読み終えた誰かと話してみたい/極夜行
「ひとり極夜(きょくや)を旅して、四か月ぶりに太陽を見た。」
これが単行本の表紙オビのコピー。
数か月間太陽が昇らない時期の北極の、漆黒の地を一匹の犬と進んだ冒険紀行。
端的にはそういう内容だが、書評を読んで購入したときに想像していたノンフィクションのスタイルではなかった。
基点の村シオラパルクは、グリーンランド最北の村で人口は100人に満たない。著者は、3年間かけてこの村に通い、行程のロケハンを行い、中継地点へのデポ(食べ物)設置、同行する犬との交流、イヌイットと呼ばれる現地の人たちとの交流など準備を重ねてきた。
到達地点やクリアしたいルートが定まっているわけでもなく、ただただ太陽のない氷の世界の旅。
ブリザードや食料危機を潜り抜けながら前進する。暗闇がもたらす感覚の変化や気まぐれな月。そして太古から続く人間と犬との関係の本性。
人間界のシステムの外側へ出るのが冒険だという。
地図の空白部を目指すことや未接触部族を発見する地理的なチャレンジがあまりなくなった現代。シオラパルクにもフェイスブックが普及している現代ならば…。
「35歳から40歳が人生で一番大きな仕事をするとき」と公言してきた著者にとって、人間を含めて地球上の生物が恩恵を受けている太陽の無い暗闇が自分にもたらすことを確かめる、一世一代の大冒険だった。
引用したいくだりがもっとあるけど、止めておこう。
読み終えた誰かといくつかのことについて話してみたい、そう思える一冊に出会えた。
先へ先へとぺージを捲りたいけど、早く読み終えたくない、心地よい時間だった。
月は女、太陽は男か。
著者/角幡唯介(文藝春秋)