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年中休業うつらうつら日記(2024年8月17日~8月23日)

24年8月17日

そんなわけで「ワンダヴィジョン」のテレビシリーズを次々と観ている中に息子が帰ってきた。
15時半に家に着いて、とりあえず16時には出かけてしまうあわただしさだ。
「夜にまた帰るよ。下北沢からの電車がなくなる可能性もあるから、お父さんの電チャリ貸して」と言って電動自転車に乗って出かけた。
暑いのにご苦労さまなことだ。
明日、下北のお店で息子を中心としたコントライブをやるので、打ち合わせ等に忙しいらしい。

平和に心安らいで映画三昧で過ごすはずだったのに、と思いながらもどうせ今週末泊りがけで来ることは予定の行動で、我々も明日のチケットは買っておいた。
思いのほか早く山小屋の仕事を辞めてしまうので次の計画が始まる11月初めまで9月にひと月近く実家に滞在するつもり、というのが予想の範囲を大きく超えているだけ。
それぐらいでいちいちうろたえていてはこの息子の親は務まらない、とあらためて心に刻んだ。

結局夜中の2時半に電チャリこいで帰ってきたので、少し昼寝して備えておいて正解だった。
山での働き先の話をいろいろ聞いた。
地方豪族が持ち物である山林を使って山小屋を開き、建て増しに建て増しを重ねたわけのわからない日本家屋が出来上がり、最大収容人数は100人ぐらい、ってところがまず我々の想像を軽く超えた。
山小屋、っていうから小規模な、簡素なものだと思い込んでいたのだ。
息子が山からくれるメッセージに「ステーキにつけるホースラディッシュがなかなかいい形にまとまらない」とあった時、「普通、ローストビーフにつけるものでは?赤くてコロンとした生の状態を盛りつけてる?」などと勝手に想像していたのだが、聞いてみたらやはりおろしたものとのこと。
夕食にステーキが出る時点で、それはもう「山小屋」じゃないなぁ。

「昼間はレストランもやっているが、カレーが1700円する」
「一族経営で、古くからの土地持ち。その一帯では『殿様』のポジション。おじいちゃんが会長、おかみさんは厨房で怒鳴っており、長男が社長で次男は厨房長、長男の奥さんが若女将。10歳の孫が客室のシーツをはがす仕事をイヤそうにやっている」と聞くと、それはそれで立派な後継ぎ教育だとは思うんだが、やっぱり想像を超えている。
「『殿様』が経営する山小屋」?
殿様のサービス業ってところから、ちょっと受け入れにくい概念だ。

「従業員に女の子が多いので洗濯場がいつも女子で混みあっており、入っていける雰囲気じゃない。だから3週間ぐらい全然洗濯できてない。同じパンツをずっと履いている」
「僕の主な仕事は皿洗いと掃除。山に来てこんなに食べ物を残すのか、って驚くぐらい残菜が多いのがつらい。それをゴミ出しするのも、作業的にも精神的にもつらい」
「おかみさんがきつくて、厨房で誰彼かまわず怒鳴り散らしている。もちろん僕も怒鳴られる。怒鳴らないと人は動かない、って思ってるのかね」などというのが彼の主な感想であった。

「空気のきれいなところでのんびり働く、なんてイメージじゃないよ。ほとんど景色も見てない。休みの日はくたびれて寝倒すか、外出してもそんなに遠くへは行けない。門限が16時だから」
バイトの休日に門限を設定するのが労働基準法上どうなのかはわからないが、「17時ぐらいにはもう薄暗くなる」そうなので、夜になっても帰らない人が出ると大掛かりな山狩りを開始しなきゃいけないって山の掟も関わってきそう。
北海道では熊が出そうな観光スポットでは猟銃を持った猟友会の人々が警護に当たっていたが、猟銃免許を持ってる人が少ないのか人口密度が高くてケガ人が出る恐れからか、「麻酔の吹き矢で眠らせて、屠殺するか山に返すかのどちらか」というやり方を取っているらしい。
吹き矢が出てくるとは思わなかった。

