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スピッツ「花と虫」 終わりのない青さは 終わりのある青さで

アルバム「見っけ」の5曲目。
正直言って、アルバム「見っけ」は、2020年1月18日の大阪城ホールでの「SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 MIKKE」に向けた予習をして以来、それほど聴き込んでいないんですよね。

最近、車でドライブ中、スピッツ全曲332曲をランダム再生していて、久しぶりに「花と虫」を聴いた。
アップテンポが心地よい前奏を経て、草野さんが優しく語り始めていくようなこの曲の良さを再認識し、「しっかりと歌詞を読んでみよう」と思って、さっきまで読み込んでいました。

ああ、なんと明快な歌か。
2000年代~2010年代半ばの難解な草野さんと対峙しているのに比べると、メタファーの想定が非常に分かりやすい。

「花と虫」の「虫」は草野さんと言ってもいいのではないでしょうか。
福岡出身の草野さんが、東京に出て活動し、バンドを続けてきたことに対するメタファーをしっかりと感じ取ることができます。

「おとなしい花咲く セピア色のジャングルで
いつもの羽広げて飛ぶのも 飽き飽きしてたんだ」

地方でいろいろなことを夢見て、くすぶっていた少年を想起させます。

「北へ吹く風に 身体をゆだねてたら
痛くても気持ちのいい世界が その先には広がっていた」

地方にはない、魅力的なこと、草野さんの場合はバンドとか音楽とか、かしら?
そんなに簡単ではないだろうけど、気持ちのいい世界があった。

「終わりのない青さが 僕を小さくしていく
罪で濡れた瞳や 隠していた傷さえも
新しい朝におびえた」

このサビはちょっと分かりにくい。
「終わりのない青さ」は、今なおバンドで表現することを続けている自分自身。罪とか傷とか、きれいごとだけでは済まない何かがあって、これが本当に続けられるのかという不安を表現している?

「それは夢じゃなく めくるめく時を食べて
いつしか大切な花のことまで 忘れてしまったんだ」

もう一つの主人公「花」がまた出てきます。
草野さんが去った場所「故郷」とか、現地に残した「誰か」とか、そういう比喩として登場させています。

アルバム「見っけ」。オープニング曲「見っけ」でファンへの感謝を歌い、12曲目「ヤマブキ」でもバンドの振り返りを歌っています。
この「花と虫」も言わば、バンドを続けてきた自分自身への回顧という側面を持ち合わせていると感じます。

「バンドで活躍を続ける」という一側面を別角度から表現すると、「生まれた土地を去り、都会に出て、自分のやりたいことを続けている。故郷を捨ててしまったような罪悪感を抱えているけど・・・」とも言えます。世の中で活躍する人は多かれ少なかれ、そういった思いを持つものなのでしょう。

後半のサビ。

「終わりのない青さは 終わりのある青さで
気付かないフリしながら 後ろは振り返らずに」

この「終わりのない青さは 終わりのある青さで」って、とても怖い表現ではないですか。スピッツにもいつか終わりが来ることは分かっているよ、という現実を敢えて書き込んでいるわけです。

曲の最後を「さわやかな 新しい朝にまみれた」で締めくくっています。
ですが、この「花と虫」は、メルヘンに彩られた郷愁だけではなく、自分たちの「最期」までもつづった宣言書のようにも受け取れます。
「最期までやりきる」という高らかなスピッツの遠吠えに、私たちファンは歓喜するのです。

どうせ、人間、いつかは死んでいく。
草野さんが「後ろを振り返らずに、やる!」って言っているのだから、私も「楽しみ切る」ことを宣言したい。

2022年7月28日 トラジロウ

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