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とんかつカンティーヌの、これから⑯

(つづき)

飲食業界淘汰のカウントダウン...?


今飲食業界は、傍目には、だいぶ活況を取り戻してきたように見えます。

未だ感染拡大が収まらない状況下とはいえ、日常の行動様式も、今までずっと慎重であった方にあってさえ、そろそろ普通に夜の会食とかまで含めて元に戻していって大丈夫なんじゃないかな、という心理に向いているのではないかと思います。

しかし、以前の投稿で書いたように、統計的な数字だけ見ると、コロナ禍前と比較して業績は回復しきってはおらず、今のところは足踏みを続けているというところが実情です。
飲食業界は、市民の心理的平常への回復を見越して、これからの需要回復を期待しているというところです。

ところで、夜の会食、飲み会などの店だけでなく、定食屋やラーメン屋やその他のサッとご飯食べるだけ的な利用の仕方をする店なども含める、あらゆる飲食店に関して、

「特に価格が上がっているようには感じない」というのが、ほとんどの一般消費者の方の感覚なのではないでしょうか。

先日、小規模飲食店が今何を考えて、どのように過ごしているのかというところの、実際の話を、いくつかの筋から聞きました。飲食店に出入りしているような業種、職種の人たちからです。

相次ぐ食材の値上げが続いていて、このままじゃまずいということは分かっていても、右を見ても左を見ても、誰もまだ値上げに踏み切っていない。そうである以上、自分の店だけが先に値上げをするわけにはいかない…

事実上の、チキンレースです。誰が先に、音(ね)を上げるか。皮肉なダジャレです。誰が先に、値を上げるか。「どうしよう…」と思いつつも、今はどうすることもできず、毎日今までと同じことを、続けていくしかない…。

しかしそのままでは、早晩立ち行かなくなることは、おそらく明らかです。食材価格がどのくらいの勢いで上がり続けているのかは、私は知っているわけですので。私の店だけが特別狙い撃ちされて他のどこよりも値上げの集中砲火を浴びているというのでない限り、おそらく間違いないと思います。

とは言っても、980円の定食に使っている食材原価の総額が、5円、8円、12円、15円…と上がり続けている、という状況は、なんとなく気分的には、「まあ、まだ、数十円とかのレベルの問題だし…」という漠然とした楽観主義のもとに、まだ致命的ではない、と思えてしまいそうなところもあります。

しかしリアルな数字に冷徹に向き合えば、その10円単位の原価の違いというのは、経営上は大きなインパクトです。
飲食店の利益率は、ある程度以上安定的な経営をしている店でさえ、せいぜい2〜3%程度のものです。単純計算したら、980円の定食から得られる純粋な利益は、驚くことに20円かそこらなのです。

そのわずかな利益を稼ぐために、980円の定食の原価は290円以下に抑えなければならない、とかいうふうに計算して、外国産の冷凍カットボイル野菜とか冷凍肉とか冷凍魚とかを使って、なんとか原価を抑えてその価格でやってきた、というのが、デフレ日本の飲食業の本当の姿だったのです。

そしてコロナ禍以来、感染状況の拡大と縮小という波を繰り返す中で、飲食業界では、とにかく人手不足という状況が続いています。スタッフを募集しても、集まらないのです。

そのため、昨年以来、かつては考えられなかったような時給の高騰が続いています。

国レベルでの最低賃金の話を見てもわかるように、時給を数十円上げるということは、大変なことです。
だから飲食業界はこれまでずっと、50円の時給アップなんて考えられない、という前提で、ケチって、渋って、店によってはワンオペと言われる無茶なシフト体制を敷いて、人件費を抑えて抑えて、それで上記の2~3%の利益を作っていたのです。
それがここ数ヶ月程度の間に、いろいろな求人情報で、時給が50〜100円程度、上がっているのを見るようになりました。

さらに加えて、光熱費までかなりの幅で上昇しています。これは一般家庭の皆様も、すでに実感されている方はされていることかと思います。

かつてないほどの逆境の波は、すぐ目の前にまで、押し寄せてきています。

(つづく)

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