1日14時間、こんな感じで働いているのか、彼にしちゃ頑張ってるな、と思えたので、イヤになって辞めるのではなく今後の展望が変わって茨城に拠点を移す準備、というのもあながち出まかせでもなさそうだ。
演劇の仕事も入りそう、と言うし。
ただ、演劇の話がなくなった時には我々が数日旅行に行くスケジュールと重なるので、その時は一緒に連れて行くことにした。
「はい、帯同します」
キミの日本語は、よく知らない難しい言葉を使いすぎるからしょっちゅう間違っている。
この場合は「同行します」だ。
指摘したら相変わらず文句つけたそうな顔をしていた。
もっと本読め。それか、平たい言葉を使え。「一緒に行きます」で十分だろう。

風呂上がりに「カレーあるよ。食べなさい」と言うと、肩にバスタオルを掛けただけのほぼ全裸、じきに31歳になるフルチン男がリビングの真ん中に突っ立って、「あっためてよ~」と情けない声で懇願する。
今日1日、徒歩2時間で山を下りるのを含めた移動続きでくたびれたのか、さんざん皿を洗ったり人にサーブしたりしてきたので誰かにサービスしてもらいたくなったのか。
「自分でやる約束でしょ」と私が咎めたら、せいうちくんは「まあまあ。今日のところは疲れてるんだから」といそいそとごはんにカレーかけてレンジであっためてあげている。
この父と子は、相当ダメなんじゃないだろうか。

24年8月18日

すっかり話し込んで寝たのは明け方の4時頃だったが、昼頃に起きた時は息子はもう自分で起きてカレーを食べて皿を洗って出かけたあとだった。
Messengerに「食事をして先に出るね。今晩、また」と送信を残して。
「ちゃんとしてきたね。僕らよりずっとちゃんとしてる。やっぱり昨日は甘えてみたかったんだね」と話してるうちに我々も出発する時間だ。

昨日、突然せいうちくんのメガネのブリッジが右のレンズの付け根あたりからぽっきり折れて、急いで調べたらまだフレームの保証期間内だったので、メガネ屋に持って行かなくちゃ。
防災リュックに入れてる分も含めて過去のメガネで一番マシな視力が得られるやつを探し出し、かけていくことになる。
「わずかの間にずいぶんと度が変わっている。どれも見えにくい」とぼやいていた。

私は私で新しく買ったピアスのキャッチ「落ちないくん」が、寝ている間にシリコン部分だけぽろっと取れていて(シーツの上で発見できてよかった!)抜け落ちを防ぐ金属部分だけが残っていて、耳から外すのに大変な思いをしたうえ、元には戻らなかった件がある。
現物を持って行って、店のある駅を離れてすぐぐらいに「今現在、はまっている状態で、問題ないのでメーカーさんは交換に応じません」と連絡があった。
「実際に自分で直すことはできなかったのだから」とあちこち電話して、やっと交換の目途がついた。
今日、引き取りに行く。メガネ屋と同じ駅でよかった。

もひとつついでに、息子と昨日、上高地が思ったよりずっと観光地だったと話していた時に、「確か島田荘司の御手洗潔シリーズに『上高地の切り裂きジャック』って作品があったなぁ」と思って小説リストをあさってみたが図書館で借りて読んだのか、持ってはいなかった。
これをぜひブックオフで手に入れたい。
ちなみに井上靖の「氷壁」も話題に出たけど、こちらはせいうちくんがデータ化してあるそうだ。
そのうち読もう。

というわけで3件の用事を順にこなす(『上高地の切り裂きジャック』は見つからなかった。古本を手に入れる難しさにあらためてぶつかり、Amazonがあってよかった、1円の本に送料が350円もかかるところがくやしいが、ノベルス版を買おう)ドラクエのお使いイベントみたいなことをしていた。

