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「きのうのオレンジ」

タイトルに惹かれて手にした本だった。

実家の岡山を離れ、都内のイタリアン料理店で働いていた凌賀。都内の病院で働く同郷の看護師の泉。凌賀の双子の弟恭平と母は、今も岡山で暮らしている。
眩く穏やかな瀬戸内海と甘酸っぱいオレンジがオーバーラップする愛のドラマだった。

岡山には行ったことがないけど、読み始めてすぐタイトルの「オレンジ」が岡山のことだとわかった。

僕は、毎日職場までの約2.5キロを歩く。道程の半分ぐらいはジョギングの人や犬の散歩の人が行き来する遊歩道だ。季節の移ろいも感じながら急がず歩く時間を楽しんでいる。昨日気づかなかった道端に咲く花に足を止めることもある。
そんな道端の花のような青年凌賀。
彼と、取り巻く人たちの優しい心根に触れて、序盤から終盤まで何度も瞼を熱く濡らしながら読んだ。

文庫文末の解説を寄稿した作家が「私は、フィクションの力を畏れている」と書いていた。
その通りだと思った。
だから、「生きること」について考えている。
タイトルとはかけ離れたインパクトを残してくれた。

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