新型フィット試乗記

0.はじめに

ヤリス、フィットとこのクラス定番車が相次いでモデルチェンジした事もあり、最近比較記事をよく目にする。
そして、そのどれもが走りのヤリス、広さと乗り心地のフィットの様な結論に収斂している。

当方コンパクトカーにはさほど興味はないが、ホントにそうなのか確かめたくなり、ホンダのお店にお邪魔してみた。

因みに与太話をダラダラ書き9000文字になってしまった。フィットのインプレだけなら目次でジャンプする事をオススメする。

1.フィットの歴史

初代フィットはロゴ後継として2001年に登場した。ロゴと言うともはや皆忘れているかも知れないが、2代目シティ後継だ。

ご存知の様に、初代フィットは空前の大ヒットとなる。それまで33年間連続で年間販売台数1位だったカローラに2002年引導を渡したのだ。

当時のコンパクトカーにありがちな女子向けカワイイ車ではなく、老若男女誰でも恥ずかしくなく、堂々と乗れてしかも佳いクルマ。売れるはずだ。

初代フィット開発はまさに全力投球だっただろう。ホンダの拡大戦略により、コンパクトカーをグローバル展開する必要があった。
1990年代後半に初代ヴィッツ(ヤリス)が欧州をターゲットに新規プラットフォーム開発して成功したのも後押しした。
フィットはそれまでのロゴとは違い、アジア工場での生産および派生車種開発の為、画期的な新規プラットフォーム開発がなされた。

そこで画期的なアイデアが生まれる。
センタータンクレイアウトだ。

それまで燃料タンクは後席下が定位置であった。コレは今の大多数のクルマもそうだ。
昔はトランクに燃料タンクを置いていたが、追突事故時にトランクは潰れて、乗員の乗る空間(前輪と後輪の間)は潰れにくいクラッシャブル構造とするには、燃料タンクがトランク内ではまずい。すると、置き場は自然と後席下になるのだ。他に置き場が無い。

初代フィットは、その燃料タンクを前席下辺りに置いた。もちろん室内で邪魔にならない様に樹脂成型により薄型の燃料タンクとした。
このセンタータンクレイアウトにより、従来燃料タンクとの兼ね合いで動かせない後席位置を自由に置ける様になった。後席は目一杯後ろに置け、広々とした車内空間が実現できた。

加えて、初代フィットは他の要素が佳かった。エンジンはロゴ時代の2バルブOHCをベースにツインプラグとして燃焼を改善。カタログ馬力を追わず、実用領域の性能を上げ、燃費も優秀。
CVTも素直な制御。
ボディもシャシーもタイや中国などでの生産の為、複雑な事はしない。しかし、出来の良い商用車の様に、乗り心地は多少粗いが安定している挙動。
素晴らしい出来だったと思う。

2代目フィットは2007年に登場。デザイン含めキープコンセプトとした。
細かく言えばエンジンが4バルブVTECとなったり、リアサスのトーションビーム形状を変更し取付部ブッシュのコンプライアンスにより後輪がトーインにステアしコーナリング時に安定させるジオメトリーとした。それ以降ホンダのトーションビーム式は全てこの仕組だ。

また、ハイブリッドモデルも登場した。

3代目フィットは2013年に登場。プラットフォームは新設計となる。エンジンは全てDOHC化され、1.3Lはアトキンソンサイクル(ミラーサイクル)を採用し低燃費化を図っている。

2.フィットのハイブリッドシステム

興味深いのは歴代フィットのハイブリッドシステムだ。
コンベンショナルなエンジンのみのモデルは初代からずっと1.3Lや1.5LエンジンにCVT(一部MT)変速機という構成は変わらない。
しかし、ハイブリッドは各世代で全く違うシステムを搭載している。フィットハイブリッドシステムの歴史はそのままホンダハイブリッドの歴史だ。

2代目フィットのハイブリッドは、2代目インサイトと同じパラレル方式のIMAを採用。従来のエンジン動力の仕組みにモーターを追加したシステムで、モーターは補助的な役割になる。比較的シンプルな構成で、モーターはエンジンに直接接続されている。変速機もCVTだ。
必要な時にモーターに電力を送ってエンジンをアシスト、不要な時は空回りさせておき、ブレーキ時には発電機として回生ブレーキ機能となる。
モーターとエンジンは常時接続されている為、エンジンを止めてモーターだけで走行する事はできない。