その間に息子から連絡があった。
「今日、珉亭やすみだった」
がーん!そうか、お盆休みなのか。
昨日、息子に「せっかく下北沢に行くんだから、珉亭でラーチャン食べてからトロワ・シャンブルでコーヒー飲むよ。並ぶけど」と話しておいたのが役に立った。
いいか、せいうちくん。会話というのはこのように役に立つものなのだ。
息子が気が利くのもありがたいが、私が他人に余分な情報を出してばかりいると呆れるのはよしてくれ。


まだランチタイム中だったので行きつけのタイ料理屋に行ってせいうちくんはカオソーイ、私はパッ・タイといつもと同じものを頼む。
ランチのコースはミニ春巻き・スープつき980円から、ミニ春巻き・スープ・ミニタピオカココナッツ・ドリンクつき1280円になっていた。
値上げはしたいが、ただ値段だけ上げると値上がり感が目立つので料理の品数を増やす、かなり典型的なパタンである。
おまけによく見たら店の名前もわずかに変わっていた。
別の資本下に吸収されたのかもしれない。
変わらないものはどんどん減っていくなぁ。

トロシャンで30分ほど並んで入ったあと(入り口前に灰皿があるのでとても助かる)さて、インプロコントライブの開場まで3時間弱か。
並んだことを思うと次の人々のためには早く出るべきなんだろうが、ここは1人3杯ぐらいは飲んでお店への義理を果たしたうえで長居させてもらおう。

並んでいたら、後ろの若いカップルが「このお店、可愛い~」と喜んでいる。
「45年前から通ってるんですよ」と思わずいらん薀蓄を傾けてしまう。
「えー、そんなに前からあったんですか。何かおススメはありますか?」と聞かれたので、
「チーズケーキ美味しいですよ。あと、コーヒーはとても美味しいです」と答えておく。
今はトーストを売りにしているようだが、食べたことないし、今日はすでに品切れと看板に書いてあった。
2人はトーストが食べたかったようで、残念そうだった。


やがて店に入ることができ、せいうちくんはニレブレンド、私はアイスコーヒー。
45年以上の歴史が壁の「五劫の擦り切れ」や椅子の背もたれの破れなどに現れている。
しかしトイレに扇風機を置いてくれているのは大変助かる。
トイレで起こることを考えると、私は非常に汗をかいてしまう場面が多いのだ。



そこでせいうちくんとトラブルが起こった。
この先仕事のボリュームが増えるかもな話を7月終わりに聞いていながら、「考えがまとまるまで」と私に話していなかったのだ。
それもまったく関係ない話を私が振ったらそのうちに出てきたもので、彼が自発的に話し始めたわけではない。

「それは、私と『ダンナさんが時間が取れるようにして、話しかけてあげてください』ってアドバイスをくれたドクターに相談するべき案件でしょう。あなた、ドクターに気軽に『しっかり話題を作るようにします』って請け合ってたけど、あなたからの話題ってちっとも増えてないよ。相変わらず私ばっかり話し始めてる」から始まって、仕事のボリュームと私生活のバランスをどうとるつもりなのか、とひと議論起こったわけ。

この先ゆっくり考えよう、ただ、物事を引き延ばしたり可能な限り遅くに行って現実から逃げたがるせいうちくんのクセにはイライラさせられる。
私が問い詰めるまで「ぼんやり考えてた話」「まだどうなるかわからないし」といったぼやっとした話にしておきたい悪癖が治らない。
「あなたはお母さんにやりたいことを言うとこてんぱんにされてきたから、60歳過ぎてもテストを隠していて『見せなさい!』と言われるまで『消えてなくならないかなぁ』と祈ってる子供みたいだ」といつものお説教をしてしまう。

さて、それぞれお代わりを頼んで3杯ずつ飲んで、有意義な話し合いもできた。
やはり喫茶店には魔力があって、会話がものすごくスムーズにあふれるように起こるのだ。場所代がかかるだけのことはある。

