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【エッセイ】美に魅せられた友達の話

中学校の入学式の日。
一人だけ、周りとは違う不思議なオーラを放っている男の子を見つけた。

爪は長く伸ばしていて、ネイルのように先の形が整えられている。

髪は他の男子より長め。

目つきが少し悪い。

声が低い。

ちょっと怖そうだな、が彼への第一印象だった。


実際に怖い人だったのかといえば、そうではない。

真面目。

頭が良い。

足が速い。

ユーモアがある。

ホロライブ(Vtuber)推し。

そして「美しいもの」を愛す人だった。


言葉に。漢字に。美術に。音楽に。

彼は、美しいものに「美しい」とはっきり口に出して言える。
こんな学生は今時あまりいないのではないだろうか。


彼の「美しいもの」に対する強い思いを特に感じたのは、ある日の国語の授業の時である。

先生が
「この詩の中で、対句になっている箇所に印をつけてね。教科書に直接書いて」
と言った。

皆躊躇なく教科書にマーカーで印をつけていく。

私もマーカーで対句になっている箇所に線を引いた。

しかし彼は教科書をじっと見つめるだけで、何も書き込もうとしなかった。

心配になったため「どうしたの」と聞くと、こんな返事が返ってきた。

「こんなに美しい文章を汚したくない。」

貼っても裏側が透けて見えるフィルム付箋を使うのはどうかと提案してみたが、それも断られた。

わーお。

たしかに美しい表現が使われている詩だった。
私もこの詩が好きだ。
でも、彼のような発想にはならなかった。


勉強したくないからではない。

面倒くさいからではない。

詩が美しいから、
汚したくないから、書かないのだ。


こんな人、初めて見た。不思議な人だ。
でも少し尊敬する。


ちなみに、彼はアクセサリーにも興味があるようで、修学旅行の時はキラキラした目でお土産屋さんに並ぶイヤリングを眺めていた。

お祭りでは、狐のお面を買っていた。
(彼の雰囲気も相まって、とてつもなく似合っていた。)

本当に面白い奴である。

彼とは中学生の間はずっと同じクラスで、なんだかんだ高校も一緒で、部活も同じ文芸部に入って私よりはるかにクオリティーの高い小説を書いている。

彼は将来、小説家になることも考えているらしい。

そんな彼にnoteを勧めたことがある。

「小説とか、詩とか、とにかく『創作』ができるnoteってやつがあるんだけど」と。

彼は私を不審そうな顔で見た。

何故なら、勧める直前に学年集会で行われた「怪しい勧誘は断りましょう」という講演を、彼は真面目に聞いていたからである。

私は完全に勧めるタイミングを間違えていた。
いや、誘い方が悪かったのかもしれない。

少し間があいてから、また彼に声をかけてみようと思う。

美しい作品を発信する彼の姿を早く見てみたい。

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