3代目フィットのハイブリッドはi-DCDという方式。変速機に欧州車お馴染みの7段デュアルクラッチ式(ギヤの奇数段と偶数段それぞれにクラッチを持ち、交互に接続切断して変速するシステム)で、その変速機にモーターを1つ内蔵している。
このシステムはモーターにもクラッチ機構を備える為、モーターのみの走行も可能だ。

ただし、モーターのみの走行は限定的で、パラレル方式となる。また、1つのモーターで動力(放電)と発電を切り替えている為、発電は回生ブレーキ時のみとなる。

初採用の高効率デュアルクラッチ式変速機に、更にモーターを仕込むと言う非常に意欲的なシステムだが、初期トラブルに悩まされて数回リコールを出してしまった。

このi-DCDは現行フリードやジェイドのハイブリッドでも採用されている。

そして4代目である新型フィットのハイブリッドは新たにe:HEVと名付けられた、ホンダのi-MMDシステムが搭載された。

i-MMDはクラリティPHEV、現行アコードや現行インサイト、オデッセイなど上級車に採用されている2つのモーターを搭載したシリーズ方式とパラレル方式のいいとこ取りをしたシステムだ。

(説明が遅れたが、
パラレル方式とはエンジンとモーターを両方動力として使う方式。プリウスなどトヨタのハイブリッドは全てコレ。
シリーズ方式とは、エンジンで発電した電力でモーター動力を使う方式。エンジンは発電専用。日産e-POWERはコレ)

通常は片側のモーターで発電、もう片側のモーターで前輪を駆動し、エンジンは発電専用となる。2モーターと言うが、実際には1つの発電機と1つの動力モーターとの組み合わせだ。
ここまでは日産のe-POWERと同じシリーズハイブリッド。

ただし、モーター効率の落ちる高速域だけエンジンにより動力アシストする部分がe-POWERと異なる。(e-POWERは高速域の効率が悪いので海外で売れないのだ)

動力は従来のエンジン主体の真逆、モーター主体となる。
アウトランダーPHEVとも同様のシステムで、現在のハイブリッド車としては理想的なシステムの一つである。

本来上級車向けシステムである為、当然ながら同じモノを積んでる訳ではなく、フィット向けにコンパクト化された専用品となっている。

3.新型フィットについて

車体プラットフォームは先代キャリーオーバーだ。
しかし変更は多岐に渡る。

外観は先代がオーソドックスなハッチバック形状だったが、今回はミニバンのような雰囲気。

クルマを見る目のない私は、ホンダのお店で間違えて隣のフリードのドアを開けそうになった。

新型フィットの特徴の1つとして、
運転席前方の柱、所謂Aピラー(柱)を細くした事で死角が減っている事が挙げられる。

以前からAピラーとその後ろのA'ピラーの二本でここを構成してるのだが、今回構造体としての機能は後方のA'ピラーに全て任せ、前方Aピラーはガラスの押さえおよび継目を隠すガーニッシュの機能のみとした。Aピラーには応力がかからない為、細くできるわけだ。しかし、Aピラーはボディ色、A'ピラーは黒色としている為、見た目はAピラーが構造体に見え、不自然に見えない。

なかなかうまい。

ボディ上屋の素材は高グレードの超高張力鋼板を増やして、側面の耐衝突性能を上げている。

ボディ各部には補強を入れて剛性を上げている。サスペンション取付部やバルクヘッド、サイドシル、リアピラーの板厚および形状を変えている。

サスペンションも先代からのキャリーオーバーだ。
しかし、細かい改良が施されている。

フロントサスは取付部ゴムブッシュ外枠にカラーを追加してスムーズに回る様に、ボールジョイントやスタビライザー取付部のフリクションを低減、更にはストラット式ショックアブソーバー特有の横力モーメントによるフリクションをスプリング素材見直しによる形状変更で完全にキャンセルできる配置にするなど、一貫してフリクション低減に努めている。

どれもが地味だが、極めて重要な手当だ。

(余談だが、ストラットの横力キャンセル構造はスバルお得意のワザだが、BRZだけはレイアウトがカスなので適用不可。欠陥設計のまま次期モデルも行くらしい。話にならない。フロントミッド水平対向という中二病レイアウトの功罪だ)

エンジンはe:HEVと呼ばれる1.5Lハイブリッドと、1.3Lガソリンエンジンの2種。

ハイブリッドは前述した通り新設計。

1.3Lは先代からのL13B型をそのまま使っている。ホンダは以前から実用車にSOHCを使っていたが、コレはDOHC。
とは言え、高回転高出力の為のDOHCでは無く、吸気弁のバルブタイミングを遅閉じするアトキンソンサイクル(ミラーサイクル)の低燃費モードとオットーサイクルの通常モードをVTECで切り替える為にDOHC化されたものである。

