PYPにおける歴史の学び方
◎ こんな疑問を感じている人に読んで欲しい!
・教科の枠を超えた学びってなんだろう?
・事実的な知識を超えた歴史の学び方ってなんだろう?
今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学4年生の担任をしており、教科横断的な学びをどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。
前回のnoteでは、PYPにおける教科横断的なカリキュラムの価値について、私なりの考察をまとめてみました。今回は具体的な実践として、どのようにして授業実践をしているのかについてまとめていきます。
また、文部科学省も事実的な知識のみを学ぶのではなく、社会の中で生きて働く知識を育むことを重要視することを述べています。
国際バカロレアで取り入れているカリキュラムの考え方では、知識とスキルという二次元的なものから、社会の中でいきて働くために概念的な理解を取り入れることで三次元的なものに引き上げていくことを大切にしています。
では、事実的な知識をどのようにして社会における様々な場面で活用できる知識に引き上げるのかについて具体的な実践を通して考察していけたらと思います。
Unit4のカリキュラム
また、PYPでは概念型カリキュラムのカリキュラムが取り入れられており、ウィギンズ(Wiggins, G.)らが提唱している「逆向き設計」論が取り入れられています。「逆向き設計論」では「子どもたちに理解をもたらす」ことが重要視されています。
「なぜ、理解をもたらすことが重要なのか?」
逆向き設計をエリクソン とラニングが提唱する「知の構造」と「プロセスの構造」に当てはめたものがこちらの図になります。
導入 歴史的な場所へフィールドトリップ
最初の導入では、岐阜市に住んでいるということで、岐阜市にゆかりのある歴史的な場所にフィールドトリップを行いました。小学4年生にとって歴史とは遠い存在から始まったのですが、実際に信長が治めていた岐阜城や住んでいた場所に行くことで、フィールドトリップの後半では、歴史上の人物になりきり、劇のようなことが自然と始まっていました。
展開1 【数学】 歴史上の単位を探究
そして、子どもたちから「劇がしたい」という声が出てきて、劇で必要な道具を制作するためのリサーチからスタートしました。調べてみると、鉄砲の大きさは「4尺…」と出てきて、「4尺って何だろう?」という疑問が子どもたちの中で浮かび上がってきました。そして、調べてみると1尺が30.3cmということがわかり、昔の単位を現在使用している単位に変換することで、鉄砲の長さを知ることができました。
ここに、小学4年生で学習する小数のかけ算が入ってきて、これまで整数の計算しかしてこなかった子どもたちにとって、小数の四則演算の必然性と自然と出会い、整数の計算方法の考え方を生かして、小数の四則演算の考え方も学び合いを通して理解することができました。
展開2 【図工】 実寸大で歴史上の道具の制作
そして、Mathで鉄砲と刀と楽市楽座の実寸大の計測ができたところで、ここから図面を作成し、いよいよ制作に入っていきます。大切にしたことは「本物を追求すること」です。子どもたちは本物を追求することで、リサーチに力が入り、刀チームは、刀の刃、鍔、柄、鞘をつくるチームに分かれ、最終的には1つの刀に仕上がるように、接続部分の面積や長さを調整しながら制作を進めていきました。リアルさを追求することで、Mathのスキルを活用やこの時代も分業制で制作していた産業についても理解を深めることにつながりました。ここに教科を横断するからこそ、
形成的評価 【歴史】地域の歴史上の出来事を探究
形成的評価では「歴史は解釈である」ことを掴むために、歴史上の出来事を事実と解釈に分けて考察し、説明するスキルにフォーカスした活動を行いました。背景として、PYPのカリキュラムでは、子どもたちが社会に出てからも汎用できるスキルを育むためにATL(Approaches to Learning)にフォーカスした学習活動を行っています。ここでは、信長と歴史上の出来事の繋がりとして、信長の行った政策である楽市楽座、戦への鉄砲の導入、関市の刀の繋がりについてリサーチを通して理解を深めていきました。
事実的な問いとして「鉄砲を戦に導入するメリットとデメリットとは何か?」を投げかけ、デメリットとして関市の刀の産業に与えた影響に気づいたり、メリットとしては、戦に勝ちやすくなることで資金が増え、更に楽市楽座の政策を取り入れることで人が移り住み始め、町の発展にも繋がったと理解を深めていました。
総括的評価 【国語×地理】歴史上の出来事と現代への影響を探究
総括課題では、今回のユニットで子どもたちに促したい概念的な理解である「歴史上の出来事や人物が今の暮らしに影響している」にぐっと持ち上げられるように、複数の歴史的な事実を個人プロジェクトで実施しました。
この概念的理解も教科の枠を超えたテーマに書かれてある地域レベルから見た個人(歴史上の人物)と文明(産業の発展)がどのように相互に関係しているのかを見ていきました。
12人で12個の歴史上の出来事を探究し、最終的には国語科の学習として、事実と解釈を分けるスキルを応用して、新聞制作に取り組みました。子どもたちの中には実際に歴史的な出来事が起きた場所に調査に行く人もいました。
さらに、ただ制作した新聞を発表するだけでなく、12個の歴史的な出来事が「現代に与える影響」「地理的な影響」という見方にフォーカスして、歴史的な出来事と現代への繋がりについて考えるワークを行うことで、当時の社会や現代に持つ意味などを含め、知識が相互につながり関連付けられながら習得されていくことを大切にしました。
まとめ
Unit4での実践を教科横断的な学びの視点でまとめると、歴史という教科を探究するプロセスの中で、数学では戦国時代に使われていた単位を現代の単位に変換することで、単位変換や小数の考え方を導入し、アートでは、戦国時代に使われていた道具をリアルさを追求して行うことで、数学のスキルとの掛け算が生まれ、さらに分業制で産業が行われていた理解にもつながりました。また、歴史的な出来事についてリサーチしたことを新聞の制作を行うことで書く活動に繋がり、リサーチしたことを地理的な影響と絡めながらマッピングすることで地理の学習とも繋がっていきました。
子どもたちの中では、今は国語の時間、数学の時間、歴史の時間、地理の時間、アートの時間というような境目は曖昧になっており、PYPが目指している概念的な理解に働きかけることで、そのプロセスの中で子どもたちが何の教科を学んでいるのかが分からなくなるくらい教科の枠を超えた学びに一歩近づけたユニットになりました。
もっと詳細を知りたい方はブログの方に詳細をまとめてありますので、こちらを見て頂けたらと思います。
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