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年中休業うつらうつら日記(2024年6月1日~6月7日)

24年6月1日

せいうちくんが20年来毎年1度(初期は2回やっていた)主催する「休日講座」が行われた。
大元は、藝大卒の友人が卒論で書いた「ジャポニズム」の話があまりに面白かったので、自分たちだけで聞いてはもったいないと思い、他の人たちも集めて聞かせてあげてくれ、とお願いしたことだ。
彼女は「こういうのはスキモノが集まってすみっこでこそこそやるもので、皆に聞かせるようなものではないんだが」と渋りながらも、聴衆10人ほどの前で発表をしてくれた。
それ以来、大学で様々な勉強をしてきた人たちや、面白い趣味の人、のちには何十年とやってきた仕事についてお話を聞く会になって行った。
せいうちくんも毎回工夫をするので、市の所有物である「お茶室」を借りて茶道を嗜んでいる人から「お点前」を習ったり、体育室を借りて「ヒップホップダンス」を教わったりした。

毎回、次の年の講師を決めるのだが、だんだん候補者が少なくなってきて苦労することもある。
しかしなんだかんだ言って皆さん人に話すだけの体験を十分に積んでいる人ばかりで、なんとか講師が決まるのも例年のことだ。
1回の講座でたいてい2人の講師をお願いするので、私も主催者の妻としてそうそう逃げてばかりもいられず、「BABYMETAL」の講座をやってくれた人のあとに「THE ALFEE」の講座をやったことがある。
あれはコロナが猖獗を極めた2020年頃で、初めての試みとしてZOOM開催した年でもあった。

さて、今回は駅から徒歩10分ぐらいのコミセンで、調理室に座敷が付属した施設を借りた。
薬学博士でお料理が趣味の先輩Bさんが「麻婆豆腐は四川料理だが、麻婆茄子と麻婆春雨は陳健民発明の日本料理である」をテーマに料理の実習・指導・試食を行うのだ。
もう1人の講師は農家の長男で原発関係の仕事をしていたFさんで、さらっと「負の遺産としての農地」の講義をしてくれた。


今回は珍しい料理教室だからかBさんの腕前が評判を呼んでいるせいか、15人もの受講者が集まった。
ZOOM参加者3人も含めて座敷で「農地」の講義を聞いたあと、2つの調理台に分かれてBさんの指導の下、みな包丁を振るう。
「自信のない人は僕のいるグループの方に入ってください」のひと言が効いたか、Bさんの調理台に大勢が群がっていたが、果敢にも自分たちで同じ料理を作る別調理台チームも見受けられた。

「今日の料理は全部豚ひき肉を使いますので、本来別々に味付けするのですが、最初に全部に使えるひき肉炒めを作ります」と言われて、ネギを切り、ひき肉を炒め、調味料(あらかじめ合わせておくのが肝要)を入れて万能ひき肉完成。
それを3等分して、麻婆茄子、麻婆春雨、麻婆豆腐を順に作っていく予定だったが、Bさんがせいうちくんに材料買い出しの指令を出した時に「すりごま」は二次会で我が家で料理する時に使う、と書いてしまったので、突如「すりごまが入ります」と言われてあわてて家に取りに行くせいうちくん。
「私のミスです。すみません」とBさんは申し訳なさそうで、じきに無事「すりごま」が届き、料理の順番を変えて対応していたBさんの麻婆春雨に間に合った。

フライパン2つ分ができたところで大皿に移し、うちから持って行った「ごはん入り炊飯器」のごはんと一緒に食べてもらおうと思っていたが、思いのほか皆さんビールに走ったので、ごはんは大量に余った。
これを3回繰り返し、3つの料理を食べ比べて「どれもすごく美味しい!」ということで皆で後片付けをし、冷蔵庫に入れていたものを全部回収し、申請して借りた包丁(調理室には皿や箸、おたまもザルもボウルもふんだんにあったが、包丁だけはカウンターで借りるのだ。事故防止策と思われる)を返して講座はおしまい。
二次会会場の我が家まで、また10分ほど歩く。

