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8月1日 YouTube見たらなんかやってた 『響け!ユーフォニアム《総集編》』

 7月の終わり頃、YouTubeを見たら京アニチャンネルから『響けユーフォニアム』が特別配信されていた。8月1日現在は……あ、もう配信終了しているのか。
 配信されていたのは第1期の総集編『響け! ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ』、第2期の総集編『届けたいメロディ』、黄前久美子2年生編『誓いのフィナーレ』の3作品。いい機会だから、仕事終わりに一気視聴した。

 まず1作目『北宇治高校吹奏楽部へようこそ』。第1シーズンがテレビ放送されていたのは2015年の春から。今から8年前だ。もうそんなに……。
 改めて8年前に放送されていた第1シーズンを見ると……。おや? 頭が大きい。ウエストからヒップの曲線にメリハリを付けすぎている。キャラクターの絵のバランスがシリーズ後半と違う。ああ、そうか。同じ京アニ作品の別のキャラ等身に、作画スタッフがまだ引きずられていた頃なのか。京アニ作品でもそういうことあるのか……。見返してみるものだな……。

 内容は総集編なので、いろんなエピソードが敷き詰められているが……あっ、中川夏紀先輩にまつわるエピソードがほとんどカットされている! 夏紀先輩のエピソード好きだったのにな……(というか夏紀先輩が好き)。斎藤葵ちゃんは完全に存在を消されちゃってるな……。
 そうはいっても尺が103分。この尺のなかで収めようとすると、あれもこれもカットされちゃうのはしょうがない……。せめて150分だったらなぁ……とか考えちゃうけど、商業的にそんな長尺は許されない。予算の回収ができなくなる。

 お話しはダイジェストで次々に流れていく。ああ、あんなシーンあったな、こんなシーンあったな……と思い出すけれども、しかしダイジェスト。断片化されたシーンを見て、「このシーンはこういうエピソードだったよね」と脳内で圧縮されたデータを解凍している感じになる。「本当はこのシーンは、こういう背景があったから、こういうことになって、結果的にこういうお話になって……って感動があったのにな」……とか考える。総集編はいろんな名シーンが敷き詰められているけど、肝心な背景が抜け落ちちゃっているから、淡泊な印象になってしまう。総集編は得てしてそういうものなんだけど。
 でも103分に第1期のお話しがギュッと詰められているので、時間のないときに作品を復習する場合にちょうどいい。ただし、この作品を初めて見る……という人にはお勧めできない。総集編にはこの作品の本当に楽しい「ミソ」の部分が抜け落ちちゃっている。初めて見る人には、テレビシリーズそのものを見たほうが絶対に楽しめる。いきなり総集編を見ても、この作品が持っている良さは読み取れないはず。……総集編は得てしてそういうものだけど。

 つづいて第2期シーズンをまとめた『届けたいメロディ』。
 ……あっ! 鎧塚みぞれと傘木希美にまつわるエピソードが全カットされている! 第2期ではこの2人が重要なキャラクターだったはずなのに……。
 しばらく見ていて気付くが、『届けたいメロディ』は「いわゆる総集編」ではなく、とあるエピソードのみがピックアップされている。黄前久美子にとっての2人の姉のお話について――田中あすかと黄前麻美子の2人だ。
 第1期シリーズでは「謎めいた先輩」だった田中あすかの内面はどうなのか。第2期に入って少しずつ明かされていくのだけど、黄前久美子は田中あすかとの関係性を深めていく過程で、自身の姉である黄前麻美子のことを思い出してしまう。いつの間にか疎遠になってしまった姉……その姉への想いを、田中あすかに投影していく。

 黄前久美子と田中あすかの関係性のみに重点を置いた第2期総集編。この試みは大成功。第1期の総集編は色んなシーンを敷き詰めただけで淡泊な印象になっていたけど、『届けたいメロディ』は1本のドラマ作品としてしっかり成立している。映画の最後には感動できる作品になっている。このお話しを成立させるために新規カットが結構なカット数で作られているのも良い。これなら初めてこの作品に接する……という人でも感動できるはず。1本のアニメ映画として評価できる作品になっている。
 それに第1期、第2期と続けて見て気付くが、絵が格段に良くなっている。第1期の頃は微妙に頭身のバランスがおかしくて、そこが引っ掛かったが、第2期はいよいよ『ユーフォニアム』の絵にこなれた感じになっている。それがやはり良いシーンになると、見事な輝きを放ってくる。率直に「いい絵を見たな」としみじみ思える作品。