組み合わされる変速機はCVTだが、段付きATと同じ動きのステップ制御を採用して、ラバーバンドフィールを解消しているそうだ。

4.ライバル比較

ここでライバルとボディサイズ比較をしてみる。

車名[グレード]

新型フィット 旧型フィット[ホンダセンシング付] ヤリス[G] ノート[X]
全長 3995mm 3990mm 3940mm 4165mm
全幅 1695mm 1695mm 1695mm 1695mm
全高 1540mm 1550mm 1500mm 1535mm
ホイールベース 2530mm 2530mm 2550mm 2600mm
車重1180(1090)kg 1170(1060)kg 1060(1000)kg 1220(1040)kg
車重は全てハイブリッド(カッコ内は非ハイブリッド)

こう見ると、フィットは新旧でほとんど同じ数値だ。見た目は大きくなった様に見えるが、実は変わらない。個人的にはハッチバック風の先代フィットのデザインはスポーティで好きだ。
ヤリスもほぼ同等のサイズだが、フィットより100kg程度軽い。そして、ハイブリッドと非ハイブリッドとの重量差が60kgしか無いのがスゴい。
ノートはe-POWER(ハイブリッド)化で結構重くなっている事がわかる。

5.静止検分

試乗車はe:HEVのHOME。

グレードは下から順に廉価版BASIC、HOME、レザー仕様LUXEとなる。
この他に撥水シートのNESS、SUV風のCROSSTARがある。
全てのグレードでe:HEVと普通のエンジンモデルが選べる。

e:HEVのHOMEは売れ筋、と言うより現在の受注の大多数はコレらしい。

タイヤは標準のホイールキャップながら、立派な15インチ、185/60R15というサイズ。

コンパクトカーお約束の低燃費タイヤエコピアEP150だが、速度レンジはH、210km/h対応だ。

多くのコンパクトカーは標準で速度レンジS(180km/h)のエコピアを履いている。
つまり、フィットのエコピアは比較的高性能(マトモ)なようだ。

因みに、上級グレードのLUXEは16インチアルミホイールとなり、タイヤは速度レンジV(240km/h)のヨコハマブルーアース、となかなか奢っている。

タイヤについて、ここまで速度出さないから別に良い、では決してない。
Sレンジは日本専用低性能タイヤなのだ。一般的にタイヤ性能は速度レンジに正比例すると言って良い。この性能とは何もハイグリップと言う話ではなく、タイヤのバランスや真円性、ドライとウエットの性能バランスの事だ。
最近のタイヤは低燃費の旗下に性能をどんどん落としていく傾向にある。しかし、速度レンジが高い場合はそんな低燃費低性能化に歯止めがかかるのだ。

ドアを開ける。
開口角度がデカい。乗降りしやすい。
運転席に座る。液晶パネルのデジタル表示メーターの角度に合わせてシート高さ調整すると、結構高めの着座位置になる。
そして、背面角度も立ち気味。ヒール段差(床から座面高さ)も高い。
上体を起こしてアップライトに座る形、つまり椅子に腰掛けるような形だ。テレスコ、チルトもあり、ステアリングホイールも適切な位置にできる。

このおかげで、シートポジションはすぐに決まる。なかなか良い。

右ハンドルの運転環境も合格。
ステアリングホイールはオフセット無くシート中心にある。ブレーキペダルはキチンとステアリング右下にある。

フィットは前席着座位置がヤリスやマツダ2より前方にあり、前輪が近い為ペダルオフセットは避けられないと思っていたが、当方の予想を覆す素晴らしい出来。

運転席を高い位置に配置する事で、脚を前方に投げ出す事が無い為にペダルを手前に持ってきている。ペダル角度も上から踏む角度になっている。
コレで前輪のペダル干渉を避けているのだ。非常に緻密かつ真面目な設計だ。少し驚いた。

シート表皮は身体に触れる部分にツイードのファブリック(カタログ表記はテキスタイル)、その外側は柔らかい合成皮革となっている。洒落ていて質感も高い。

サイドサポートは見た目よりも強力。横腹をキッチリサポートする。肩甲骨の横サポートは少ないが、身体をしっかり肩までシートに預けられる。座面や背面共にクッションは厚く、シート骨格の剛性も高い。腰周りのランバーサポートの張りもしっかりしてる。