私とせいうちくんは自転車で来たが、せいうちくんは道案内をしなければなので自転車を引いて歩くと邪魔だし、重いものの運搬もあったので、かなりサドルの高いせいうちくんの自転車に乗れそうなKくんに頼んで一緒に家まで自転車を飛ばしてもらった。
そうして冷蔵が必要なものは冷蔵庫に入れたりしているうちにせいうちくんに案内されてお客さんがぞろぞろとやってきた。


うちのリビングはたぶん20数平米だと思うが、そこに15人の人間を詰め込む荒業。
立錐の余地もないとはこのことだ。
椅子も全く足りないので、何人かは床に座り込んでいた。
前のマンションは子供もいたのでリビングを広くとったが、今は老人2人の暮らしなのでなるべく小さく暮らしている。
たぶんそこで大宴会をやろうと思うのがどうかしてるのだろう。

しかし、我が家供出のハヤシライスやローストポーク、サラダを出すまでもなく、Bさんが回鍋肉と焼きそばを作ってくれて、最近お母さんを故郷から呼び寄せて同居介護しているNくんが餃子を作って来たのを焼いてくれたりしたので、お料理には全然不自由しなかった。

始めの乾杯の時に、気の利くYちゃんの音頭で6月にお誕生日を迎える人たちへのお祝いの発声があった。
また、我々へのサプライズプレゼントとして、6月17日で35周年を迎える結婚記念日を祝い、私の大好きなクラブハリエの最大サイズのバームクーヘンの贈呈があった。
有志たちが一緒になって買ってくれたらしい。感激!
まんがくらぶきっての描き手Uくん手描きの我々の似顔絵カードつき。
自分たちでも忙しさに紛れて忘れていた結婚記念日のお祝い、ありがとう!
35周年は「珊瑚婚式」だ。
長老が「よくもったもんだ」と感想をつぶやいていた。自分でもそう思うよ。


最近私がクラブハリエから治一郎に鞍替えしたのを知ってか知らずか、Sくんは敢えてクラブハリエ有志には加わらず、「想定外のプレゼントを」と素敵な缶入りのRANMEIのラングドシャをくれた。
サクサクして美味しい。

持ち寄りのワインや日本酒ががんがん開き、にぎやかな大宴会となった。
特に年下のYちゃんを入れると上から下まで15年ぐらいの年齢差のある人々の集まりだったが、あちこちで話に花が咲き、たいへん楽しい会だった。
21時頃にほとんどの人が一斉に帰り支度を始め、いつもの通り泊まって飲み明かすつもりの長老とGくんが残ったが、もう1人、Tくんも残っていたので「これは楽しい夜になりそうだ」と思っていたらそのTくんも30分後にはすっくと立ちあがって「帰ります」となった。
長老の投資の話が続いたので飽きちゃったかしらん。
うちにとって、今、投資の話はとても大事なんだが。

そういうわけでいつもの4人が顔を突き合わせて飲むことになった。
私は最近アルコールをほとんど飲まないので素面だし、せいうちくんも昔ほどは飲まないのでほぼ酔ってない。
深酒をすると目が座ってくるGくんはそれが気に食わないらしく、0時頃に「じゃあ、そろそろ寝るよ」と寝室に行こうとする我々に、
「うさちゃんは飲めないんだからしょうがない。だが、せいうち。おまえはもっと飲め!俺はもうビール8缶は飲んでるが、お前は何本だ?2本?なめたこと言ってんじゃない。飲め!」と、我々の間でなければアルハラとしか呼べないようなことを言い出した。
私も最近せいうちくんが深酒して羽目を外すところを見ていなくてつまらなかったので、
「じゃあ、飲んでおいでよ。私はベッドで休んでるよ」とせいうちくんを長老とGくんにまかせて立ち去った。

