マガジンのカバー画像

ハンサムじゃないとダメですか? ──かたすみの女性史

17
歴史ドラマの主人公が女性なのは、もちろんうれしいけれど、 エンターティメントの悲しさ、ドラマの女主人公は、みな有能で勇ましく、美人で自信満々の“勝者”です。 来年のNHK大河ドラ…
運営しているクリエイター

2022年4月の記事一覧

かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その11)

かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その11)

壺井栄をナメるなよ !(その11) 栗林佐知
←(その10)からつづき

■石牟礼道子をホメタタエルなら……

 面白い「壺井栄論」を目にした。 
「草いきれ論争」が始まる前の1952年9月、「新日本文学」誌上に載った、栄たちより20歳若い詩人・評論家、関根弘によるものだ。
 
 関根は、前年(1951年11月)刊行されたの栄の『母のない子と子のない母と』(光文社、初出は「毎日小学生新聞」原題「海

もっとみる
かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その10)

かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その10)

壺井栄をナメるなよ !(その10) 栗林佐知

←(その9)からつづき

■ 発展してゆく壺井栄文学のテーマ

  ここで、一つ、訂正しなくてはならない。
 
 (その7)で、“深く考えるには、壺井栄はあまりに忙しすぎた”などと偉そうなことを書いたが、これはまったく、的を射ていないと、改めて思った(書く前に思え!!)。
 
 
 栄がその後も結婚制度に疑いを持たずにいつづけた、とか、
「ミネ」の「

もっとみる
かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その9)

かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その9)

壺井栄をナメるなよ !(その9) 栗林佐知→(その8)からつづき

■ 泥沼の「草いきれ」論争

  じっさい、徳永直の作品「草いきれ」は語るに落ちる。
 子持ちの独身男がどんなに大変かは身に迫る。しかし、

《経済力が同じなら男やもめは女やもめよりはるかにみじめである》p39

 という見解はいかがなものか。そんな母子家庭が何軒あるというのか。
 それに、自分の靴下を繕い、きんぴらをつくるのは、

もっとみる
かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その8)

かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その8)

壺井栄をナメるなよ !(その8) 栗林佐知
←(その7)からつづき

■ 「草いきれ」

 先ほど、「妻の座」についてたくさんの論評がでたのが、“少し後のことだ”と言ったが、この“少し後”のことについて話そう。
 壺井栄の「妻の座」の連載終了・出版は、1949年だが、その「論争」が起こったのは、1956年の後半~57年のはじめのことだった。
 以下、順を追う。

 『妻の座』刊行から2~3年の間、

もっとみる
かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その7)

かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その7)

壺井栄をナメるなよ !(その7) 栗林佐知←(その6)からつづき

■ 性別役割やルッキズム

 もし、栄がはじめから、家父長制や家族制度の不合理を「否」とする思想をもっていたらどうだったろう。
 もちろん、そんな結婚観を持っていたら、妹とやもめ作家の結婚を取り持とうなどとはしなかったろうし、作品自体が成り立たなかっただろう。

「妻の座」は、力強い作品がいかにして生まれるか、ということの、稀少な

もっとみる
かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その6)

かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その6)

壺井栄をナメるなよ !(その6) 栗林佐知
←(その5)からつづき

■ 主婦を大事にせよ! というフェミニズム

 当時の女性読者からも指摘があるように、「ミネ」=栄の結婚観は、やはり、今日の私たちの目からも、いかがなものかと思われる。

 小説「妻の座」は、まごうかたなきフェミニズムの叫びだが、壺井栄じしんは、「家族制度は女を不幸にする」といった思想を持っているのではないのだ。

 娘時代、郵

もっとみる
かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その5)

かたすみの女性史【第2話】壺井栄をナメるなよ !(その5)

壺井栄をナメるなよ !(その5) 栗林佐知
←(その4)からつづき

■「妻の座」への評価

 それにしても、このモデルになった出来事は、いろんな点で「変ちくりん」である。

 「妻の座」については、のちに(後述)、さまざまな論評が登場したが、その多くは、モデルとなった人々の行動への批判のようだ。

 そして、当時の男性評論家でさえ(いや、1970年代以降の男性より、1950年代の男性のほうが進歩

もっとみる