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不満の音/鬼滅の刃に思う

 漫画「鬼滅の刃」が好きなのは、心を揺さぶる名言や名場面が多いから。読み返すたびに涙腺が”決壊”します。登場人物は優しくて善良な人ばかり。だからこそ、ときに報われないのかもしれません。

 好きなキャラも大勢いますが、その中で「共感できるのは誰だろう?」と考えてみると、それは「獪岳/カイガク」。この男は自分が助かるためなら恩人だろうと裏切るし、敵にだって寝返る。いつだって”自分本位”。

 そんな彼の”人間性”を示す台詞がこちら。

「俺は俺を評価しない奴なんぞ相手にしない」
「俺は常に!!どんな時も! ! 正しく俺を評価する者につく」
「圧倒的強者にひざまづくことは恥じゃない 生きてさえいれば何とかなる」

 でもこうして台詞だけを並べると、そこまで”おかしくない”と感じます。自分を評価してくれる人のために頑張りたい。その気持ちはよくわかるし、生きてさえいれば”なんとなる”というのも、前向きで素敵な言葉ですよね。彼の行動には”一貫性”があって、ある意味”信用できる”とさえ思います。

 そんな彼も、少年漫画のお約束には勝てず、最期は自分の弟弟子おとうとでしにあたる「善逸/ゼンイツ」に討たれます。そのとき善逸に言われた台詞がこちら。

「どんな時もアンタからは不満の音がしてた」
「心の中の幸せを入れる箱に穴が開いているんだ」
「その穴に早く気づいて塞がなきゃ 満たされることはない」

 この場面を読んだとき「獪岳は自分だ」と思いました。いつも不満ばかり並べては、誰かを恨んでいる。心が満たされることがないから、不満の音が鳴っているのだと。鬼滅の刃はいつだって僕を泣かせようとするわけです。

 ところで、音がよく鳴るものには「空洞」がつきもの。打楽器、弦楽器、管楽器にも空洞はあります。空洞がなければ音は鳴っても”響かない”はず。つまり、空洞があるからこそ、心にも響く音楽を奏でられるのでしょう。

 いつも自分の心を満たすことを考えてしまう。でももし満たされていたら「文章を書こう」なんて思わなかった。そんな風に”発想を転換する”こともできます。僕の文章が、誰かの心に”響いている”かはわからないけれど。

 好きな絵本で「ぼくを探しに」という作品があって。ひと切れ食べられたピッツァみたいな子が、自分に足りない”かけら”を探して旅するお話です。たしか教科書に載っていて、当時はなんとなく好きでした。でも今になってようやく、あの話の”本当の良さ”がわかる気がします。

 自分に”足りないもの”を探すのもいい。でも”足りないものがある自分”を受け容れたっていい。誰かと比べてしまう気持ちもあるけれど。自分だけは「このままの自分でもいいの」と素直に思えたら。

 心に空いてしまった穴は、音を響かせるための空洞になるかもしれない。なにかを探すときのレンズや、誰かを受け容れる余白になるかもしれない。そんな風に考えられたら。


撮影ワールド:鬼滅の無限城みたいな別の何か/白光siro-hikari さん

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