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春うらら、ぬくもりに飢える

 桜の花が芽吹き、冬が終わりを告げる。草花がすくすくと成長し、温かで優しい色が広がり始めたというのに、私の心は色が抜け、寂れていく。生い茂る草花で満たされようとしているこの世界の中で、心にぽっかりと穴の開いた私が、耐えるように佇んでいる。

 桜の花が満開に近づくにつれて、私はいたたまれない気持ちになる。世間では「お花見」という名の宴会に浮かれた人間たちが、「本当に桜の花を見に来ているのだろうか」と疑問に思うくらいに、馬鹿騒ぎをしてはしゃいでいる。なぜこんなにも楽しそうにできるのかと、彼らが羨ましくて仕方がない。

 桜を目にすると、冬がそこにはもうないということを実感させられる。桜の儚さを前に、自分の生きてきた時間が急に消えてしまった気がして、胸が締め付けられる。それは、雑巾のように心を搾り取られているようで、息苦しい。

 気温が上がり、纏っている服は次第に薄くなっていく。私を包む布団の重みも消えていく。私からすべて消えてなくなってしまうようで、虚しくなる。外気は暖かくとも、ぬくもりは感じられない。私は寒いからこそ与えられるぬくもりに、まだまだ甘えていかったのかもしれない。

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