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#86 パクリまくれ!何事も〝うわて〟がいてこそ成長に繋がります

自分の興味のあるもの、うまくなりたいもの、そういったものは例えば、先生から教わることもあるでしょうし、YouTubeなどで動きを研究することもあると思います。「パクる」と聞くと、なぜかすごく悪い印象を持たれる方が多いと思いますが、どんどんいいものはパクればいいと思っています。

2000年代にアナウンサーをしていたとき、まだ若手の頃はリポートがうまくありませんでした。同じ夕方の報道番組に木村太郎さん、僕が尊敬してやまないジャーナリストの大先輩がいらっしゃったのですが、彼が台風中継をしたことがありました。

僕らの職業はやはり何歳になっても現場に出ることが好きです。本社でスタジオに座ってキャスターをするというのは、一見華やかに見えるのですが、大抵、実は現場に行きたくてウズウズしています。

現場から太郎さんが中継をされると聞き、目を皿のようにしてその中継をみました。太郎さんはヨット好きです。そして、気象庁を担当されていたこともあるので、天気図が読めます。気候や天気にとても詳しいんです。

だから、彼が中継したとき、どっち寄りの風がどっちに変わったから台風の中心が通過したものと思われます、など風に基づく状況の変化の説明、さらに自前で風力計を持ってきていて、刻一刻と変わる風速の変化に関して、など次々と太郎さんならではのリポートをしていて、とてもわかりやすくてどんどん引き込まれました。

これはパクろうと。なので、僕も、風力計を購入して、真似しました。最近見ないのは、屋内で中継をしているからだと思うのですが、あれもどうかと、報道番組を制作しておきながら思うのですが「安全な場所からお伝えしています」なんてことを、いちいち言わなくてはいけない時代になったんですね。僕らのときはそんなの現場の責任ですから、現場で自分たちで判断して安全だと、ここがギリギリの最前線だ、と判断していました。

風がビュービュー吹いてるところからこそやるのが中継です。風力計を使い、時間ごとだんだん強くなってきたというリポートは説得力があります。朝、昼、夜と中継して台風が通過した後は、風速が落ち着いてくる。外にいるからこそ、そのような報道ができる。そして真似したことでとてもわかりやすくなった。

テレビはパクリ合戦

だからいいものはパクリ続ければいいのだと思っています。

その昔、夕方の報道番組で「サーモ隊」というものを結成したことがありました。サーモカメラを使います。その物体の表面温度が高いか低いか色でわかるカメラです。熱いと赤色、温度が下がるにつれてだんだんオレンジ、黄色になり、冷めてくると、水色、青色へと変わっていく。

あれを私達の番組で、使ったことがありました。スッゴイ暑い夏だったんですよ。それを持って外に出てみると、いろんな発見がありました。道路、アスファルト、身近なものがめちゃくちゃ熱い。商店街でも、どこでも街中のあらゆるものが熱せられていました。やはり、みんな見てしまうのです。視聴率がすごく良くて、やがてそれをもってヘリに乗って、上空からサーモカメラで街を撮影しました。

すると、日テレがパクッたのです。私達は「サーモ隊」と名づけていたのですが、向こうも同じような名前を付けて同じことして放送しだしました。視聴率が良いものは、奪い合いです。しかし、私達は発案した側としての意地がありますから、それを見た翌日「元祖サーモ隊」と名付けて、競争心からさらにあちこちリポートしまくりました。だからパクればいいのです。そうしてブラッシュアップされていきます。

パクリはやがて師匠を超える

若手の頃、その後の私のリポートの型になる、原型となるものを教えてくれたディレクターさんがいました。「発見感を大切に」と、その場で自分が見つけたもの、私の驚き、感動。それは、逆の意味で言えばショックでもいいのですが、そうした発見感をリポートしろと。それはやがて、私のリポートとして定着していき「森下節」などと言われるようになっていきました。

それを教えてくれた、ディレクターさん本人はテレビに出るのが嫌いなんです。でも、たまたま偶然にも事故現場に遭遇してしまい、彼とカメラマンしかいなかったので、仕方なく彼がリポートしました。そのOAを見た報道局の偉い人から、こう声をかけたそうです。
「お前のリポート森下そっくりだったな」
彼は、いやいや違うんですと、僕が教えたんですと心の中で思いつつ
「ありがとうございます」
と答えたそうです(笑)「俺はついに森下っぽいと言われるようになったのか。弟子が師匠を超えたのか、と嬉しかった」と笑いながら話してくれました。

何事も真似です。だから、私は映像メディアに携わる者として、映画を観ているときも、どのようなカット割りをしているか、とか、どういったアングルで映像を撮っているのか、など製作者側の目線で見ていることがよくあります。こんな斬新な方向から映像を撮るのか、無音で長く見せるとこれほどまでに印象的なシーンになるのか、そのようにして作品を見ているから、そうした学びをもとに、取材でカメラさんにいろいろ撮影してもらう際、どのように撮影してほしいかこだわってお願いします。

どのようなことでもいいと思うんです。子育てでもいいし、何でもいい。他の人がやっていること、それはもうためらいなく真似したらいいと思うのです。やがてそれは、自分なりのスタイルに定着していくので、それこそが、やがて自分の本来の能力を生かすことにつながっていきます。

昔、嬉しいことがありました。フジテレビ系列の地方局に勤めていた私より五、六歳年下の女性アナウンサーと現場で話す機会がありました。フリーランスになって東京に来たんですね。私はその子のことは存じ上げなかったのですが、その子は私のリポートや中継を毎日のように見てくれていたそうです。
「私は入社したときから、会社の先輩に森下さんのリポートや中継を見て勉強しろ、と言われていました」
と言われて、そのように系列局で言ってもらえていたのか、と嬉しく思いました。彼女が笑顔でそう語ってくれた言葉がいまも私の心に残っています。

いいなと思うものはどんどん真似する。
しかも、自分が興味のある分野だとやっていて楽しいですよね。なので、堂々と臆せずパクリ続けよう。真似し続けよう。
ただし、自分でブラッシュアップしていくことも忘れないように。

(voicy 2022年10月9日配信)

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