 ただ鎧塚みぞれと傘木希美にまつわるエピソードが全カットされていたのが惜しい。できることなら、鎧塚みぞれと傘木希美のみをピックアップした総集編が欲しい。あと、中川夏紀先輩のみをピックアップした総集編も……。いっそ、それぞれのキャラクターをピックアップした総集編を一杯作ったら……予算が回収できないか。

 私のお気に入りキャラクター、赤リボンちゃんの出番が一杯あったのがよかった。名前は……堺万紗子ちゃん。そういえば黄前久美子と同学年組だったんだな……。

 3本目、黄前久美子2年生編である『誓いのフィナーレ』。こちらは全編新作エピソードとして作られた作品だが……内容が総集編っぽい。このキャラクターにはもっと深いエピソードがあったんじゃないかな……というところもさっと流れていってしまう。ドラマが全体的に生煮え状態。
 そうはいっても『響け!ユーフォニアム』は群像劇。テレビシリーズじゃないと、描ききれないところがある。100分だと新編なのに総集編っぽくなるのは仕方ない。あの内容でも、うまくまとめた……といえる。

 今回、3作続けて見たが、発見はたくさんあった。まず各キャラクターの演技の違い。高坂麗奈は第1期、第2期の頃にくらべて、ずいぶん情緒が柔らかくなった。第1期の頃はもっと冷淡な感じだった。
 黄前久美子は後輩に接するとき、幼馴染みである塚本秀一と接するときとはっきりと声の使い方を変えている。後輩を接するときは声をしっかり立てて、上級生を演じている感じ。時々、「ひょっとして田中あすか先輩を意識しているのかな?」と思うところも。一方、塚本秀一と接するときは力を抜いている。身内相手の安心感が感じられる。こういう声の使い方で、キャラクターがリアルに感じられる。さすが黒沢ともよは上手いな……と感心。

 『誓いのフィナーレ』の中心的存在は久石奏(父親は映画音楽をやっている人だろうか?)。久石奏は一見すると社交的で、人当たりが良さそうな雰囲気だけど……。
 久石奏は黄前久美子の裏面的な存在。ある意味で久石奏と黄前久美子はよく似た存在。もしも黄前久美子の悪魔的な側面をクローズアップしたら……という存在になっている。黄前久美子にとって久石奏と接することは、ある意味自分自身と向き合うことになる。久石奏という悪魔的側面を、黄前久美子は理性的に抑えることができるのか。黄前久美子はやがて吹奏楽部を率いていく存在になっていくのだけど、久石奏はその前段階にある“試練”のような存在。それとともに、「決して本音を語らない」久石奏がコンクールでの奮闘を経て、どう変わっていくのか。2人の女の子にとっての試練と成長の物語となっている。この劇場版の物語を終えて、やっと久石奏は「スタートライン」に立てることになる。
 この2人の物語は素晴らしいドラマなのだけど……やっぱり100分の劇場版ではなく、テレビシリーズでじっくり見たかった。100分で群像劇を描くとどうしても総集編っぽくなってしまう。それが惜しい。

 『誓いのフィナーレ』では高坂麗奈にまつわるエピソードがほとんど深掘りされなかったから、彼女にどんな心境の変化があったのか……というところも見たかった。第1期、第2期の頃には黄前久美子と塚本秀一の関係性を、警戒心を持って見ていた高坂麗奈が、『誓いのフィナーレ』では譲歩するようになっていく。おいおい高坂麗奈、いったいどうした?

 高坂麗奈といえば、第1期の頃から孤高の存在。高坂麗奈は「ぼんやりした高校生活を送りたいと思わない」と語る。自分の存在をしっかり残したい。テレビシリーズの頃は「ほう、そうか」と思っていたところだが、こうやって総集編としてまとめてみると、お話し全体が「自分の存在を残したい」と思う少年少女のお話……というところが見えてくる。黄前久美子も田中あすか先輩も鎧塚みぞれもみんな持っているテーマが一緒。高坂麗奈は最初からそのテーマに自覚的になって、言葉にしている……というだけで、登場人物達が持っているテーマは実はみんな同じ。実はこの作品の作者にとって、一番委ねたいテーマを持っているのが高坂麗奈だった。
 そういうのに気付けたから、総集編をまとめて見たのはいい機会だったなぁ……。

 今年8月4日からは中編エピソードである『アンサンブルコンテスト』が劇場公開される。この作品は57分と短い。あくまでもファン向けに作られた短編……といったところだ。
 時期は不明だが、3年生編はテレビシリーズとして公開されるそうだ。これは本当に楽しみ。やっぱり『響け!ユーフォニアム』は劇場よりもテレビ向けの作品。テレビシリーズでじっくり描き込んで欲しい。そして北宇治高校吹奏楽部は念願の全国大会に出られるのか――それを最後まで見守れるのが嬉しい。

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