チワワを抱いてしまった
うっかりしてペットショップに入ってしまった。
生体販売には賛成ではないし、冷やかしで入っても申し訳ないと思っていたのに、ついうっかり。魔が差して。
うっかり入ったものの、お店はなかなかに混んでて動きづらい。なんとなく近くのケースでスヤスヤと眠るチワワを見つめていたら、愛想の良い店員のお兄さんが近づいてきた。
うわー若い女が一人で来たから冷やかしだと思って牽制されてんのかなと思って、とっさにすまなそうな顔をしたら、
「その子、抱っこします?」と満面の笑顔で言われた。
マジか。冷やかし客とか普通スルーじゃん。今までペットショップでこんなこと言われたの初めてだぞ。もう私も犬1匹飼えるほど金持ってる大人としてみてもらえる年になったのか。ちょっと感慨深い。
「あばば…でもこの仔まだ寝てるんで…」と冷やかし客としてお手間をかけまいと必死に固辞しようとすると、 神がかったタイミングでそのチワワちゃんが起きた。
ものすごい速さでお兄さんがケージから出し、私の手にアルコールをふりかけ、気づいたら膝に小さな仔が乗せられていた。
わかってるよ。ほんとお前らかわいい顔してんのな。でもチワワってかわいいってだけで甘やかされがちなのが気に食わねえんだよなぁ…
寝ぼけてるのか、小さな舌で 私の手首を舐めてくるチワワちゃん。いのち。いのちあたたか! とうとい!
日頃、おばちゃんが裏声で飼い犬に「どちたのー?」って声かけてんのを見て、「お前がどうした状態だろ」て常々にバカにしてた自分から、裏声で「おねむなの〜?どちたの〜」 という声が自然と出てくる。
そんな私を、完全に日頃の寂しさを埋めにガチで犬を探しに来た客だと勘違いしたお兄さんが追撃する。
「いつごろからお飼いになる予定ですか?」
やめろ。お前が犬を飼う決心してるのは知ってるんだぜ的な空気をだすな。
「 いや〜、本当はすぐにでも飼いたいんですが、実は今アルゼンチンに駐在中で…笑。来年任期が終わってからですね…」
押しに弱い女選手権地区大会優勝の女なので、飼う予定はないと面と向かって言えず、クソみたいな嘘をついてしまった。お兄さんごめんなさい。
「そうなんですね〜。今一時帰国中とかですか?海外赴任だと寂しいですもんね〜」
完全にお兄さんは私を「女だてらに南米駐在し、独り身の寂しさを埋めるペットを飼おうとするキャリアウーマン」だと思ってる。お兄さんごめんなさい。クソみたいな嘘から生まれたキャリアウーマンのお姉さんごめんなさい。
結局そのまま、駐在が終わったらまた来ます〜と最後までキャラを全うし、チワワちゃんに見送られながら店を後にした。
もうあのペットショップには行けない。が、今でも私の手に感じたあたたかな感触を思い出すとマジで母乳だせるわと謎の自信が湧いてくる。
人の金で食う焼き肉の味ってものを知りたいので何卒施しのほどよろしくお願いします!