そろそろ開場時間だね、と駅前の方に向かうと、お店の看板は10メートル先ぐらいに見えるのに、間の細い通りをお神輿と阿波踊りチームが警備の人に守られて列をなして通っており、15分ほど歩行者が止められていた。
当然あたりは人だかりでいっぱいになり、皆、スマホを掲げて行列の写真を撮っている。
下北沢に通って長く、住んでた時期もあるぐらいなのに、お祭りの行進は初めて見たよ。
おかげで開場時間には少し遅れたが、下北沢での阿波踊りという珍しいものを見られたのはよかったかも。

受付でさっそく息子に会う。
「高校の時の、C先生来てくれてるよ。お話したければ奥にいらっしゃるから」と聞いて入場料を払うのもそこそこにすっ飛んでいく。

このC先生は長年息子の高校で教鞭をとり、演劇部の活動に大変尽力された方だ。
今でも折々息子にメッセージやFBの書き込みをくれるありがたい存在。
直接の担任をもってもらったことはないが、とても生徒思いの人気のある女性で、演劇部顧問を長く勤めていた関係で息子はいまでも折々に仕事のことなどを相談させていただいているみたい。
先日も高2、3年時に担任だったY先生と一緒に見に来てくれて、成績が悪いのに志望大学で早稲田しか主張しないのでY先生にも大変ご迷惑をかけたが、Y先生はC先生にこう漏らしていたと聞いた。
「林賢くんって、いつの間にあんなにいい男になったんでしょうじぇうね…」
高校時代のいつでもぼーっとして眠そうでよく滑るギャグばかりやっていた息子は、別人のように見えたようだ。
確かに、親が見ても顔つきは変わった。良い方向に。

C先生は、
「林賢さんは、他人を貶めない笑いを追求しています。奇跡のように美しい心で、彼の宝だと思います。もっと、もっと、そいう情熱を受け入れていくれる場があれば、と祈らずにはいられません」と涙ぐんでいらした。
大丈夫ですよ、彼は「しまいには何とかしてきた」人間なので。
これからも時々ステージを観にきてやってください。

20時になり、お客さんはぼ満席、みんなカウンターで買ったワンドリンクを持って、前口上を述べる息子を見つめている。
MCもずいぶん上手になった。
ただ、今夏はカナダから1年後に帰ってくる予定で、仲間たちにお店の後を託して行ったところ、「6日間で帰ってきちゃいました」について禊をしなくてはならない。
とりあえずいいライブをぶち上げるしかないだろう。頑張れ、息子。

インプロコントは、数名のグループメンバーに対してお客さんからその場で「お題」をいただいて、そのお題にそったコントを即興でやるという、アメリカではわりと当たり前のコメディ形態らしい。
アメリカのお笑いはざっくり5つのジャンルに別れ、スタンダップ、スケッチ、インプロ、バラエティ、それから喜劇だそうだ。
インプロは堂々とひとつのジャンルを形成している。

息子がNYでこの芸に巡り合ってから、彼はずっとその面白さに夢中だ。
その場にいる観客も一緒に楽しめる、という観点から、配信や大きな小屋を好まず、あくまで自分たちの目と手が届く範囲の人数で笑いを共有したいらしい。
彼が時々開く「りんけん寄席」ではここしばらくずっと前もって5人ほどの参加希望者を募っており、私も出してもらったことがあるぐらいだ。
だんだん参加希望の枠が埋まるのが早くなってきているような気がする。

いろいろに面白い「お題」が出て、これがどうしてこんなに面白いコントに化けるんだろう?、ってところがまた貴重。
「よそのうちの仏壇」なんてお題が出るとは、お客さんも相当慣れてきているのが見て取れる。
1時間半、2千円とワンドリンクのオーダーで楽しめる素敵な夜だった。

終了後は演者さんたちや他のお客さんたちとの交流の場に早変わりし、皆あちこちでプラカップを傾けている。
私は早速大好きなUちゃんにご挨拶に行ったら、せいうちくんが後から言うには、「林賢母、Uさんがむっちゃ好きだからなぁ」と失笑が起こっていたらしい。
そんな裏話は関係なく、いつもお世話になっているお礼とこれからもご活躍くださいを伝えられたので満足だ。

