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第33回 多摩映画祭 『バービー』上映&トークイベント 忘備録

11/26(日)まで開催中の多摩映画祭4日目のプログラム、

「“現実世界(リアルワールド)”に生きる私たちの映画『バービー』」

に行ってきました。

映画『バービー』は公開当初に一度観てるので、今回はもう完全に以下の豪華3名のゲストによるトークイベントがお目当てでした。

奥浜レイラさん(映画・音楽パーソナリティ)
村山章さん(映画ライター)
高橋芳朗さん(音楽ジャーナリスト)


まずは『バービー』鑑賞の感想から。

改めてもう一回見ると、実は結構シリアスで孤独な質感のある作品だなって強く感じました。バカコメディの体裁を取りながら、フェミニズムのメッセージを打ち出していたり、男性優位社会やマンスプレイニングへの痛烈なカウンターになってるという、そこだけで終わってないぞと。

どういうことかというと、終盤にバービーの生みの親・ルースハンドラーが登場して、こんなことを言う。

人間には結末が一つしかない。だから男性社会やバービー人形をつくるのよ。

つまり誰もがいつか死ぬのだけど、それが怖くて仕方ないから、何も考えずにずっと変化もしない男性社会やバービーのような象徴をつくり、そこにすがりたくなっちゃうんだよねって。

でも、いつか死んじゃうからこそ、誰かが決めた男らしさとか、女らしさとか、こうあるべき、みたいなものに自分を当てはめようとするのではなく、お前自身そのものでいろということを訴えてかけてくる。

人間が結末に向かっていく老いも含めた変化の過程と、いま我々が生きているこの世界はとても美しいということを、バス停で出会う老女や、劇中の要所要所で印象的に使用されるビリーアイリッシュの『What Was I Made For?』の美しくも内省的なメロディと歌声が感じさせてくれる。

だからこそエンドクレジットで沢山の「Barbie」と「Ken」の文字が並び、そこにそれぞれの俳優名が同じサイズ・フォントで連なってるのにも意味があるように感じられて、グッときちゃうんです。

誰もみな手を振ってしばし別れる


『バービー』では、"手を振る"、"互いに手を振り合う"というシーンが序盤から終盤まで何度も繰り返し出てきます。それはまるで死に対しては誰もが絶対的に孤独だけど、それでも束の間この世で同じ時間を共にしている互いの存在を認め合い、称え合おうとしているかのよう。

なんとなく、小沢健二の『僕らが旅に出る理由』を連想したりもしました。

遠くまで旅する人たちに あふれる幸せを祈るよ
ぼくらの住むこの世界では 旅に出る理由があり
誰もみな手をふってはしばし別れる

『僕らが旅に出る理由』小沢健二

2014年公開の『LEGOムービー』もそうなんだけど、実際の玩具を題材にした作品の哲学的な深みが凄いことになってるんですよね。

ちなみに『LEGOムービー』との共通点でいえば、両方ともウィル・フェレルが出てくるんだけど、本作でウィル・フェレルが最初に出てきた時に、両手にドラムスティック持ってて、「(レッチリのドラマーの)チャドスミスじゃね!?」って一瞬思わせるボケやってます。Kenみたいなしょーもない野郎(つまりオレとか)にしか伝わらない、ボンクラ選り分けるリトマス紙になってるのでそういうの本当にやめて頂きたいw

トークイベント内容


というわけで、上映終了後に5分ほどの準備時間を経て始まったトークイベントで、豪華ゲストの御三方が話されていた内容を簡単に箇条書きで。

◾️それぞれの感想

・劇中で女性の置かれている現状を演説するシーンは、実際に自分も思っていたけど口に出して言えなかったことだった。現実に自分もここまで言ったっていいんだと思えた。(奥浜レイラ氏)

・人生の様々なフェーズで、居心地が良いと思う場所から去らなければいけない時がくるということを感じさせる作品。あと見終わった後にみんなが同じ気持ちになる作品ではなく、みんながそれぞれに自分の言いたいことを言いたくなる作品なので話が噛み合わなかったりする。でもそれは素晴らしいこと。(村山章氏)