マンガを読んでいるうちに少しうとうとしたのか、メガネをかけてない状態でリビングに戻ってみたのが3時頃。
長老はなかば意識を失ってソファから斜めにずり落ちていたが、Gくんとせいうちくんは意外と真面目に語り合っていた。
どうやら息子の将来をどう考えてるんだ、と詰め寄られてる様子。
「父親がガツンと殴ってでも正業に就かせようと思わないのか!」と、「働いたら負け」と無職を貫いているGくんが言ってるのはなんとも妙なものだ。
それだけうちの息子に愛情とシンパシィを感じてくれているんだろう。

息子を育ててくる過程で、幾度か「甘やかしすぎ。父親がガツンと言うべき」とか「殴ってでもやめさせろ」という意見を聞いてきたが、正直我々には何が幸せで何が不幸かわからない。
母親から「こういうのが幸せだから戦い獲りなさい」と言われてエリートコースを歩んできたせいうちくんと、同じく母親から「あんたのやりたいことはくだらないことばっかり。お姉ちゃんみたいに堅実に生きなさい」と言われてきた私は、最初の子供である娘が重度障碍児として生まれたこともあって、息子には決して親が子供の幸せを規定することはすまいと思ってきた。
生活上守ってもらわないと困るルールや社会的な約束事はきちんとすべきだが、あとは本人が幸せと感じることをしてもらうしかない。
幸いなことにそんな彼を理解し、支えてくれる配偶者を得て30歳になった息子に、今さら何を言えるというのだろうか。

「俺の父親なんか、星一徹張りにガツンガツンと殴ったぞ。そもそもせいうち、おまえは人を殴ったことがあるのか」とGくん。
「ないよ、そんなの。殴りたいと思ったこともないし」
「俺は、気に食わない奴をいきなり殴って絶交したことがある。おまえも人を殴れ。今、俺を殴ってみろ。俺はお前を殴るから」
「そんな乱暴な」

と言ってる間にGくんがせいうちくんの横っ面を拳固で張り飛ばしたので、ほぼ同時に私がGくんの後頭部を拳骨でガツンと殴っておいた。
どうせせいうちくんは殴り返せないだろから、せめて殴られた分は取り戻しておこうと思ってだ。
結局、Gくんに盛んに挑発されてせいうちくんもGくんの頬に一発入れたが、「はじめてのことで足ががくがくする」と言っていたうえ、寝室に引き上げたあと「まだ顎が痛い。殴り合いは大変だねぇ」とこぼしてた。
私からGくんへの一発はノーカンにしてもらえたらしい。

「酒を飲み、大声で罵倒し、しまいに殴り合う」のがGくんの考える友情の深め合いなのだろう。
実際、学生時代の部室に使っていた寮ではそんなの日常茶飯事だった。
私も中学時代、「親に殴られるなんて、そんなこと一度もないわ!」と驚く友達Cちゃんと、「じゃあ、ほっぺたのひっぱたきあいをしよう。どちらかが泣いたら負けね」と放課後の教室で2人で無言でビンタの応酬をしたことがある。
しまいに2人とも笑い出してしまって勝負は流れたが、今でもCちゃんに会うたび、「この行い正しく誇り高い女性を殴ったのは私だけだろうなぁ」と愉快な感慨に襲われる。
魂の触れ合いもいいけど、そこに到達する前にたまには肉体同士のぶつかり合いがあってもいいと思うのは私が体罰当然の野蛮な家庭で育ったせいだろうか。
「親にも殴られたことのない」せいうちくんをこれまでさんざんひっぱたき、腹や頬に本気の一発を入れ、「キミは人を殴ったり殴られたりし慣れ過ぎている」と言われてきたからなぁ。

5時頃見に行ったら長老はソファからずり落ちた姿勢のまま、Gくんは床に丸まって寝ていたので、それぞれに布団を掛けてあげて、私も寝た。
なかなか興奮する夜だった。
人がいるとテンションが上がっておかしくなるくせに、人を集めて宴会をするのが大好きな困った性格をもうちょっとなんとかしたいね。

