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中目黒の光明泉

飲み会まで時間があったので銭湯に寄った。

中目黒の光明泉。駅から近く清潔な銭湯だ。せっかくだからサウナもつけた。どの銭湯でも渡されるサウナ用の鍵をもらって中に入った。早い時間なので結構空いている。思ったより若者が多い。若者の間では今ちょっとしたサウナブームのようだ。安く楽しめる非日常感があるのだろう。それに疲れもとれる。

上京して最初に住んだ部屋には風呂がなかった(二番目に住んだ部屋にも三番目にもなかったのだが)。実家にいた時は銭湯に入ったことなど一度もなかったから、初めて銭湯に行った時は不思議な気がした。他人の前で裸になることや、大勢の裸を見るのが妙な羞恥心を刺激した。

母親が看護師だったせいか、おれは清潔さを人並み以上に気にする若者だったので銭湯には毎日通った。ひと月もするとすっかり慣れて、休みの日にはコインランドリーに行くついでに早めの銭湯に入るのが楽しみになった。

そのうちに金の問題が出てきた。学校はやけに忙しく、予定していたほどバイトで稼げないことがわかってきた。仕送りは家賃と飯に消えたし、貯金は目減りするばかりだった。

ある日、漫画雑誌を買うか銭湯に行くかを選ばなければならなくなった。漫画雑誌を選び、その夜は上京以来はじめて銭湯に行かなかった。

涼しくなってきた季節もあって、一日風呂に入らないことが現実的な問題を引き起こしたわけではない。しかし、その時こう思った。「金がないということは風呂にも入れないということなのだ。」

今のおれは行きたければいつでも銭湯に行けるし、サウナもつけられる。それは無職でもそれなりの貯金があるからだ。サラリーマンになっても車も持たず、家も借家でたいした贅沢をしなかったのは「本当に金がない」ということを理解していたからだと思う。

まぁ、それでも思いたったら仕事を辞めているのだからこれから先どうなるかはわからない。だが、今度は漫画雑誌より銭湯を選ぶ。だいたいもう雑誌は読んでないし、一日の終わりに風呂につかることの大事さを知っているから。

#日記 #エッセイ #コラム #無職 #銭湯 #中目黒

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