コレはかなり良いシートだ。少し驚いた。

ダッシュボード上面は硬い成型プラスチック、その下面は表面に柔らかい塗装をしたパネル。ドア内側パネルや肘掛など手に触れる部分は柔らかい合成皮革が貼ってある。

シフトレバー周りだけ差し色でホワイトの光沢パネルが入る。エアコンパネルはデジタル表示で、操作用ツマミには艶消し黒にシルバーの加飾。なかなか良いじゃないか。

後席を確認してみる。
お、とビックリする程ドアが開口する。ほとんど90°じゃないか、と言うほど。
そしてビックリする程広い。足元はリムジンの如く広大。
座ってみると、更に驚いた。着座位置が高いシアターレイアウトで、前席の上から前方視界が開ける。
シートの出来も良い。クッションも厚く、座面角度もトルソ角も適切、サイドサポートもキチンとしている。

これは最近乗った後席の中でも一二を争う出来だ。
出来の良いミニバン2列目級だ。

パワーウィンドウスイッチ周りはなぜか後席だけ黒いエナメルパネルが入っている。センターのアームレストも合皮で質感高い。

コレは冗談抜きで運転手付きショーファー用途で使えるのではないか。

そしてトランクルームはこのクラス最大の大きさ。ヤリスよりは当然広い。

いやはや、このパッケージング設計には脱帽だ。


6.試乗検分

ハイブリッドモデルなので、システム起動してもエンジンはかからない。

電動パーキングブレーキは自動なのでそのまま走り出す。

ここで思い出した。コレはi・MMD、いわゆるほぼモーターで走るシリーズハイブリッドだ。エンジンは充電専用。モーターの効率が悪化する高速のみエンジン動力がアシストするカタチだ。
今回の試乗シークエンスなら動力はモーターのみとなる。

加速に不満は無いが、ヤリスやノートe-powerより大人しく感じる。個人的にはこの方が運転しやすく、なかなか良い。

と思ったら、遅いエコモードになっていた。確認不足で申し訳ない。ひとまずこのまま走ってみる。

電動パワステの感触はなかなか良い。停止時の据え切りではかなり軽かったが、走り出すと適度な操舵力になる。ヤリスやノートよりは重いが、こちらの方が自然だ。

そして、走りながら左右に振ってみると、タイヤからの反力が適切にステアリングに伝わる。おっと、コレは相当デキの良い電動パワステじゃないか。

この電動パワステフィールは最近乗った中で一番良いかもしれない。

タイヤも予想通り、普通の感触。
低燃費タイヤ特有のあからさまな硬さは無く、自然。ロードノイズが大きめに感じるのはエンジンが稼働していないせいか。もしかしてフロアが振動を増幅させているか。

とは言え、絶対的には静かなクルマだ。このクラスとは思えないほど。

脚は硬くなく、キチンとストロークしている。初代フィットのようなドシンバタンは皆無だ。
そういえば、後輪ショックアブソーバーのアッパーマウントも新設計にしたようだ。
従来は円筒形のゴムでザクッとボディに直接固定するだけの単純な構造から、今回はアルミダイキャスト製のアッパーマウント部品を用意して、細かい振動吸収(アッパーマウント内ゴム)と大きな力の抑え(パンプラバー経由)を別に管理できる構造としている。

エコモードを切って通常モードにしてみる。

アクセルを踏み込むとエンジンがかかり、そこそこ速く加速する。全開加速は試していないが、普段の加速力はヤリスより大人しく感じる。

個人的にはフィットの方が速度調整し易く、好印象ではある。

そして、エンジンが掛かると途端に煩くなるヤリスと比べ、フィットはそこまで煩くならない。

後でネットで調べたらフィット欧州仕様であるジャズハイブリッド(スペックは日本仕様フィットと全く同一)の0-100km/h加速タイムは9.4秒。
現行ヤリスハイブリッドの欧州仕様(パワートレーンは日本仕様ヤリスと同一)は10.5秒とのこと。

全開加速ならフィットはヤリスより速いじゃないか、実は。

つまりアクセルレスポンスは普段から加速力を強調するコドモダマシなセッティングではなく、高い実力をひけらかさずに運転しやすい方向にしているわけだ。

昔のホンダは逆の車も多かったのになぁ。隔世の感だ。

気になった点として。
まずディーラーオプションのドアバイザーだ。視界を妨げない様にクリアなのはいいが、形状が折れる所で像が歪む為、走行中はここだけ景色がチラチラ変化し、ちょうど視野角の端にこのチラつきが常に入る。最初は車内に虫でも飛んでるのかと思った。
恐らくほぼ全員が選択するであろうオプションなので、どうかなとは思う。

