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あなたも私も聞いているようで聞いていない:『プロカウンセラーの聞く技術』 ブックレビュー#3

「あなたは人の話を聞くことができますか」
と問われたら、大抵の方は「はい」と答えるのではないかと思います。

では、
「あなたは人の話を聞くのが得意ですか」「あなたは聞き上手ですか」
と問われたらどうでしょうか。
この質問にも、「私は人の話をきちんと聞くことができます」と答える方が多いのではないでしょうか。

ところで、
・あなたの部下は、仕事でのミスやトラブルを適時に情報共有してくれるでしょうか。
・あなたの部下は、仕事の方向性を早めに摺合せて、相談しにきてくれるでしょうか。
・あなたとあなたの配偶者は、日常的によく話をしているでしょうか。
・あなたの配偶者は、あなたと話すときに不機嫌になることはないでしょうか。
・あなたの子供は、困った時に、あなたに助けを求めてくれるでしょうか。
・あなたの子供は、あなたに隠し事せず、あなたの言うことに耳を傾けてくれるでしょうか。

上記に一つでも当てはまることがあるのであれば、あなたの「聞く」技術は向上の余地があるかもしれません(当然、私も、人様のことを言えるほど、「聞く」技術に長けているわけではありません。)。

『プロカウンセラーの聞く技術』は、「聞く」という誰しもが行っている行為について、臨床心理士である筆者が深く掘り下げている本です。

筆者はプロのカウンセラーとして、「聞く」を仕事にしています。
その筆者の問題意識は、人は自己中心的で話すのが大好きであり、意識しなければあっという間に「話すモード」になってしまう、ということです。

一見すると、きちんと話を聞いているように見えても、人の話を聞きながら、自分は何を話そうか考えてしまう。反論を考えたり、自分の経験と結び付け始めてしまう。
これはもう、本書で語られる「聞く」ではないのです。

「第一の修業は、相手の話を『素直に』聞くことです。相手に反論したいときも、話をよく聞いてあげると、相手の意見も自然とおだやかになり、反論しなくてもすむことのほうが多いのです。」

本書13頁

相手の話を「素直に」聞く、というのは実践しようとすると実は難しい行為です。
相手の話を聞くと、それに関連するトピックや自分の経験に引き付けて聞いてしまい、いつしか「話すモード」になってしまうことは誰しもあることです。
「わかる。わかる。私も・・・」
となってしまったら、もう「聞く」を離脱してしまっているのです。

人間は、お節介な生き物で、他人のことにすぐに口を出したくなる性を持っています。
これは、SNSを少しのぞけばすぐに体感できることです。
誰に頼まれたわけでもないのに、ゴシップやニュースにコメントする人は尽きません。

SNSで不特定多数に対して発信している分には、特定の人間関係に影響を及ぼすことはないですが、関係が近い人とではどうでしょうか。

「上司や教師自身の不安が大きいほど、口やかましく干渉しがちになるのです。」「子育てや部下育て、生徒育てには、言って聞かせる話し手モードより聞き手モードの方が効果的なのです。」

本書61頁

部下や子供との関係がうまくいかないのは、あなたが常に話し手モードだからかもしれません。話を聞いて欲しいときは、まず、相手の話を聞く。これは、社会的に上下の関係性と一般に考えられているような間柄でも共通なのです。

本書でも

「聞く態度の基本は、聞き手と話し手が対等な人間関係をもっていること」

本書148頁

と語られています。

ちなみに、話し手に気持ちよく話してもらえない例として、本書では、大人が子供と会話をする例を挙げています。
子供と会ったとき、大人はあいさつをする。ここまでは良いのですが、次の瞬間に子供の名前を聞く。「お名前は?」とか「名前は?」といったように。
これが当たり前に感じるのは、大人と子供を上下の関係性で捉えているからです。

街を歩いていて、いきなり、「お名前は?」と聞かれたら、たいていの大人はいい感情を持たないはずです。「まずは何者なのかそちらが名乗るのが礼ではないか」と思うのではないでしょうか。

子供も同じなのです。子供に話し手になってもらうには、子供と対等な人間関係を築く必要があり、そのためには、まず、あなたが名乗る必要があるのです。
(年齢を聞くというのも、大人がやりがちなミスであることが本書で指摘されています。これも、大人同士の会話を考えれば納得できるかと思います。)

聞き手が上記のような態度をしてしまうのは、相手が子供であるときに限らないのです。聞き手は、油断すると、簡単に対等な関係を忘れ、自分中心に会話を進めようとしてしまうものなのです。

本書は上記のほか、多くの具体例を交えて、聞くことの難しさ、聞くことへの謙虚な姿勢の在り方を教えてくれます。

隣人の良き聞き手になるために、是非手にとって頂きたい一冊です。

漫画版もありますので、まずはこちらから読んでみるというのもおすすめです。


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