細めの雪にはなれなくて 1 第一部
産まれてから色々なものをみてきた。人は産まれて幼少期を過ごし、小学校、中学校、高校、人によってはここから分岐してそれぞれのストーリーを描きながら死へと向かって歩いていく。
木は種が土に触れたところから、芽を出し、幹を太らせてそのまま朽ちるか、もしくは大地に根付く大木となって長きに渡って存在し続ける。その他全ての動物たちも同様に。全ての生き物は生をうけてからその種の遺伝子にのっとって様々に形を変えながらめぐって次へ次へとバトンをまわしていく。形を変えるから美しく、形を変えるから、また儚く、老いていくこともまたそれぞれに受け入れながら生きていくことを義務付けられているか中で、私も当然そんな営みの一部である。
そんな移り変わりは当然、醜さや理不尽さ、苦しみや悲しみも生み出す。当たり前のことだ。美しいものばかりではないし、特に人間なんてどちらかというと醜いことのほうが遥かに多い。そんなことはわかっていた、わかっている。だけど、産まれてからずっと生きていくのにそれを受け入れろなんて言われてもそれはまた別の話だ。受け入れたくないし、そんなことの為に生まれてきたわけじゃない。苦しいことばかりだと人は死ぬじゃないか、誰も苦しむために産まれてきたんじゃない。
水はいい。形を変えながらずっと存在し続けられるのだから。雨が降って海になり、その水が蒸発して次は雲になる。するとまた雨が降ってある場所ではそれが山に降り、それが川となり大地に流れ込む。時には池や湖になり、人の世の中ではダムになることもあるだろう。雲が生み出すのは雨だけではない。ときにはそれが雪となり降り注ぐ。しかしそのどれもがまた海に帰るだけなんだ。そんなずっと存在できる水に比べて、人というのはほんの一瞬の生き物だといえると思う。でもそんな一瞬の生き物だからこそ、永久に続くものにはない一瞬の光がある。短いからこそ輝くものがある、自分の意志でどこにでも行けるから。
私は、人に許されたその特権を上手く使えなかった、きっと向いてないんだ。大切なもの気づいたときはいつも少し遅く、そしてそっと手をすり抜けていく。悪いのは私だ。でも私が上手くできなかったからってなんでもかんでもあきらめきれるわけじゃない。どうしても取り戻したい一瞬だってあるのだから。
私の望みなんて、ほんの小さなことだった。でもそれが、気づけばずっとそばに居た人を追い詰めていたなんて知らなかった。かおりが唯一望んだのは、全てを失う前に自分から消えることだった。
※この小説はトータルで7~9万字ほどになるよう執筆する予定です。少しずつ更新していきますので、お付き合い頂ける方はどうぞよろしくお願い致します。
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