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足場の中に住んでいる。
最近住んでいるアパートが外壁の修繕工事をしており、建物全体が金属の棒で組み合わさった足場で覆われているためである。平日は働きに出ているので意識することはないが、土曜日などは外で人が動き回っているため落ち着かない。建物の一部が削られている音がしたかと思うと、建物全体に轟音となり伝わってくるため、震えながら近所の喫茶店に避難することもあった。結果としてはそこで落ち着く席に通されてたくさん本を読めたしモンブランも食べられてよかった。
それが先々週くらいだ。その後は、防水加工の処理やペンキを塗ったりする様子があったが、今では轟音も外の人の気配もなくなったので安心している。足場はまだあるものの、日曜には誰も来ないことがわかったので、カーテンを開け放してベランダを覗き込み、黄色いネットとたくさんの鉄骨で守られた空間を楽しんだりしている。野外なのに外からの目線は遮られているので、居住空間が広がった感じだ。サンルームとはこんな感じだろうか。いつかはベランダよりもサンルームがほしいなと思う。
◯
また半月ほどが経った。足場はまだ解体されない。人も来ないし、修繕する箇所もこれ以上無さそうに見えるのだが。ベランダに出てみた。足場は金属パイプのような形状で構成されており、先端の空洞が何本かこちら向いている。
私は徐ろに部屋に戻り、押し入れの奥からビー玉の入った缶を取り出した。引っ越すたび、物件の床の傾きを調べたりするのに使用しているものだ。ベランダに再び出て、蓋を開けると曇り空を受けてビー玉が光った。
赤いビー玉を一粒つまむ。斜めに配置されている金属パイプの空洞にそっと入れてみる。カラン、シャー、という音が遠ざかった。空白のあとに、キン、コンコンカーン、と続く。出口から飛び出たビー玉が、その先にあった足場の金属に当たったのだろう。予想以上にやかましく、一瞬怯んだ。同時に楽しくもあった。
残りのビー玉をザラザラと丸い口に流し込む。先程よりも沢山のシャー、が鳴り、先程よりももっとやかましく金属とガラスの打ち合う音がした。
満足した私は空っぽになった缶の蓋を閉め、部屋に戻った。この後は近所の喫茶店に行ってガトーショコラを食べる。冬なのでもうモンブランは終わっているからである。
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