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◆アートヴィレッジとうおん コラムⅥ◆〜東温市に魅せられて〜(後編)

前編・中編と読み続けていただいた皆様、ありがとうございます。
ついに後編となります!
東温市に刻まれた歴史を掘り起こし、現代の一人の青年へ注がれる物語の行方はいかに・・・?
長い年月をかけた作品がここ東温市で生まれようとしています。

筆者:忠の仁(ただのじん)氏 -演出家/作詞家-
桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒業。早稲田小劇場に入団し、2年間を過ごした後、ミュージカル劇団いずみたくフォーリーズに入団。その後独立し、1991年オフィスJINを設立。舞台芸術学院ミュージカル科本科の担任を経て、東温市地域おこし協力隊に就任。現在は東温アートヴィレッジセンターにて、とうおん舞台芸術アカデミーのアカデミー長を務める。


横河原商店街の一角に、おいしいアイスキャンディーを提供してくれている有名店があるが、営業は夏場を挟み10月までとなっている。となると11月以降のお店はどうなっているか気にならない訳がない。そこで第三部は現在の、それも真冬のアイスキャンディー屋を手始めに、いくつかの店舗をモデルにした横河原の架空ドラマを書くことにした。

隠れキリシタンの血を引く青年占い師が、ある理由で占いがことごとく外れてしまう。そこで時計店の店主に頼んで、悩み事相談のプロである美女狸を紹介してもらった。実は狸の方でもカード占い師の力を必要としていた。このイタズラ狸の実の兄である「身代わり狸」の焼き物が、「若宮社」の祠の中から何者かの手によって奪われ、代わりに一枚のトランプカードが置いてあったのだ。二人の思いは交錯する。そして何故かトランプゲームの「ダウト!」で勝敗を決めることになった。

江戸時代末期、重信に逃げ延びた隠れキリシタンの親子の血は、消えることなく占い師の青年に受け継がれていた。また彼の祖父母である見奈良の夫婦からは「身代わり狸」の焼き物と、行方知らずの「十字架」が託されていた。

 そんな青年に近付いて来たのは、第二部の女講談師天かすの孫娘。しかもこの女、幕末期に隠れキリシタンの弾圧を行なった宗門奉行の血を引いていた。つまり青年にとってはまさに天敵。そこにもう一人、このドラマの鍵を握る水天宮の女宮司が加わって、四者(か五者)入り乱れてのバトルロイヤル。横河原に嵐を呼ぶ今回の「ダウト!」と言うお芝居、果たしてその結末やいかに?


 この三部作には一つのテーマがある。それは自己犠牲の物語。時計屋の一人息子が病院でコロナのクラスターにあい、死の間際に立たされてしまう。その時に自分の人生を賭けて、その息子を救おうとするのは一体誰なのか? 隠れキリシタンと身代わり狸と占い師の青年。三つのピースがピタリと嵌ってジグソーパズルは完成する。

あと問題なのは、伊予弁のあり様。幕末・昭和初期・現代と時代の違いを表わさなければならないし、かと言って、リアルに伊予弁を喋られたら、現代の観客にはついて行けないだろう。舞台の方言は、省略と誇張に彩られねばならない。僕のような余所者に協力して下さる方には衷心より感謝を述べたいと思う。でも、このドラマを書こうとして、色々と歩き回り、また資料を調べた時間は非常に面白く為にもなったし、色々な出会いと発見があったことも今後の僕にとって大きな財産になったことは確かである。

東温市を題材にしたドラマを書こうとして、まさかここまで深く入り込むとは思っていなかったのだが、知られざる東温市の魅力を引き出し、更にその素晴らしさを確認し合うことが出来れば幸いです。

      2021・5・28       忠 の 仁


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            《 アートヴィレッジとうおん コラムⅥ 終 》


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