・哲学的なメッセージがふんだんに盛り込まれてるのに表面上はバカ映画なのが素晴らしい。(高橋芳朗氏)

◾️マンスプレイニングのシーンについて

※「マンスプレイニング」とは主に男性が(相手を無知、または特定の分野に詳しくないと決めつけて)見下すように何かを解説したり、知識をひけらかしたりすることを指す言葉。

・映画、音楽、パソコン、金融とか、全方位でやってたから同じ男性としてはまいった。
・私は女性だけど、カルチャーを語っちゃうことが内面化されてるので、ルーリードのくだりとか、ザックスナイダー版ジャスティスリーグとか「私、好きなのに…」とちょっと思った。(奥浜レイラ氏)
・この辺りの描写は共同脚本のノア・バームバックの影響か大きいはず。

◾️グレタガーヴィグについて

・マンブルコアから出てきた監督だけど、そこだけにはとどまらず、マンブルコアのメッセージ性を保ったままより大衆的な大きな作品、大きな話として両立させていこうとする気概や野心を感じる。

※ここで言われている「マンブルコア」とは、ゼロ年代のニューヨークにおける、当時の新世代による自主映画運動のこと。D.I.Y.で等身大のリアリティを追求しつつ映画の内容は日常における「自分(たち)ネタ」がベースとなっているもの。

↓参照

◾️マーゴットロビーについて

・最初にマーゴットロビーが版権買ってて、そのままプロデューサーだけをやるつもりだった。当初(ワンダーウーマンの)ガル・ガドットがバービー役をやるはずったが、できなくなったのでマーゴットロビー自らがやることになった。
・バービーという題材も、グレタガーヴィグならより普遍的なメッセージを込めた作品に仕上げられると思ってマーゴットロビーから声かけた。
・マーゴットロビーの着眼点が凄い。

◾️音楽について

・今年のグラミー賞の映画音楽賞には5作品中4作品がバービーからのノミネート(残りの一つは『ブラックパンサー ワカンダフォーエバー』から)。グラミー賞のパフォーマンスステージにバービー枠が設定されるかも。ライアンゴスリングが歌ったらいいな。
・バービーワールドとリアルワールドを行き来する時にかかるIndigo Girls の 『Closer to Fine』の歌詞と、ラストに病院のシーンが一致する構成に震えた。
・『Closer to Fine』はロードムービーの曲で、人生の探究にも例えられるので、本作の構成と一致するように重ねあわされてる。
・『I'm Just Ken』はVan Halenの人がギターを弾いてる(マンスプレイニングのくだりでロックもターゲットにされてるが、実際はグレタガーヴィグはロックが好きらしい)
・この作品は10年後、20年後、30年後にも観られることを見据えて作られてるからこそ、2023年現在のアーティストの今の楽曲を詰め込んでるのはとても意味がある。
・劇中で一瞬曲が使われてるスパイスガールズは、欧米と日本での評価はえらい違う。
・スパイスガールズは人種も目の色も違う女の子たちが仲良くしてるのが新鮮だった。
・エマストーンもリゾも(あと女性アーティスト何人か挙げてたけど覚えてない…)みんなスパイスガールズをリスペクトする発言してる。

◾️関連・連想する作品について

・フェミニズムの観点から『ウーマントーキング』を次に見るのがオススメ。
・Kenたちがダンスするミュージカルっぽいシーンは『オクラホマ!』のオマージュ。
(あと2作品ほど挙げてましたが最後のほう駆け足で話されてたので覚えてない…)



ということで元々40分間の予定時刻をあっという間にオーバーし、最後の最後まで駆け足で詰め込んで話して頂き60分間たっぷり楽しめました。

多摩くんだりまで来ていただいたお三方に感謝。

村山章さんに至っては地元のららぽーとでこの日のためにピンクのジャケットを購入し着用してくれており、メチャクチャ頭下がりましたw

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