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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第1回 アイルランド篇 ――(11)

(10)世界で最も美しいとされる本と図書館(上) からのつづき

アイルランド篇――
(11)世界で最も美しいとされる本と図書館(下)


その余韻に浸っている間もなく、トコロ天の筒から押し出されるように上階へ。

階段を上がった扉の先にひらけたロングルームという名の“世界で最も美しい図書館の一つ”とされる佇まいにまたも、ひゃー、となる。
長さ約65m以上、1712〜1732年の開館(大学公式サイトhttps://www.tcd.ieによる)以来、現在も現役の図書館として使われる威風堂々たる存在感。
トリニティ・カレッジの蔵書約600万冊中、最も古い約20万点冊を収蔵しているそう。

知の番人として並ぶ書架ごとの大理石の胸像は、西洋の哲学者、政治家、作家たち。
中央部に鎮座するアイルランド最古のハープは、アイルランド民に愛されてきた伝統的な音楽や踊りの象徴。アイルランド発行のユーロ硬貨や、ギネスビールの意匠にも使われている。

トリニティカレッジの『ロングルーム』。
高い位置は梯子で。高所恐怖症の人には難しそう


同じく『ロングルーム』の書棚と本を守る知の番人たち


ェイムズ・ジョイスは短編集『ダブリナーズ』で、厳しい歴史に翻弄されたダブリン市民のすすけた暮らしぶりを通じて、古今東西の人々に "あるある” と思わせる感情の機微を描いた。
救いがたい酒びたり、やり手おかみ、子どもを殴る親など "ダメ" を絵に描いたような人々のかたわらにも詩とその朗読、音楽やダンスがあったことを思い出す。
階層問わず、アイルランド人のなかに、知や詩や美への敬意と憧憬が連綿と続いてきたことを再認識させられ『ダブリナーズ』の魅力の奥行きがさらに深まる気がした。

国は小さくても世界的な文学者や学者を輩出した
トリニティ・カレッジの風格あるキャンパス。かっこいいなー


トリニティ・カレッジを出た足で、金細工の最高峰といわれる国宝「タラのブローチ」で名高い国立考古学博物館アイルランド国立美術館などを(なにせ国立の施設はどこも入場料無料だから)欲張るように回ったものの、なんとなく“お宝疲れ”して午後3時前には宿に戻る。

その晩からはトムの宿が満室で予約できなかったため、500mほど離れたハーヴェイのB&Bに移動。4階建て集合住宅の一角を宿に改築した、古いながら清潔で温かな印象にまずは安堵。

母から宿の運営を継いだんだ、と話す温厚そうな初老のオーナー、ハーヴェイ自ら荷物を持って案内してくれた最上階の屋根裏ふうの部屋は、床が少し斜めっていたものの、ベッド脇には小さなデスクと椅子、一人用ソファまであり、なにより明るい大きな窓がうれしかった。

窓からは、トムの宿から見たのと同じ教会の尖塔が別の角度で見え、そのことにもう懐かしさと安心感を感じる自分がいた。

ハーヴェイのB&B。床が少し傾いていたけど、静かで明るく快適だった


(12)公共交通乗り放題カードで気の向くままに へつづく

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