24年6月2日

11時頃になって起きてきたら、私以外全員起きていて、長老とGくんは機嫌よく目覚めのビールを飲んでいた。
たぶん一緒に回転寿司を食いに行くであろう2人を送り出しつつせいうちくんも今週の食料を買いに出かけた。
戻って来てから部屋を通常仕様に戻し、
「やれやれ、お料理教室は初めてのチャレンジで買い出しから大変だったけど、すごくうまくいったね。みんな、喜んで帰ってくれたね」と慰労しあい、ばったりと昼寝。

夕方に起き出して一昨日観ていた映画版の「ソロモンの偽証」後編を鑑賞した。
やはりあれば、公立中学3年生でなきゃダメだろう。
学校の出す内申書におびえながらも勇気を振り絞って中3の夏休みを使う、これまで幼馴染だった子たちが別々の高校に行く前に力を合わせる、そこに幼い正義感の意味があると思うんだ。
作中でよくお互いの家を訪ねたりするのも中学生ならではで、高校生は基本的に住んでるところが離れているから、あんなに緊密な付き合いにはならない。
藤野涼子役でデビューした「藤野涼子」の中学生らしい清潔な額に好感が持てる。
観比べてみてよかった。
どうやら間に韓国版の映画かドラマがあるらしい。
残念ながらどのサブスクでも見つけられなかったんだが、韓国の激しい演出が「高校生版・ソロモンの偽証」に影響を与えたのかもしれない。

24年6月3日

また午前中に銀行に行く。
私の定期預金はすっからかんだ。
以前住んでたマンションの近所にある小さな信用金庫のせいか、作業はたいそう早かった。
三井住友とかであんなに待たされたのは一体何だったのだろう。

せいうちくんは仕事に戻り、私はスキャンを進める。
新巻がどんどん出るのをAmazonで確認しながら、北海道旅行の期間に発売されるものは予約せずにリストにしておく。
帰ってきたらポストから宅配ボックスからぎっしりになっていたら困るので、東京に戻ってから注文しようと思う。
ずっと待っていたうめざわしゅんの「ダーウィン事変」新巻が来てから機嫌がいい。

夜は息子がやって来た。
今日はバイトのための健康診断などを受けてきたはずだ。
明日から始めるバイトは「ケーキ屋さんのライン作業」だと思い込んでいたが、どうやら木材販売会社の仕事らしい。
妻も出稼ぎに言って頑張ってる。
キミも少しは男を見せろ。

その妻Mちゃんから連絡が入った。
先日雨で流れたMちゃんのお父さまの墓前に結婚を報告し、カナダへ行く2人の壮行会をお母さまと我々で開く計画がなんとかやれそうだ。
我々が北海道に発つのが21日夜で、Mちゃんが出稼ぎから戻ってくるのが17日。
間に入った息子が「15日はMちゃんも帰って来てるしお母さまもお仕事お休みだから、できるよ」と言っていたのが大ウソで、Mちゃんが調整に入ってくれてやっと日取りを決めることができた。
内田春菊も描いているが、「男の子が他人の話を聞いてないのと適当に返事するのはいくつになったらなおるんだろう」って疑問の答えとして、「30歳でも、まだ無理」という回答例が出てしまった。

晩ごはんに宴会の残りのハヤシライスを食べ、見せたかった三浦しをん原作のドラマ「舟を編む」を3人で観賞し始める。
息子は最初こそスマホをいじったりPCをたたいたり、不真面目に観ていたが、だんだん引き込まれていく様子。
1話観たところで「どう?気に入った?」と聞いたら「まだわからない」と言っていたが、素直に2話目を観始めたのはそれなりに面白かったということだろう。

24年6月4日

何もない日なので思いきりゴロゴロする。
なんとなくラノベくさくて敬遠していた春河35作画の「文豪ストレイドッグス」既刊25巻を読み始めたら、面白くてたまらない。
もうじき手持ちを全部読んでしまう。どうしよう。
最近の人は絵が達者だね。

