八条口、コンコース⑶

朝が来てしまった。

目を覚ますと彼はニコニコと微笑んで私を見ていた。恥ずかしいことに、しっかり寝顔を見られていたらしい。私の目に映る彼は、もう出会った頃の彼ではなかったように思う。

知らなかった。好きで好きでたまらない人を見るとき、人はこんなに緊張するものなのか。

「ねぇ、ユウくんの奥さんってどんな人なの?」

彼は少々苦い顔をしたが、出会いから話してくれた。私とは性格が真逆といってもいいほどで、家ではケンカもたくさんするらしい。仕事のせいで生活リズムが違うから、1日話さない日もあるんだと半笑いになりながら呟いていた。

彼の左手に光る指輪も、見せてくれた。わたしは只の好奇心のせいにして、キラキラした目でよく見たいとお願いした。指輪の裏には結婚記念日と2人の名前が掘ってあったと思う。デザインも、奥さんの名前も見たけれど、もう覚えていない。ただ、1つ脳裏に焼き付いているのは、指輪を見つめる彼の優しそうな笑顔。そうだ、そうじゃないか。この人は<好きな人>と結婚しているのだ。何も、その事実は99.9%変わることはないのだ。


「まーちゃん、上司と京都駅で待ち合わせになった」

「じゃあ、京都駅までいっしょに行きたい。でもその前に、

写真を撮りたい。」


外に出れば綺麗な背景なんていくらでもある。

けれど私は、この部屋で、この人と過ごした時間の証明として何かを残したかった。

これが、のちのち自分を苦しめることなんてそんな事分かっていた。

だって、おそらく二度とこうやって過ごすことは出来ないのだから。


「なんか私変な顔」





そこには嬉しそうな、でもどこか悲しそうな表情をした私が居た。


「見て、俺も変な顔してる」


もっと一緒に居れたらいいのに


私たちはきっと、同じことを考えていた。







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