押すほどに正確。

映画感想 太陽の王子ホルス

 アニメ史上における“最初の”名作。 太陽の王子ホルス 制作が始まるまで 『太陽の王子ホルス』は日本アニメ史における黎明期時代の作品。当時の事情、制作が始まった経緯まで、大雑把に話しておこう。  もともとアニメーション制作を担当する「東映動画」は、東映内の「教育映画活動」と呼ばれる小さな部門であった。そこで短編アニメを制作し、当時は映画館のない地方も多かったことから、農村や漁村を巡る巡回上映などを実施していた。戦後はまだ映画は俗悪で「教育によろしくない」と考えられていた時期

映画感想 ユーリー・ノルシュテイン傑作選

 ロシアの名作アニメーション!  まずは偉大なるアニメーターであるユーリ・ノルシュテインという人物を見てみよう。  ユーリ・ノルシュテインは1941年、第2時世界大戦の最中に疎開先のペンザ州ゴロヴィンシチェンスキー地区アンドレエフカ村で生まれる。ユダヤ人家族の子である。1943年母親と兄とともにモスクワに戻り、マリナロシュチェ地区で子供時代を過ごす。  父親は教育を受けていない木材加工工場整備工であったが、高等数学を理解し、絶対音感と音楽的記憶力の持ち主だったと言われている

映画感想 エセルとアーネスト ふたりの物語

 “何でもないこと”が尊い。  高名な絵本作家であるレイモンド・ブリッグスがこの世を去ったのは2022年9月。彼が制作した『スノーマン』や『風が吹くとき』といった作品を知らない者の方が少ないだろう。その彼が自身の両親を主人公にした絵本『エセルとアーネスト』を出版したのが1998年のこと。第1次世界大戦後のなんでもない夫婦の幸せを描いたこの作品はイギリス国内でベストセラーとなり、英国ブックアワード最優秀イラストブックオブザイヤーを受賞することとなった。  そのベストセラー絵本