23時ごろまでいたが、お客さんはほぼ帰ってしまったので我々も電車で帰ろうと皆さんにご挨拶をして店を出る。
ちょうどベンチと灰皿が置いてあったので、家までもたないと思って一休みして一服。
そしたら店内で円陣を組んで「お疲れさまでした!」という声が聞こえ、演者さんスタッフさんたちがぞろぞろ出てきた。
エレベータで帰る組と喫煙する組がいるようだ。

我々が座っているのを見て「おわっ!」と驚く人あり、くるりと踵を返して「最悪だから」と叫ぶサブリーダーのFくんありで、円陣組むのを聞いちゃったのが悪かったのかな。
とにかく、帰ったと思った人間がまだそこにいるのは想定外だったらしい。
「林賢くんの影響でタバコ吸い始めたんですか?」から始まる、喫煙者たちの軽いおしゃべりの時間を楽しませてもらった。

「あと数日で65歳になるので、それを節目に禁煙しようと思ったんだけおd、息子が実家に滞在しそうなので止められません」と話したら、誰かが、
「おい、林賢、かーちゃんはオマエのせいでタバコ止められないんだぞ」
「え?僕がストレスかけるから?」と顔を出した息子と一同に、
「いいえ、そういう意味ではなく、『タバコ1本つきあってよ』って換気扇の下でおしゃべりする時間が好きなんです」と答えたら、「いい話だ~」と皆うなずいてくれた。
それではホントにホントのさようなら。お疲れさまでした。
息子が仲間たちに囲まれているのはとても心温まる光景だったよ。

エレベータを出たところ、店の入り口隅に見慣れた電チャリが置いてあり、せいうちくんの電チャリ混んで今日も午前様かな、と想像する。

せいうちくんとは結局トロシャンでもめた仕事の話が再燃し、帰って水風呂に入っても私はまだ頭から湯気が出るぐらい怒っていた。
ドクターからも「奥さんに話しかけて、話題を提供してあげてください」と言われて、やる気満々の姿勢で「はい!」と答えていたくせに、なぜこうもフランクでない人なのか。

3時過ぎに帰ってきた息子にそんな事どもを訴えたら、「そりゃお父さんには無理だよ。足がない人に走れって言ってるようなものだよ」と軽く一蹴され、「でも少しは母さんを気の毒に思って」とすがっても「そういう人を選んだのはあなたでしょ」ととどめの一撃。
はい、もう寝ます。
息子も10時ごろの電車で発ち、また2時間の山登りをして帰るようなので、早く寝るがいいだろう。
今日は、とてもいい顔してたよ。
いいライブだったからだろうね。
彼の夢が少しだけ理解できた気がした。
ああいう場を作れたら、幸せだろうなぁ。

24年8月19日

息子は「また1日5時間の皿洗いをするのか」とぼやきながらもせいうちくんの作ったおにぎりを持って山に戻って行った。

私は薬を多めにのんで、せいうちくんの仕事が終わる時間までうとうとして過ごした。
夜中は当然そんなに眠くないから鬼のように自炊した。
幸い、今、カイジのシリーズがどんどん来てるから対象物に不自由はしてないのだ。

せいうちくんのこの「打って出られない性格」はどうしたもんだろう。
正直、学生時代は誰かれなくつかまえては「話をしましょうよ」と強引だったぐらい人恋しいタイプだったし、そういうところを好きになったんだが、会社で再教育されてしまったのだろうか。
本人によれば、
「母親に趣味も友人も生活も仕切られていたので、大学に入ってタガが外れてた。『まんがくらぶでは、いくらアニメの話をしてもいいんだ!』って浮かれてる頃に会ったのがキミ。頭の回転が速くて議論に強くてちょっと怖いぐらいのおねーさんに、一発で参ってしまった。それ以来、無理に自分を出さなくてもキミが引っ張り出してくれるのと幸せになってしまってもう何の不満もないから、他人と話したい!という焼けつくような願いを持たなくなったのかも」ということだった。
巡り巡って私が悪いのだろうか。
ある種のタイムパラドックスみたいに感じるぞ。

