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学部首席を取るまでのはなし#6

#6 「大学生2年生編」

 大学1年生の春から季節は過ぎゆき、2度目の春がやってきた。相も変わらず、入学して1年経つというのに、心にぽっかり穴が開いたような虚無感を抱えながら過ごしていた。
 そんなある日のこと、不思議な体験をした。いつものように通学の電車に揺られながら、ぼうっと窓の外を眺めていたら、いつもの大きな川に差し掛かった。その川を越えた瞬間、自分が今まで鬱鬱と抱えていた志望校への未練が、川の流れにあわせて綺麗に洗い流されていくのを感じた。なんとも説明しがたい感覚だが、川を渡る前と後では、気分が全然違うのだ。今まで自分が執拗にこだわり、悩んでいたことが急に些末なことのように思えた。この時に、過去との決別が完了し、「自分はもう大丈夫だ」と確信した。
 それからしばらく経った頃、友人の一人が学業成績優秀者として表彰された。聞けば、前年度の成績(GPA)が優秀だったものが選ばれ、表彰されるとのことだ。1年次の成績では逃してしまったが、気を取り直して2年次の成績でこの賞をもらおうと決めた。今までとりわけ何の目標もなかった自分に、新たな目標ができた。副賞で少しでも学費の足しになればいいくらいに思っていた。
 早速、既にもらっていた1年次の成績表を改めて見直してみる。「秀・優・良・可」のうち、ほとんどが「秀」のなかに、「優」がちらほら散見された。大学では一度単位を修得すると、同じコマの授業を受けることはない。そのため、科目ごとの対策というより、どの科目もできる限り「秀」を目指すこと、また、この成績表の中に引き続き「優」未満を入れないことというルールのゲームを人知れずに始めた。まるで、中学生のときにしていた例のゲームを思い出した。とは言うものの、いきなり人が変わったように図書館通いのガリ勉キャラになった訳でもなく、相変わらずアルバイトも忙しくしていた。毎日の日常をこなすのに精一杯で、今までの自分と変えたルーティンはなかったが、目標を設定したということだけで、自分の中で大きな違いがあった。授業はどれも面白く、1度も欠席したことはない。集中できたので、前の方の席に座ることが多かった。授業が始まる前の空白の時間には、先生とたわいもない雑談や質問をすることもあった。自分は一度も名乗ったことはないし、試験中にしか学生証を机上に出すことはなかったのに、なぜか先生が自分の名前を知っていたときにはとても驚いた。

→#7「大学3・4年生編」へ続く

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