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学部首席を取るまでのはなし#5

#5 「大学1年生編」

 高校卒業の余韻に浸る暇もなく、大学の入学式となった。新入生向けの多種多様なガイダンスをこなし、その情報量の多さだけでも、目まぐるしいものがあった。目下、この1年を左右する履修登録が一番重要なイベントであった。大学の授業には、自分の専攻である「専門(必修)科目」と「教養(選択)科目」がある。専門科目の空いたコマにパズルのように教養科目を埋め込んでいく。まずは、自分の興味がそそられる講義で授業スケジュールを立てていき、友人と同じコマの授業は一緒に受け、そうでない授業では、その場で友人を作っていった。
 卒業するためには、専門科目と教養科目のそれぞれ定められた卒業要件単位数を満たさねばならない。専攻の垣根をこえた様々な学問に触れ、新たな視野や見聞を広めることを目的に、特に1、2年次は教養科目もかなりのコマ数を履修することになる。自分が組んだスケジュールの履修科目がそのまま受けられるのかというとそうでもなく、一部の講義は、抽選だったり、選抜試験が課せられたりして、当初のスケジュールから若干の調整を余儀なくされることもあった。
 晴れて履修登録を終わらせ、本格的に授業が始まると、気づいたことがあった。正直なところ、自分は志望大学に通えれば、どこの学部でもいいと考えていたが、入学後は専攻の科目をみっちり履修するため、万一自分の苦手分野の学部を選んでしまったら、かなり苦労したであろう、ということだ。偶然の巡り合わせだったが、たまたま自分は興味のある分野の学部に所属できたことは幸いだった。それは、教養科目を受けるとより顕著に分かる。なぜなら、教養科目は、自分の学部以外の専攻の講師陣があらゆる分野の学問を講義してくれるからだ。当然、授業を受けながら自分とその分野との適性を推し量ることができる。履修している科目の中で、自分が一番興味のある分野は、やはり今の専攻であると確信が持てた。語弊のないように言わせてもらえば、教養科目は、どの授業もとても興味深く、いつも新たな発見や何かしらの学びを与えてくれた。学問は、ここからここまでときっちり線引きできるものではなく分野横断的である。おかげで、大学の卒業要件単位の一環でなければ絶対に触れなかったであろう分野への知見を深めることができた。
 毎日授業に追われつつも、不慣れなアルバイトを始め、課題のために深夜までパソコンとにらめっこする日々が続いた。友人にも恵まれ、一見充実した大学生活を送っていたように思えたが、忙しさの合間や、通学途中の電車の中などで、ふっと虚しくやりきれない気持ちが沸いてきた。春の長雨のどんよりとした雲行きは、まるで自分の心をあらわしているかのようだった。ただ、この気持ちは、誰にも相談できなかった。
 

→#6「大学生2年生編」へ続く


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