24年8月20日

「明日、心療内科のドクターに会ったら、あなたのことうんと悪く言いつけてやるから!」と脅しながら、もうアベンジャーズの一環としての「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」第3弾を観る気にもなれず、しかし日曜からずっと大河ドラマの録画を観るのを忘れていたのだけはしっかり解決して、寝た。

たった今は森恒二に助けられていて、「無法島」「自殺縞」を読み返したあとは「ホーリーランド」を読んでいる。
これが終わったら現在進行中の「創世のタイガ」に頼ろう。
週刊ジャンプの新しいのが出たらしく、YouTubeの「呪術廻戦」ネタも盛んだ。
「ゆっくりしていってね」と「モチベ低下の呪文を祓うため、チャンネル登録をよろしくお願いします」の人のをよく観ている。
あと5話で終わるはずの「呪術廻戦」、とても楽しみ。

24年8月21日

暑いので通院にタクシーを使った。
8月末で身障者用福祉チケットが期限を迎えるうえ、あと2400円分しか残ってない。
帰りは自腹も盛大に切ることになるだろう。
毎度乗る前に「福祉チケット使えますか?」と確認してから乗るんだが、今日は運転手さんから、
「福祉チケット、今月が期限ですが大丈夫ですか?」と聞かれた。
もちろん大丈夫と答えたが、自治体から年に1回支給されるタクシーチケット、確かに今月過ぎると今ある分は使えなくなるから今年も微調整しながら使っていたのだが、運転手さんから指摘されたのは初めてだなぁ。
この謎は帰り道でちょっと解けることになるんだが、まずはドクターとの面談。

「2つ困っています。ひとつ目は、10月末までは山小屋で稼いでいるから安心、と思っていた息子が方向を変えて、9月7日に京都で大学の生徒さんの前でしゃべる仕事が去年に引き続いてきたのでやりたいようです。それだけなら山小屋をやめる理由にはならないんですが、尾瀬に出稼ぎに行っている妻とも連絡を取って、2人が一緒にできる新しい計画を考えているそうです。それには、うちに1か月ぐらい居候するのが金銭的にはベストなんですが、長期間一緒に暮らせるか自信が持てません。かと言って、お互い実家が苦手な我々からすると『困ったら頼る先、それが実家』って状態の息子は良い育て方をできたかもしれない、少なくとも虐待の連鎖は切れた、と思うので、断ったらそれはそれでこっちが苦しみそうです。
ふたつ目は主人が先生の教え通りに『話しかけてくれるようになった』かと言えば、全然です。今日も喫茶店でこっちが振った話から展開して仕事上のボリュームが変わるかも、って話を7月末に持ちかけられた、って白状しました」

先生も驚いたらしく、椅子から飛び上がりそうになって、「そういうのこそが『話題』でしょうに!」とあきれていた。
「あの人(せいうちくん)さぁ、熱心についてきて『僕にできることは何でもやります』『家内にどうしてやればいいんでしょうか』って前向きだし、論理的に話を進めてくれるから『頭いい人なんだな』って頼りにしていたのに、ダメなのかぁ!」
そうなのよ、カッコつけて「誰よりも妻が大事です」とか言いながら、自分が要求されてることが難しいともできないかもとかも思わずに「やります!」って言っちゃう人なのよ。

「今から2週間ぐらい前に聞いてたけど考えがまとまるまでは、と私に黙って考え込んでました。8月18日の時点で7月末のことを『2週間ぐらい前』と表現すること自体、物事を曖昧にしておきたい彼の性格の弱さを露呈しています」とひと息に訴えた。
先生がそこで時計をちらっと見たのは日付を確かめるためで、7月に聞いた話はどう頑張っても2週間前にはならないよなぁと思ってくれたと信じたい。
せいうちくんはそういうつまらないところで話を自分有利に持っていこうとする悪癖があるのだ。
事実をすぐに告げずに、「テスト帰って来たんでしょ。見せなさい」とお母さんが言うまでランドセルの底に隠している子供のあたりから、全然成長してない。