宴会のお礼メールが次々飛び込む中、一緒に駅まで歩いた講師のFさんとひとつ先輩のKさんが、「やっぱり古い友達は、いいね」と言いながら帰った、と聞いてとても嬉しかった。
せいうちくんも私も友達のリソースが極端に少なく、ほぼ全員まんがくらぶになってしまうので、これからも一生この人たちだけと付き合っていくんじゃないかと思う。
コロナで定例ZOOMを始めたことや、長老の別荘にお邪魔する機会、Gくんとの車中泊などを経て、これまでとは違う人物像も見えてきたりする。
学外OGとしてせいうちくんに出会った頃、上記のKさんやGくんはとてもおっかなくてすぐ怒り出してののしって帰ってしまうのであまり近づきたくない人たちだったが、今はとても大事な友達だと思える。

ただ、この歳になると新しいことをやっているかいないかで人は大きく分かれてくる気がする。
せいうちくんもあと数年したら会社の仕事から完全に離れてしまうわけだが、いったい何を始めるだろう。
もちろんスキャンしまくった本のデータの山を読んでもらいたいとも思うが、何か一緒の趣味を始めたい気もする。
アニソンばかりの合唱団に入るとか、どうだろう。

そうそう、農家の長男Fさんが「負の遺産」としての「農地」の始末に困ってるのだそうで、「息子くんが興味あるなら、あげても貸してもいいよ、とのことだった。
実際には親戚づきあいや近隣との関係で「養子になる」のがベストらしいが。
息子に「コメ作らない?」と聞いてみたら、
「相当な前傾姿勢で考えたい。ぜひ今度お話聞かせてください」とのことだった。
1年間カナダに行ってからの話なので急がないが、とりあえずFさんちの田んぼには我々のツバがついている状態だ。

しかしFさん、どのくらい本気なんだろう?
私としては息子が金沢で「半農半コント」の生活をするってすごく魅力的なんだが。
農家に生まれ育った息子妻Mちゃんや、そこの親戚関係の非道さにケンカして、成人に達した末っ子のMちゃんを含めて子供4人連れて飛び出してしまった「元・農家の嫁」であるMちゃん母はどう思うんだろう。
ま、なにもかもこれから1年が無事に過ぎてからの話だ。

息子の話では今日のバイトはきつかったそうだ。
「マイナス20度の冷凍庫に入る」と言われていたので精肉業者かしらんと思っていたら、冷凍食品の仕分けと運搬だったようだ。
もちろん防寒服などは貸してもらえるが、安全を考えるとせいぜい1回20分ぐらいしか入らないんだろうと勝手に思っていたのに、2時間半を3セットやったそうだ。
「働くのがこんなに大変だとは」とパチンコ屋の店員からカクヤスの配達、道路整理もバーテンダーの真似事もやった息子が言うぐらいなんだから、相当厳しかったのだろう。

「冷凍食品、っていう便利なものができて売れている背景にこういう事情もあるってのがよくわかったよ。消費の裏には生産があるんだね」とひとつ悟ったらしい息子。
「子供のいるお母さんがパートでその仕事をして、家のことをする時間がないから冷凍食品を買って子供のお弁当に入れる、ってな現象も起こりそうだね」と言うと、
「ホントにそう思った。こんな無理な生産をして消費を支えてるのは、どこかおかしい」というのが今回のバイトの感想だったようだ。
自分で世の中のことに気づいていくってのはいいことだよ。
すでに我々よりずっとたくさんのバイト経験を持っている彼だ。
せいうちくんも私も、家庭教師以外には郵便局の現金書留の大郵袋と格闘したとかスーパーでソーセージやアイスの試食販売(総称してマネキンと呼ばれていた)ぐらいしかしていないので、バイトの苦労はあまり知らないのだ。

