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イノセントワールド|川上未映子の「黄色い家」

頼れる親もなくひとり生きなければならなかった少女花は、優しく接してくれる大人たちを信じ、少しづつ逞しさを身に付けていく。
花は、黄色い家を作り守ることに賭ける。
”家族”のため、裏世界のシノギに手を染めても、花は変わらず無垢で居続ける。
無垢ゆえに危うい。

人を信じ、システムを信じた。
いちずに頑張ってきた。
あるとき花は、信じた人もシステムも嘘だと気が付いて、転落を逃れた。
はずだった。

悪夢に追われた年月を過ぎて。
ふと思った。
あれはほんとうに、嘘だったのだろうか。

イノセントワールド

もし全世界が、誰もが自分の役割を生きるだけで良い、経済格差もない理想社会だったなら。
それなら無垢でいられる。
小説の中に「人は死んでも、金はずっと生きている」という表現があった。
ほんとうにそうだと思う。現実社会の「金」の存在は大きい、大きすぎる。
だから無垢でいられない。
でも無垢でいたい。
そんなことを考えていたら、頭の中に古いヒット曲が流れた。

いつの日も この胸に流れてる メロディー 
切なくて 優しくて 心が痛いよ
陽のあたる坂道を昇る その前に
また何処かで 会えるといいな
その時は笑って
虹の彼方へ放つのさ イノセントワールド 
果てしなく続く イノセントワールド
ミスターチルドレン「イノセントワールド」より

青春モラトリアム

この小説、シンプルな受け止め方もある。
子どもの頃考えていたこと、突き進んだココロをよく思い起こせば、大人や社会が仕組んだ策略に嵌められていたとも思える。
いつまでも続かないことを知っていたのは、大人。
手にできるはずのないものを追いかけていただけだった。
それは青春モラトリアム。

川上未映子という作家の思惑はどこにあるのだろう。
読みやすいのに、読者は勝手に難解に受け止めてしまう。
それもこの人のすごさ。


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