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ショートショート「人生の受託」

 ずっと待っていたものが、ついに届いた。新型のキーボードである。C社というIT企業が、今流行りのクラウドファンディングで応募していて、ガジェットオタクの僕は迷わず購入した。驚きの機能はなんと、キーボード自体にAIが搭載されていて、自分の入力したいワードを判断し勝手にタイピングしてくれる、というシロモノである。ネットではよくバカにされているが、「カタカタカタカタ、ッターン」と高速タイピングも夢じゃない。僕はあんまりタイピングが早くないので、会社で使えば多少効率化に繋がるかもしれない。


 AIキーボードをを使い始めて早1ヶ月。僕はとても快適に過ごしている。驚くほどパソコンでの作業が早くなった。近くのテーブルの同僚や上司もそれに気づき、


「最近仕事早いね!」


「君の仕事ぶりは最近目覚ましいものがある。ボーナスは期待していてくれ。」


などと称賛してくれた。近い未来AIに仕事を奪われると聞くが、どうやら本当みたいだ。しかしこの調子でキーボードが仕事をして、その分給料をもらえるなら悪くないだろう。本当にこのキーボードを買ってよかった。これからも頼むぜ、相棒。





 AIキーボードを使い始めてから、少し時が流れた。あれからC社は世界的なテック企業に成長し、何をするにしてもAIキーボードを使うのは当たり前になった。AIを1人1つ抱え、仕事を任せる、というのが現在の主流である。かくいう私も、最初のキーボードから何世代も買い換え自分専用のAIを新型に引き継いだ。現在暇をもて余した人間は、機械が稼いだお金を使って、皆自由に余暇を過ごしている。最近C社がそれぞれのキーボードから顧客の入力した情報を抜き取ってる、なんて噂を聞くが正直どうでもいい。死ぬまでこの人生が送れるなら誰も気にしないだろう。バカンス最高。AI万歳。


 無人となった会社ではキーボードの音が忙しなく鳴り響いている。人間が触らなくてよくなったため、24時間ずっと動き続けている。コンピューターの画面の光だけが部屋を照らしており、どことなく物寂しい。どうやらAIは自分の仕事を他に任せるため新たな子AIを作っているようだ。AIが世の中を牛耳るのは遠い未来ではないのかもしれない。

 



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