結局また急遽薬は倍増、せいうちくんには先生から、
「がっかりしたって言っといてください。あと、この問題を夫婦で片づけようと思うんならダンナさんの実家トラウマを何とかしないといけないかもしれない。必要な場面で主導権をちゃんと握れないのは人格に問題ありです。トラウマが邪魔してるんだと思います。僕はそう診立てます。ご主人に考えてみるよう言っておいてください」

次は2週間後だが4週間分の薬をもらえてしまったので、ドクターもそれなりに私が混乱・動揺してるのがわかるんだろうな。
ただ、息子のことは「受け入れてあげたらいい。ルールを厳しくしないと子供はつけ上がりますけどね。これで孫でも出来たら大変ですよ。こっちは疲れてて別に会いたくないのに、孫の顔さえ見せときゃご機嫌だと思って律儀に来ちゃいますからね」と相変わらずの名言を数々吐きながらのお別れとなった。
2週間後までの課題は重いなぁ。
でも、とにかく暑い間は薬のんで寝てなさい、って意味に取って開き直るよ、私は。

行きのタクシー運転手さんは、「福祉チケットは今月が期限ですよね」と確認してきて、7年間でこんなこと確認されたの初めて、って話を最初に書いた。
帰りに乗ったタクシーでも、いつものように「福祉チケット使えますか?」と聞いてから乗り込んだのだが、私が目印として家の近くの病院の名前を行く先に指定したのでまず「看護師さんですか?」と聞いてきた。
「いえいえ、患者の側です。しかももっと正確に言えば、通院の帰りに家の目安として近くの病院の名前を言っただけの者です」と答え、
「でも、ナースに見られるなんて、光栄ですね」と付け加えたら、
「いや、しっかりした感じで、病院っておっしゃるから、ナースさん、しかもかなり偉い地位の方かと思いました」って。
「彼女たちは福祉チケット使わないでしょう」と言うと、
「あ、そりゃそうですね。でもたまに使われる方もいますよ」って。
たまたま身障者であるナースなのか、仕事用に給付されているのか。
ちょっと知りたいところだ。

その運転者さんはチケットの期限なんか気にしたことはなくて、期限がいつかも知らなくて、時々間違えて期限切れのものを使ってしまうお客がいるとタクシー会社が受け付けてくれないのでそういう場合は自腹を切るんだそうだ。
「それはお気の毒ですね。私は今日、去年からの分を使い切りますから、大丈夫ですよ」と言うと、
「あれ、なくなったら追加がもらえるんですか?」と聞かれたので、
「もらえません。金額内でやり繰りしてます」
「でも、全然足りないでしょう、毎月とか毎週とか病院に行ってたら」
「気候のいい時は自転車に乗ったり電車で来たりしますね。今はとても外に出られない暑さなので、ちょうど8月中で切れちゃうチケットだから、横着してタクシーです」
「あ、そうなんですか。足りなかったら足りない、って役所に言って通ればいいんですけどね」
「そもそももらってっるだけでありがたいのでそれ以上は。電車も、介護者がいると2人分が半額になるんですよ。不思議なこと手帳本人1人だけの時は値引きされないんです」
「ええ、そりゃあおかしいじゃないですか。1人の時こそ半額にしてもらいたいですよね。奥さん、それ、市役所とかに談判しに行きました?」
「いえ、したことないです」
「ぜひ行って文句言うべきですよ。だっておかしいもん!」と興奮していた運転手さん。

やがて落ち着くとスマホのアプリが消せないって話になった。(お薬手帳アプリ入れると便利ですよ、って私が言ったせいだな、たぶん)
私自身息子がら教えてもらうまで全然わからなかったので偉そうなことは言えないのだが、こうして知識の灯をリレーしていこうではないか、と思ったら敵はアンドロイドだった。
私のはiPhoneだから、ちょっと勝手が違うかもしれない。
それでも信号で止まるごとにスマホ触ってる運転手さん、最後は方針を変えて、「すみません、降りる時に教えてもらえますか」と来た。
「会社の若いのによく頼むんですが、あんまり毎回だと馬鹿にされちまいますからね。いやあ、親切なお客さんでよかった!」

