豚トロうさぎ

23歳 OLの雑多日常

豚トロうさぎ

23歳 OLの雑多日常

最近の記事

八条口、コンコース(4)

日曜の昼だ。当たり前に京都駅は人がごった返していたし、電車の中なんてぎゅうぎゅうのすし詰め状態だった。背の高い彼と時折目を合わせながら、揺られた。微笑み返されると、馬鹿みたいに頬が緩んでしまった。彼は私を愛おしそうに横目で見ていたのもわかっていたから。 「マーちゃん、なんかプレゼントさせてよ。」 「要らないよ、申し訳ないし」 奥さんに使ってあげなよ。 「いいから」 じゃあここ、といって私が入ったのは駅地下にある小さな雑貨屋さんだった。壁や棚に敷き詰められたピアスやイ

    • 八条口、コンコース⑶

      朝が来てしまった。 目を覚ますと彼はニコニコと微笑んで私を見ていた。恥ずかしいことに、しっかり寝顔を見られていたらしい。私の目に映る彼は、もう出会った頃の彼ではなかったように思う。 知らなかった。好きで好きでたまらない人を見るとき、人はこんなに緊張するものなのか。 「ねぇ、ユウくんの奥さんってどんな人なの?」 彼は少々苦い顔をしたが、出会いから話してくれた。私とは性格が真逆といってもいいほどで、家ではケンカもたくさんするらしい。仕事のせいで生活リズムが違うから、1日話

      • 八条口、コンコース⑵

        【まーちゃん、もしかしたらだけどさ、今度京都に行けるかもしれないんだ!】 あれからというもの、毎日連絡を取り合っていた。彼はユウマさんといい、神奈川に住むごく普通のサラリーマンであった。26歳にして既に結婚3年目、次の初夏には3人家族になるらしい。 彼とはいろいろな話をした。趣味、好きなモノ、今までの恋愛、家族の話や自分の性格。あの日だけじゃ知り得なかったお互いについて1から補填しあった。 いつしか私達は朝と晩、一日に2回電話をすることが当たり前になっていた。 まーち

        • 八条口、コンコース

          「俺、ピアニスト目指してたの」 すごく綺麗な指してますね。 わたしがそう褒めたら、左手の薬指に銀色をキラリと馴染ませて、ニカッと笑った。 「あ、ごめん。嘘。なんの経歴もないしふっつーの会社員だよ」 黒く短い髪。 黒縁のメガネ。 切れ長の瞳。 大きな身長に不釣り合いなほど細い手足。 この人の奥さんも同じように細いのだろうか。 当時ハタチの小娘は「結婚」という2文字に憧れていた。例えば、プロポーズなんて女の夢の1つだと思っていたし、愛する人と歩むと決めたなら、「

        八条口、コンコース(4)