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010 問う① ふたつの問い方

前回までの “聴くスキル” に続けて、今回から “問うスキル”(質問スキル)に話を移します。

質問の力

人は誰しも自分なりの考えを持っています。ですので、他人から指示・命令されたり、反対に自由な行動を抑制されたりすることを基本的に嫌います。

見ず知らずの人から突然理由もなく指示・命令されたところで、大抵は無視することになるでしょう。ところが驚くべきことに質問だけは例外で、(少なくとも途中までは)相手はこちらの思い通りに従ってくれます

何の話かと言うと、「人は誰かから質問をされると、その事について考え始めてしまう」習性のようなもの(?) があるということです。こちらの質問を耳にしさえすれば、相手はそれまでの思考を中断し、質問の内容について考え始めてくれます。つまり、こちらの望む通りに頭を使ってくれるわけです。

書店で見かける『相手を思い通りに動かす○○術』のような怪しげなテクニックより、よほど確実に相手を操れるのが質問なのですが、実は致命的な欠陥があるため、この効果はあまり知られていません。── 致命的な欠陥、それは「質問について考えてはくれるが、その返事を口にしてくれるとは限らない」ということです…。

返事のされ方

たいてい質問は返事をもらうのが目的のため、考えてもらっただけでは殆ど意味がありません(サイレントコーチングなど一部の例外を除く)。そこで「考えてもらえる」という効果は、多くの人から無視されることになりました。

ただし返事は口にされないことがあるだけで、全く返ってこない訳ではありません。誤解を怖れずに言うなら、回答は 100%返ってきます

それには次の3パターンがあります。

相手からの返事のされ方
・「答え」を返してくれる
・「答え」や「意図」が分からない、と返してくれる
・「答えてやるもんか」という態度を返してくれる

「これ好き?」と問われて、たとえば「好き/嫌い」と返事してくれるのが最初のパターン。「自分でも分からない」という場合※や「日本語ヨク分カラナイ」という場合、「なんでそんなこと聞くの?」と逆質問をする場合、などが2番目のパターンです。
※返事を考えることを、“記憶の検索” と捉えると
 「404 Not Found」に相当します

そして3番目の「答えてやるもんか」もまた、ひとつの返事です。言葉ではありませんでしたが、態度というノンバーバル(非言語)手法を選んでくれたからです。たとえこちらを無視して立ち去ったとしても “背中で質問に応えてくれた” と考えればよいわけです。

こちらにとって最も有用なのは最初のパターンですが、これには相手と仲良くなっておく必要があります。完全に心が開かれていれば、どんな質問にも正直に答えてもらえるからです(詳しくは次回「011 問う② 6W1H」にてお伝えします)。

ふたつの質問の仕方

ところで、CANON と書いて「キャノン」と読むが「キヤノン」と綴る(ヤを小さく書かない)ように、読みと綴りが一致しない言葉がいくつかあります。質問を意味するQuestionもそのひとつで、通常「クエッション」と読みますが、一般的に「クエスチョン」と綴ります。ただのロックイン効果と考えられますので、ここでは読み通り「クエッション」と表記します。

さておき、質問の仕方には、次の2種類があります。

・クローズド クエッション
 … YES/NO で返事できる質問(例:このペン好き?)
・オープン クエッション
 … YES/NO で返事できない質問(例:これな〜んだ?)

前者は「YES/NO」に回答の範囲が絞られているので “クローズド” クエッション、後者はその可能性が無限に拡がっているので “オープン” クエッションと呼ばれます(「これな〜んだ?」と問われて、「ペン」と短く答えても、「フリクションボール」と製品名を答えても、「擦ったら消えるやつ」と機能を答えても返事として成立するため答え方の可能性は無限大です)。

そしてこのふたつには、それぞれメリット/デメリットがあります。

質問が上手い人は、このふたつを意識して使い分けます。たとえば次のような感じです。

販売員「何かお探しですか?」
お客様「えぇ…」
販売員「どういった物をお探しですか?」
御客様「娘へのお土産を…」

御客様に対して販売員が、最初はクローズドクエッションで、続けてオープンクエッションで対応しています。これをいきなり「何をお探しですか?」などとオープンクエッションで声掛けすると “ (見て楽しんでいるだけでなく) 何かを探している” と手前勝手に決め打ちしたことになり、失礼となるので注意が必要です。

ぜひTPOに合わせて、このふたつを使い分けるよう心掛けてみてください。

[参考]これまで&これからの記事

法人/個人を問わず、論理思考やコミュニケーションスキル、メンタルスキルなど各種ビジネススキルを、基礎の基礎から分かりやすくお伝えいたします。   (株)トンパニ https://tongpanyi.co.jp/