知人が書いた本を読むー『彩宴VOL.2』

彩ふ読書会のメンバーが書いた『彩宴VOL.2』を読みました。小説、エッセイ、評論、推し本紹介など読書会の色を感じられる一冊。

本記事ではそれぞれの作品に対して、完全に個人的な感想や意見を書きます。著者の気分を害してしまう可能性がありますが、全くの個人の主観による感想に過ぎないと流していただければ幸いです。また、ネタバレも含まれるので、未読の方は先に本誌をお楽しみいただければと思います。

・鋤名彦名「サン・ジョルディの日」

題名と同名の文学系アイドルグループが解散する。それが起きたきっかけと、その出来事から立ち直る人間が書かれている。

雑誌の執筆者をしている男性がアイドルの一人と知り合い、不倫をしている作家との関係が終わったことをきっかけにアイドル・アネモネと恋仲になる。

本名と芸名の間で揺らぐ少女とありそうなアイドル像をうまく描いている。

著者の趣向的に濡れ場があると予想していたが、その点は非常にあっさりとしていたので、抵抗感なく読むことができた。

・へっけ「ラプス」

ストーカー男性の狂気とそこへ至る自己肯定、そして破滅。

人物像や関係性、出来事は全く異なるが中村文則『銃』が想起された。

・ひじき「一週間の夜散歩」

タイトル通り、著者が仕事から帰宅した後に散歩をした記録。小さなことをスケッチし、たこ焼き屋がこなくなっていることに気づいたり、入りづらかった居酒屋への挑戦など、企画化したことで日常に小さな変化が生まれている。

そして、日常とはこのような小さな出来事の積み重ねであり、自分も変化しないことを嘆くのではなく、視線を変えて散歩をしてみたくなった。

・shikada「縦にも横にも書ける日本語という言語について」

リーダビリティと文字の書かれ方の歴史の調査。

そういえば中国語は大陸=簡体字・横書き、台湾=繁体字・横書き、香港=繁体字・縦書きという違いがあったなと思い出した。

個人的には縦書きと横書きの読む速度の差は、一目で一行を目に入れることができるか否かの差だと感じている。例えば、大半の本は縦長なので一目で視界に入る行の幅は横書きに分がある。

また、一部の本や雑誌で使われている縦書きの二段、三段組表記になると、一行を消化するスピードが上がるような気がしています。

・KJ「分かれていく社会とその敵」

いわゆる分断について書かれた記事。善と悪の二分法で言えば、私は「(笑)」や「w」、「草」が苦手である。私自身がそれらを使うのは必要に迫られた場合に限られ、ライトノベルで使われているのを見るだけでも違和感を覚える。

本文中にいきなり「(笑)」が登場し度肝を抜かれ、著者紹介で「w」が出てきたときには一冊の世界観が心配になった。

閑話休題。本文についての第一印象は「意識高い系の大学二年生が書いたレポート」である。自身でも読書会を主宰し、圧倒的な読書量を誇る著者だけあり多くの文献を参照している。

しかし、それゆえに論点が飛んでしまっていて、東京のような都市について書いていくのかと思っていたら分断の話題になり、都市論に戻ったかと思うと資本主義と分断という話題に変わる。そして狭い村社会的なことを書きながらブロックチェーンなどの話題に変わり、未来への展望を語る。

話題それ自体を取り上げれば面白くなりそうな題材である。しかし、書きたいことが多すぎて詰め込みすぎた結果、論拠が薄くて何が言いたいのかわかりづらくなってしまっているように感じた。

shikadaさんのように話題ごとに節で区切るなど、わかりやすく伝える文章になれば、途端に面白くなる予感がします。

・ぶり「『仏像でわかる仏教入門』を読んで」

4ページという短い文章で簡潔ながら十分に本の魅力を伝えることができている。最も読書会らしい文章だと思いました。読者に新たな視点を与えて疑問を抱かせ、それによって著者の意識がどのように変化したか。お手本にしたいような文章でした。

・さら「マーマレード哀歌」

久しぶりに実家に帰った主人公が両親の老いを実感する。マーマレードの瓶の挿話がきれいに際立っていた。

・ののの「絞まる前に」

Twitterの読書アカウントを通じて知り合った女の子同士が、緊急事態宣言下にオンラインの関係でありながら、お互いにどれほど支えになっていたか。

小ネタの出し方もうまく、女性同士の友情、ある種の百合小説として上質な出来だと感じました。

また、読書会の楽しさも描かれていて、懐かしくなりました。

・最後に

冒頭で書いたように、完全に個人的な感想に過ぎない。私が誤読や誤解している可能性もあるので、「こんなことを言うやつがいるんだ」程度の気持ちで読んでいただけると幸いです。

また読書会でお会いできる日を楽しみにしています。

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