「舟を編む」の続きを観る。
かなり集中して観るようになった。
いいセリフが多いので、「うーん」とうなったり「いいねぇ」と手を打ったり、ビビッドに反応していた。

実は私もやや「言葉のヒト」の傾向があるので、辞書のページを見る場面で、数行先に書いてあった「田にも畔にも腥物つけて」の読み方と意味に猛烈に興味を持ってしまった。
こういう時に辞書を引かずにググるのは最近の便利さだが、確かに隣の行の言葉に興味を持ったりする機会は減るよなぁ。
ちなみに上記のことわざは「どうせ田んぼや畔をやるなら、魚や肉(なまぐさもの)もつけてやろう」と分別なく相手に何もかも与えてやることだそうだ。
我々の、息子に対する態度を戒められたようで少し赤面した。
でも、おかげでかしこさがひとつあがったよ。

24年6月5日

いかん、いかん、いかん!
せっかく早起きしたのに、芝居の大分公演にADとして参加するため練習に出かける息子を送り出してマンガ読んでる間にうっかり寝落ちしてしまった。
14時半の枠に予約がとってあり、こないだ金属の冠が取れてついでに自分の歯も少し欠けてしまったところの冠ができてきて、入れてもらう予定だったのに!
ハッと目が覚めたら14時25分になっていた。
目覚まし時計もつけるの忘れてたし、せいうちくんは家で仕事してたがその予定を伝えてなかったので私を起こさねばとは微塵も思わなかったのだ。

しょうがないから歯医者に電話し、「予約を忘れてました」と言ったら次に空いてるのは金曜午後だそう。
思ったより早くリカバリーできそうだ。
北海道にかかっちゃったらどうしようかと思ったよ。
寝落ちして予定に穴をあけるとは、ずいぶん久しぶりだ。
やはり息子が来ていてヘンな緊張下で生活してるせいだろうか。

夕方、仕事の終わったせいうちくんが「少し散歩でもしない?」と言うので、歯医者をサボった贖罪として運動することにした。
徒歩20分ぐらいのブックオフまで歩く。
初夏の傾いた日差しはとても暑くまぶしかった。

よく行くブックオフなので、めったに掘り出し物は出ない。
今回もスカであった。
おまけに急にトイレに行きたくなり、コロナ以来そこの店舗のトイレは閉鎖されているのでやや急いで帰る。
街道沿いならばコンビニとかいろいろ手があるんだが、住宅地の真ん中を通っていくのであたりにトイレはまったくない。
かなりの緊迫感をもって家までたどり着いた。
あー、間に合った!

家に引きこもってて一番助かることは常にトイレの近くにいられることだ。
膀胱が完全にパンパンになることもなく、便意で足踏みすることもなく、好きな時に用が足せる。
力んで血管に負担がかからないように緩下剤を常用しているため、時々急に「大爆発の予感」に襲われることがある。
これが車中泊の妨げになるのでは、と案じていたが、実はしょっちゅうトイレ休憩や買い出しがあって場所には困ったことがない。
東京都を出てしまうと、驚くほどあちこちに「道の駅」があってトイレは整備されているし、コンビニもたくさんある。
博物館などの施設のトイレはたいてい綺麗なので用がなくてもとりま行っときましょう、ってのも習慣になった。
意外とトイレには困らない車中泊。

さて、せいうちくんと録画した「雲切仁左衛門(中井貴一版)」の第6シーズンを観ていたら、息子からうちに向かっている途中で電車に人身事故があり、止まってしまったので遅くなる、と連絡が。
20時頃に帰ってこられるはずだったのに、結局21時すぎになってしまっていた。
せいうちくん作の春巻きと炒飯で晩ごはん。
そのあとはまた「舟を編む」。
時間がなくて1本しか観られなかったが、今日はTVの真正面に座ってけっこう真剣に観てた息子。
時々「いいセリフだなぁ」「うまい演出だなぁ」などとつぶやいている。
我々からすると、ずいぶんエンタメを職業にする人になって行ってるみたいだ。