また、フロントウィンドウが寝ており、ダッシュボード上面面積が広い事もあり、ダッシュボードのウィンドウ映り込みが激しい。

構造上仕方ないが、視界の良さがウリであればちょいと気になる。

7.電動パーキングブレーキ

そういえば、電動パーキングブレーキについて思い出した。

当初新型N-WGNで電動パーキングブレーキを採用し、同じモノをフィットにも採用する予定だった。ぶっちゃけN-WGNとフィットで車重はさほど変わりが無い(最近のハイト系軽自動車はかなり重い)ので、ごく自然な話ではある。

ところがN-WGNは電動パーキングブレーキに不具合が発覚し、19年8月に生産中断のミソを付けた。

ホンダは先代フィットの初期にi-DCDリコールで散々な目にあった事もあり、今回のフィットは大事をとって発売直前でリアブレーキ周りをマルッと変更する方針とした。サプライヤーすらコンチネンタルへ変えたらしい。(不具合出したサプライヤーがどこかは知らないが、恐ろしや)

そのせいでフィットは発売日を延期(19年10月から20年2月へ)し、なんと後輪はドラムブレーキからディスクブレーキへ変更となった。

フィット担当者は生きた心地がしない程の事態である。

ホンダとしてもこの発売日延期は痛すぎる。設計変更や車体コスト増だけでなく、販売機会を大幅に失い(本来ヤリスより前に発売の予定)かつコロナまで販売を直撃したのだから。

ところで、なぜコンパクトカーの後輪は皆ドラムブレーキを採用するのか。

単純な話、通常ブレーキとパーキングブレーキを同じ構造で済ませられるから。
ドラムブレーキはそれ自体がサーボ(増幅)機能を持ち、パーキングブレーキに最適な方式なのだ。
そしてコンパクトカーなら後輪ブレーキ負荷が低いので通常ブレーキもドラムでなんら問題ない。

(ドラムブレーキはディスクブレーキと較べてコントロール性は低い。しかしブレーキの効きはドラムブレーキの方が上だ。)

一般に多くの後輪ディスクブレーキ装着車は、パーキングブレーキ用にドラム構造(ディスクブレーキのベル部分にパーキングブレーキ用シューを内蔵)を持っている。つまり2つのブレーキの仕組みを組み込む為に高コストになるのだ。

ただ、コンチネンタルの電動パーキングブレーキはディスクブレーキのパッド部分にモーターを仕込む事で実現しており、ドラム構造は不要で従来ほどコスト増にはならない。

実はコレ、超画期的な事なのだ。

それはさておき、フィットは全グレード四輪ディスクブレーキとなった。このクラスのコンパクトカーでは初だ。

そのブレーキフィールについて、もちろん問題ない。
ハイブリッド車は回生ブレーキが働くが、効きすぎる事もなく自然だった。
(ウチのC5右ハンドルの方がよっぽどカックンブレーキだ)

8.総括

ここで総括する。
新型フィットは以下の点で秀逸だった。
・ドライビングポジションおよびシートの出来
・車室空間のパッケージング(前席、後席、トランク)、上質な内装
・極めて自然な操作系、乗り心地

ハッキリ言おう。
新型フィットはダントツで高レベルなクルマである。このクラスブッチギリの一位である。

車室内構築や乗り心地だけでなく、運転フィールも非常に良い。とにかく全てにおいて真面目に設計検討した跡がある。妥協や手抜きが一切ない。

正直ここまでの出来だとは思っていなかった。驚異だ。

各メディアが判を押した様に、走りのヤリス、心地よさのフィット、などと解説するが、一体何を言ってるのか。

確かにヤリスは安普請な先代ヴィッツに比べたら夢の様に良いクルマだ。

しかし、新型フィットはほぼ全項目でヤリスの上を行く。

むしろわかりやすくスポーティに(反応よく)躾けられているヤリスがあざとく見える。

このクラスならそれもアリだろうとヤリスを肯定していたのだが、フィットを見て考えを改めた。
フィットはそんな子供騙しなどどこ吹く風という雰囲気で高い実力をサラッと示す。圧倒的勝者の貫禄。

お袋のクルマにヤリスを検討していたが、見送ることにした。

新型フィットに試乗できてよかった。

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