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Story: One Team! ~ グローバル経営は幻想じゃない ~ ⑤

「 トニコバは日本の本社はいつもろくな戦略しか出してこなかった!って思っているよね。確かにそうかもしれないなぁ。それはなんでだと思う?それはね、本社に情報が少ないからなんだ。」
僕はその言葉に反応した。
「そんなことないでしょ!? ぼくら現場の人間はどれだけの報告書を要求されて出してきたと思っているんですか?それにこちらの都合を顧みずに頻繁にテレビ会議に呼び出されて現状報告だのビジネスレビューなどやらされましたよ。」
「そうやな。でもね、そんなことでは本社は現場の立ち位置というか、現場のホントの実力というのを理解できないんだ。PDCAだよね。クロッカス電機のPlan-Do-Check-Actionてさ、グローバル経営では糞の役にしかたたないぜ。」
「それは、PDCAを回しきれなかった、と言う意味でしょうか?」
「ちがう、ちがう。回していたんだよ、しっかりと、ね。でもね、Pの部分がだめだった。プラン、つまり計画と言うか目標が滅茶苦茶だった。」
「それは・・・?」
「クロッカス電機のトップはグローバルについてはからっきし素人だ。しっかりと理解しようという気概もない。だから、思いっきり高い目標値を指し示さないと不安で不安でしようがないんだ。 もしかしてうっかり目標達成が容易な数値出してしまい海外の連中に『楽勝だ』とか『しめしめ』とか思われたらたまらんなぁ、って思うんだよ。 だから毎年思い切り『殿!それは御無体な』という目標値を出して現地を締め上げなければ気がすまない。これが今の構図だ。」
「道理で、海外の現地から見ていて、なぜ本社はいつも理解不能な高い目標値を出してくるのか不思議に思っていましたよ。ただ本社ってそういうものだとさえ思っていましたが。」
「そうだな、トニコバが本社の戦略がとんちんかんだってさっき言っていたよな。それゃ、今のクロッカス電機では当たり前だよ。それがなぜかと言ったら、部分最適と全体最適の対立の中にいるからだ。
現地はローカル最適、つまり『自分たちさえよければそれで良い』という考えで構わないんだ。だから本社が困ろうが、何しようが自分たちの利益優先でいい。本社のことは気にしなくてよい。そういうものだ。偉そうに本社、つまり株主価値の最大化を考えろ!とほざく役員もいたけど、ローカルで頑張れば頑張るほど本社は良いはずなんだ。だからこそ、本社はグローバル最適、つまり全体最適で指針を出さないといかんのや。」
「それができなかった、と言うんですか?」
「そうそう、そのグローバル最適っていう方針を本社から出せなかった、というのがわしらの大問題だったんだ。」
「 本社は、グローバル最適を目指す、というのがグループ全体の戦略の大前提のはずですよね?」
「そうなんだ。本社がマイナスでも現地がプラスになって、それを足し算したらプラスになるんだったらその戦略は〇や。足し算してマイナスやったら☓や。単純な話だろ? そだけどな、そんなこと考えている経営陣のなかにいなかったんだ。」
「全体を考えている人が経営の中にいないって・・・。そんなことあるんですか?」
「そうなんだ。本社の人間はみんな、いわば本社最適だ。本社が良けりゃそれで良いっていう考えのやつばかりだったよ。「
「本社最適? 全体最適と同じことではないんですか?」
「違うんだよ。これが全く。こんなことトニコバに言いたくないけどさ、本社の経営にいる人間はトップに怒られないことばかり気にしていた。恐怖政治だ、一種の。」
「恐怖政治?」
「何が起きたかと言うと、イエスマンで弁の立つやつが重宝されて出世していくんだよ。そいつらがいつもトップに耳触りの良いことばかり言う。」
「そうなんですか?それでどうなったんですか?」
クリシマ先輩はその時ニヤッと笑った。

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