今、和久井健の「東京卍リベンジャーズ」全31巻を読み返しているので、息子に「読んだことある?」と聞いてみた。
「あるよ。いいマンガだよね。でも最後、ちょっとわけわかんなくなっちゃったな」
確かに登場人物とその関係がややこしすぎて、私も2回目にしてやっと理解できたところが多い。
その晩、最後まで読み終えたが、とてもよかったよ。明るい未来へ世界が動き始めて。

私の「不良マンガ」は高口里純の「ロンタイBABY」や「花のあすか組」あたりがほぼ限界で、市東亮子の「やじきた学園道中記」はケンカのシーンこそ多いが不良マンガと呼んでいいものか。主人公は正義の味方だ。
(本編以降いろいろシリーズが出てくると思ったら、ついに「やじきた異世界道中記」が出てしまった…みんな、そんなに異世界が好き?)
今後、想像もつかない立原あゆみの「本気(マジ)!」のシリーズでも読んでいこう。
「麦ちゃん」から入った世代にはとっても荷が重そうだが。

本宮ひろしが拓いた世界だと思っているが、いわゆる暴走族が出てきてからまた雰囲気が変わり、今や「半グレ」というゾーンが出てきてる。
なんとなしにiPad Proにたがみよしひさの「軽井沢シンドローム」と「軽井沢シンドロームSPROUT」を入れてしまうのだった。

斎藤なずなの「ぼっち死の館」が思いのほか良かったし、「チ。-地球の運動について-」全8巻を描いてセンセーションを巻き起こした魚豊の新しいコミックス「ようこそ、FACT(東京S区第2支部)へ」既刊2巻も面白い。
あの人は常になんか「問題」を突きつけてくるなぁ。
あと、枢やなの「黒執事」既刊35巻を読み始めたが、悪魔・バンパイア系が大好きな私にはけっこう向いているかも。
ただ、長すぎて飽きないか心配。

ほぼ同時にふじもとこっちの「イトミミズ」全3巻と灰原薬の「とかげ」全3巻、それから森山凪絵の「この愛は、異端」全3巻をまぜこぜに呼んだので、頭の中で悪魔や怨霊や吸血鬼がラインダンスを踊っている。
さあ、ここに「呪術廻戦」既刊26巻をぶちこむかあ!
毎晩、YouTubeの「呪術廻戦」ちゃんねるを何本も観ているので、読んでもいないジャンプ本誌最新号の情報まで全部知ってしまった状態である。
ネタバレだけど、「乙骨 in 五条」はびっくりしたぞお!

自分が「長編好き」だという自覚がますます深まっていく。
しかも読み返し魔だ。
残った一生で読み返しを続けていたら、いったいどれほどの時間の損失になるんだろう。
まだ読んでないマンガたくさんあるのに。
せいうちくんは「読み返すのが好きなら、好きなことに時間を使ってるんだからちっとももったいなくない」と言ってくれるが、内心非常に焦っている。
なのにたまに無性に「美味しんぼ」全111巻を読み返したくなるんだ。
これはもう、恐ろしい業としか言いようがない。

24年6月6日

「雨ざあざあ降ってきて」ということもなく、6月6日。
今日はバイト入れてないので1回大宮の自宅に帰って少し引っ越しの準備を進めておきたい、と言う息子は昼の13時まで寝ていた挙句に、山盛りカレー食べて帰って行った。
正直言って、彼がいない家は平和で、安心できる。
息子のことは大好きだが、大好きなわりに怖がっていたりいいとこ見せようと背伸びしてスベったりの連続だ。

彼が寝ている間に午前の部最後の時間帯を狙って整形外科医に行っていつものシップと鎮痛ジェルを確保してくる。
10分ぐらいで終わってしまったので、なんかあっけにとられた。
たぶん私は「シップとジェルでなんとかなる患者」なのだろう。
2週間に1回ならいつもの量を出して、それでおしまいだ。
半年に1度ぐらいレントゲンも撮ったりするが、膝下の筋肉がやせてきているのまでレントゲンに写るとは知らなかった。
「もうちょっと、このへんと大腿四頭筋を鍛えてくださいね」といくつか体操を教えてもらったのだが、正直全部忘れた。

