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あなたの幸せになりたくて。

〝今日の幸せをありがとう〞

私はその言葉に振り返った。

とても嬉しそうな明るい笑顔で、その人は私を見送った。

~あなたの幸せになりたくて。~



その人は、通りすがりのお父さん?

私がいつも行く金魚屋さんで金魚の水槽を眺めていると、

その人は、ガラス戸の店の外から中を窺っていた。

私は用を済ませ、店を出て声を掛けた。

〝中にまだたくさん金魚が居ますよ〞

すると、

その人は、少しびっくりしたように表情を強張らせ、こう言った。

〝よく自分に話し掛けたな。。。〞

〝あら?〞

一瞬、私は、ヤバイ人に声を掛けてしまったのかと、内心、ヒヤリとした。

その人は私の答えを待たずに話し出した。

〝自分は周りから変な目で見られてしまっているから。。。よく話し掛けてくれたものだと思ったよ〞

私はこう切り返した。

〝そんなことはありませんよ。気を付けて歩いてくださいね。〞


なんてことはない。。。

差し障りのない、束の間のやり取り。。。


不意に後ろから声が掛けられた。

〝今日の幸せをありがとう〞

振り返ると、

最初に顔を合わせたときには浮かんでいなかった、

満面の笑顔がそこにあった。



私はいつものように笑っていただけ。

いつものように言葉を選び出して、

いつものように無難にやり過ごそうとしただけ。


〝とても精一杯に無難を演じている〞。

それは、

〝目の前に居る相手の為にこそ、選び出す無難〞。


きっと、私も変わっているから、少し変わっている、あのお父さんに、何の気なしに声を掛けたのだけど。


【自分が周りから浮いてしまっていることを自覚している】あの人は、

けして、ヤバイ人なんかじゃないと私は思う。

本当にヤバイ人は、自分自身がヤバイ人だとは思っていないから。

本物のヤバイ人は、自分こそ、誰よりもマトモだと思っているから。

あのお父さんは、正真正銘の、ただの普通の、少し感受性が強くて、少し変わり者な人だから。


〝自分は周りから変な目で見られてしまっているから〞と言った、繊細さも。

〝今日の幸せ〞と発せられた、やはりこれも頭一つ抜き出た繊細さも。

どちらも微笑ましく、剽軽に思えて。。。

私は軽く吹き出してしまいそうだった(笑)。


知る人が知れば、見る人が見ていれば、

〝あの人はヤバイ人だよ〞と、私に教えてくれるのかもしれない。

私の知らないヤバさも、実は抱え持っているのかもしれない、あのお父さんは。

その中に確かに秘められた、実に人間らしい繊細さを持ち。

あのときのそれは、私だけが知っている。

世の中に、完璧なんて存在しない。

〝あの、少し変わったお父さんの心を締め付ける世間の目〞と、

〝少し変わっているが、理解しようもある、お父さんの人間臭さ〞。

どちらも、同時に存在し、

完全に片方に振れるものではない。


謂わば、登場人物全て普通人のこの記事において。

一つだけ尊いものが隠されている。

~あなたの幸せになりたくて。~

何てことなく、全ていつも通りにしていただけの私も小さく。

そして、

〝今日の幸せをありがとう〞と発した、少し風変わりな、スケールのデカイ、あのお父さんの中にある。

~幸せをつくる力~を。

私が今日、改めて人に教えられた、人間の真のマトモさから、

この記事を認めます。


この混沌の世界に、幸せを灯す力が、軽く意固地でもいい、留まってくれますように。。。

〝今日の幸せをありがとう〞。



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