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【ブックレビュー】ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』 (寺田和代)(「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」第1回 アイルランド篇)

■ ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』柳瀬尚紀訳、新潮文庫
 

ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』柳瀬尚紀訳、新潮文庫、2009年3月


20世紀初め、ダブリンで暮らす人々の人生の一瞬を切り取った15編の短編集。非モテ青年と悪友、家父長制に自尊心を奪われて人生に踏み出せない若い女性など、白黒つけられない感情の機微が短い物語に鋭く織り込まれる。

初読では人生や人間への鋭い洞察を拾いきれず、カタルシスなき読後感を抱いた作品も、歳月をへて再読すると若い頃にはピンとこなかったズシリとした読み応えを発見する。

どれも一見、淡々とした味わいながら、スリリングな奥行きをこれほど感じさせる短編集は稀有かも。
ラストの『死せるものたち』の先の見えない展開に募る好奇心、情愛というより諦念は、大人にこそ分かる枯淡の味わいだろう。

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