せめて時々は散歩をしよう。
自分の足だけで歩ける期間はもうあまり長くないかもしれなくて、それはとてつもなく不便な気がするから。
そういえば、先日の休日講座にリアル参加していた女性は、53歳から67歳ぐらいまでの3人が全員マイ杖を持ってる人だった(私も含めて)。
体重重めだから?女性は膝や腰を痛めやすい?
出産経験者は2人だったので、それで全体をくくるわけにもいかない。
新たな謎である。

24年6月7日

息子のいないひと晩を過ごしてみると、彼の存在が相当なストレスの素になっているのに気づく。
言うことはいい加減だし、すぐにバイトを休んでイベント入れちゃうし、そもそも出稼ぎに行ったMちゃんが頼んでいった部屋の引き払い準備をほとんどしていないのが話からうかがえる。
こんなことでは早晩Mちゃんに「役に立たないヒモ」」として切り捨てられてしまうのではあるまいか。
キッチンに彼が残した「途中にぐるりと牛乳の筋がついていて、とどめに全然洗ってない」グラスを発見し、これじゃまるっきり7年前に家を追い出した時のままだよ、と嘆く。

今回の長逗留、聞始めたばかりの頃はもうちょっとしおらしく見せていたものが、実家の気楽さに地が出てしまったというか、あまり成長したとも思えない。
もし息子がMちゃんに離婚を切り出されても、絶対に実家に彼を引き取ることはすまいとせいうちくんと堅い約束を交わした。
だってお互いに嫌いになって行くばかりなんだもん。
単に、私が他人と暮らせない性格だからかもしれないが。

今日は会社に行ったせいうちくんが帰りにGくんちに寄ってキャラバンを持ってくる。
下北沢で夜中にライブが終わる息子を拾い、大宮の彼のアパートに行き、寝袋で泊まりつつ本と本棚だけは整理して預かってあげる約束になっている。(あ、あと、私がMちゃんにあげた中古の電子オルガンも預かることになった)

せいうちくんは「手伝いすぎ。彼が困ったりMちゃんに怒られたりするのを黙って見ていればいいのに」と言うが、私は物事がさくさく進まないのが大嫌いなんだ!
何としても今回、本棚と本は家に持って帰る!

こういう時、「諌死」を考えてしまう。
「母さんはあなたが無責任に暮らしてMちゃんに捨てられるのを見たくないから、命をもって忠告し、諫めたいと思う」って抗議行動としての自殺をする、アレだ。
何よりも未来の私が息子のことで悩む必要がなくなる。無責任になれる。
妻が1か月の出稼ぎに行ってるのに、「今日はバイトはオフ」と言って部屋に帰って片づけをするでもなく夜中にゲームにふけり、昼過ぎまで寝ている男ってどうなんだ。
完全な失敗作じゃないか。
せいうちくんは、
「僕もそんな感じにだらしなかった。僕の悪いところが遺伝しちゃってごめんね。人間、最後は子供を育てて見ないと本当の意味での『他人の都合に合わせて生きる』ってのが身につかないのかもしれないね。会社に入っても、娘のために1年間の介護休暇を取るまで、自分が本当にすべきことは何か、ってのがわからなかった」と語る。

今夜に備えて寝ておこう。風呂も入っておこう。
Mちゃんから連絡が来て、18日はお墓参りはせず、壮行会だけを開くという話にお母さんとの間ではなってるらしい。
ああ、こんなふうに連絡が的確でスムーズで決めたことはさっさとやり抜くMちゃんに、息子は果たして十全に応えてあげられるのだろうか…

さあ、おととい寝坊して行きそびれた歯医者に行って金属の冠入れてもらうぞ。
「敗者復活戦」だ!(つまらん駄洒落…)

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