デザインシステムは、言葉を大事にする。
『恥ずかしくないモノを世に出せたと思ったら、それは遅すぎる』と
言われるほど、デジタルプロダクト/サービス業界には猛烈なスピード感がある。
デザインのブラッシュアップと同時に、コードや仕様、果てはサービスコンセプトまでが留まることなく更新し続ける。
デザインシステムが考慮されていないプロダクトデザインは、その怒涛の速度の中でカオスと化し、一貫したユーザー体験を死守するために現場は疲弊していく。
そんな中、2018年末に日本語訳され、話題になっていたのが『Design Systems ―デジタルプロダクトのためのデザインシステム実践ガイド』。年末の徒然に読んでみると、得るところが大変多かった。
特に感銘を受けたのが『言葉』を扱う部分。
デザインシステムを文化として根づかせるには、組織と人のデザインから行う必要がある。どんなに優れたデザインシステムやガイドラインを編み出したとしても、組織と人が実行してくれなければ、意味がない。組織と人をデザインするためのメソッドは大雑把にいうと「コミュニケーション」の一語で表されるのだけども、そこに『言葉』が占める割合は少なくない。
この本での『言葉』の扱いはとても丁寧で、素敵に思うことが多かった。そのうちのいくつかをまとめてみる。
共通の言語で、一体感のあるプロダクトを作る。
「インターフェースにおいて、オブジェクトに適切な名称がない場合、システムに存在しないも同然である。」
『名づけの精神史』における「名付けとは、物事の創造や生成であり、物事の認識である。」を思い出す味わい深いテキストだ。
名前がつくと、それ以後の使いみちが決まる。ここでうまく命名すれば、組織の中で強力な武器となる。
例えば、FutureLearnというサービスでは、「小さいボタン」を「ミニオンズ」。「大きいボタン」を「ボス」と規定しているという。
おお、仕事が楽しくなりそうだ。デザインシステムの浸透も早くなるだろう。『言葉』の力は偉大だ。そして、クリエイティブだ。
そういえば、同僚が下記のような形状のphotoshopレイヤーに「いがいが」と名づけていた。
かわいい。以来、自分も同じような形状は全て「いがいが」と名づけている。彼のデザインシステムが自分にインストールされてしまった。
ちなみに良い名称には
・メタファーに基づく。
・個性を持つ。
・目的を表す。
という特徴のうち、ひとつ以上備えていることが多いという。
名詞・動詞・形容詞
名づけには「名詞」ではなく、「動詞」に注目すると良いことがあるかもしれない。
資格などの学習用サイトにおいて、バナーエリアの目的は「コースを宣伝する」「コースに参加したい気持ちにさせる」である。
よって、このエリアには、行為に焦点を当て、宣伝機能を盛り込んだ「Billboard(屋外広告看板)」と名づけた例が紹介されている。
この「Billboard」エリアは、画像やインタラクションが更新されても、動詞的な意味に変化はない。
本書では「パターンは進化、振る舞いは不動」と表現されている。
また、「行動はプラットフォームに依存しないため、行動を明確化することが、将来も有効なパターンを定義する」とも述べられている。
デジタルプロダクトは「道具」であり、その本質から、目的指向的な考え方をすることは非常に重要である。
アニメーション(マイクロインタラクション)は、ブランドの性質を表す形容詞を利用して、動きを定義できる。
信頼感あるブランディングであれば、安定したイーズインとイーズアウトが選択されるだろう。
原則のための表現
デザイン原則とは、耳に心地良いような美辞麗句ではなく、実行可能なアドバイスを提供しなければならない。
例えば、「表現を明快にする」という原則を定めた場合、確かに「そうだ、表現は明快でなければいけない」とは思うものの、これでは原則としては不十分である。
実用的で組織に浸透するような原則にするためには「表現を明快にする」よりも「最優先事項を1つに絞る」などの方がより適切だと言える。
他にも下記の例が挙げられている。
不十分:「シンプルにする」
実用的:「壊れないようにする」
→子どもがおもちゃのようにイジっても問題がないようにデザインする。
不十分:「便利にする」
実用的:「ニーズから始める」
→憶測を立てず、調査し、分析し、ユーザーの話を聞く。
達成すべきものがクリアできているか測定できなければ、その原則はあまり意味を成さないだろう。
個人の目標設定や、チームのスローガンにも必須な考え方が、ここに端的にまとめられており、参考になる。
より良い人生を生きよう。
Shopifyのデザインシステムは「Polaris(北極星)」と呼ばれているらしい。知的で、風情があって、おしゃれだ。「デザインシステム」と呼ぶより、豊かに感じる。
エンジニアがバグを「ドラゴン」と呼ぶ話を聞いたことがある。バグを発見すれば、「ドラゴン発見!退治します」とチャットで連絡しあうのである。
「不具合を潰していく」より、遥かに人生が楽しそうだ。
人は目が覚めている限り、何かを考えている。
「考える」には大抵、『言葉』を使う。
周囲の環境にある『言葉』が豊かなものになれば、仕事や人生まで豊かになるはずだ。
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