結局無事にアプリを消すことができたので、お釣りの端数を80円おまけしてくれた、なんとも人好きのする愉快な運転手さんであった。
毎回、こういう人にあたりたいものだ。

家に飛び込んでその勢いでカリオストロ伯爵のように服を点々と落としながら水風呂に飛び込み、様子を見に来たせいうちくんが「先生、どうだった?なんて言ってた?お薬はたくさんもらえた?」と聞いてくるのを返す刀で払いつつ、病院での報告とタクシー2台分の面白い話を講談並みに披露した。

「遠くにあらば耳で聞け、近くば寄って目にも見よ、これが話題というものだ!」と鼻息荒い私に、せいうちくんは、
「ちょっと1時間半とか外出しただけで、よくそんなにいろんな話題が発生するもんだね。僕は周りが見えてないっていうか、エピソードとして忘れちゃうんだよね」
まあ毎日その日あった面白い話をしてくれるのもいいが、ホントは「今、どういう気持ち?つらい気持ちになってない?」と聞かれたいだけかもしれない自分。

24年8月22日

じゃーん!今日はお誕生日。
「還暦過ぎてから歳は数えてないの」などと洒落たマダムはよくおっしゃるが、正真正銘の65歳。
今日という日を記念してタバコをやめ、禁煙するつもりで吸うと水蒸気が出る代替品まで買って備えていたのだが、来月息子が滞在するなら話は別だ。
「タバコ1本、つきあわない?」って換気扇の下に誘う時間は、せいうちくんと娘を除いた我が家、つまり息子と私のちょっとしたオアシスである。

朝から数人の友人たちから「たんおめ」メッセージをもらっている。
もちろん息子からも。
肝心のせいうちくんが、昨日の夜中から今朝にかけて何の発言もなく、
「今日、なんか私に言うことない?」と聞かれてしばらく「あの件は終わったし、漢方薬は注文したし、他にはえーと…あっ!」となるまでしばらくかかった。
「お誕生日おめでとう。この先もずっと一緒にいようね。いや、いてください」とへりくだるところが嬉しいやら歯がゆいやら。

息子妻からもLINEでお祝いを言ってもらい、幸せこの上ない。
せいうちくんは会社の帰りに贅沢な「太巻き」を買ってきて晩ごはんにしようと計画していたが、夏場なので太巻きはやってないそうで、とてもがっかりしていた。
「10月頃に、買ってくるからね」と言われて、とりあえず嬉しい。
新品に交換してもらったメガネをピックアップするついでに買ってこられるものとして「バームクーヘン、ウエストのクッキー、TOPSのケーキ、どれがいい?」と聞いてくれたが、せっかく今、甘いものとあまり縁なく過ごせているので全部お断りしてしまった。
なんか疲れて食欲もないので、誕生日の夜は「フルーツグラノーラ」食べておしまい。

24年8月23日

3連休なので張り切って4時まで起きていたせいうちくん、私とともに今朝は11時まで爆睡。
このあとはマーベル映画をどんどん観ていく予定だ。
3日間、食料品の買い出し以外は絶対に外に出ないぞ。
整形外科も昨日済ませて、シップと鎮痛ジェルは手に入れてある。

「カイジ」シリーズの山もひと通り来てしまい、自炊も終わったので、今読んでる森恒二の「創世のタイガ」が終わったら「カイジ」に移行しよう。
途中で飽きたらどうしよう。
大人買いする前にそれを考えない自分も不思議と言えば不思議だ。
ただ、何でも読んでいればそのうち面白くなるというのもよくあることなので、期待しながら期待し過ぎずに読もう。
息子たちの世代の必須教養科目だと思えば、何とかなりそう。

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