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2025年人は買い物をしなくなる

今回は、望月智之氏の「2025年人は買い物をしなくなる」と言う本を紹介します。望月氏は「株式会社いつも」取締役 副社長を務めており、いつも社は、国内・海外でのEC事業支援などを行なっている企業である。そして、消費者の購買行動に大きく影響を与えている「Amazon」のコンサルティングにも注力している。

今日、デジタル・テクノロジーの発展、デジタルトランスフォーメーションにより我々の生活はとても便利になった。それに伴い、ここ数年で消費者の消費行動・購買行動は劇的に変化していると思う。具体的にはインターネットの発展によるECサイトの誕生であり、確実に実店舗での購買行動が減少していると言えるだろう。

アメリカではBlack Fridayの影響で実店舗の購買が減少、中国のALIBABAでは独身の日に一日の流通総額が約4兆円突破、そして日本でもAmazonのPrime Dayなど、確実にオンライン流通額は増え続けている。

消費者にとって買い物という行為が「面倒くさいもの」という扱いになり、必要なはずだったプロセスは文明の発展で次々に省略されることで、買い物をしているという感覚さえなくなっていく変化が起きている。これからも加速度的に進んでいくだろう。

その過程で著者は「デジタルシェルフ」という新しい概念を提唱した。具体的には各章で説明するが、本書では従来型の買い物の概念も形も変わる、そんな新しい時代が到来した時に何が起こるのかを想像し、その変化を見据えて備えることの必要性を説明している。

是非考えてみて欲しい。我々が生きていくために当たり前のように行なっている買い物という行為がどのように変化していくのかを。

■目次
第1章 ショッピング体験の進化で、人々は「買い物」をしなくなる
第2章 ショッピングはどう発展してきたのか
第3章 リーディングカンパニーたちが目指すもの
第4章 さらなる進化、「デジタルシェルフ」へ
第5章 「人々が『買い物』をしなくなる未来」の先にあるもの

第1章 ショッピング体験の進化で、人々は「買い物」をしなくなる

直接的に買い物をしなくなると述べているが、まずは、これまでの買い物についておさらいする必要がある。
具体的に想定される買い物のプロセスとしては、「店舗に赴くーそのために準備をするー店舗への移動ー店舗で商品を探すー商品を選ぶーレジに並ぶー購入するー自宅に持ち帰る」のように言ってみれば面倒の積み重ねではないだろうか。

今の時代、わざわざ実店舗に行かなくても買い物をすることができるようになっており、これはデジタル・テクノロジーの進化がもたらした結果であるとともに、「より楽に便利かつ安価に物を買う」=「現在の買い物」の形へと変化したということなのだ。

これにより、実店舗側ではわざわざ足を運んでもらうための新しい価値を提供する「体験型の店舗」でECサイトとの差別化を図ろうとするう動きもある。例えば、US NYのNIKEショップのようなスニーカーが美術品のように陳列されているショールーム的な機能実装などでのリアル体験などである。

繰り返しにはなるが、やはり今では店舗に行かなくても商品をレコメンドしてくれる機能やサブスクリプションモデルで映画・音楽なども供給され、「便利さ+煩わしさの解放」で加速度的に利用者が増えている。

しかし、買い物の煩わしいプロセスの中でも残る楽しみとして、「開封の瞬間」は残っていると思う。想像してみて欲しい。実店舗・ECサイトのどちらで購入したとしても、実際に商品を開ける時は共通して高揚する瞬間ではないだろうか。実際にハイエンドブランドも「Unboxing=届く瞬間、箱を開ける瞬間のユーザー体験」を最も重要視しているという。加えて、リアル体験にもあるように店の雰囲気の楽しみや家族や恋人・友達と買い物のプロセス自体を楽しんでいる人も少なからず存在していることを考えると、確実に従来型の買い物が減少している中でも知恵を絞り新しい付加価値をつけることで、人々がもともと感じていた買い物の本当の楽しさに再び気づかせることもできるかもしれない。

近年注目を集めるデジタル起点に誕生したD2Cブランド企業も、実際にリアル店舗も並行して拡大する動きを見せている。彼らのターゲットはデジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代・Z世代である。彼らは生まれた時からデジタルの繋がりが当たり前の環境で育った世代だが、オンラインだけでなくオフラインの世界観を売ることに注力してシェアを確実に伸ばしているのだ。

第2章 ショッピングはどう発展してきたのか

過去のショッピング歴史とこれから訪れるデジタルシェルフ時代の連続性を捉えるために戦後の高度経済成長期から今に至るまでの歴史を振り返る。

第二次世界大戦後の復興期に店舗数を飛躍的に伸ばしたのは、都市部の百貨店や地方の個人商店であった。(戦後前から存在自体はあった)
百貨店には衣料から食料品までなんでも揃っており、近所の商店では買うことができないものも多くあり、何か特別なものを買いたいときには百貨店に足を運ぶ。休日に百貨店に出かける=家庭にとっての「レジャー体験」となっていた。

その後、自動車の普及が進んだこともあり、スーパーマーケットが台頭し、バブル期を迎えると専門店の集合体であるショッピングモールが誕生する。ショッピングモールでは「買い物・食事」に加えて、百貨店で体験していた「レジャー体験」の役割も担うようになった。
しかし、爆発的に出店お数を伸ばしていたショッピングモールでさえ、今では閉店、合併が増え、土日は賑わっているが平日は閑古鳥が鳴いているような現状なのである。

ここまでが簡単な歴史の一区切りとなるが、従来は人々の経済的な余裕と自動車文明の発達などによって「買い物の仕方」が劇的に変わったことで各店舗間で激しい顧客獲得争いが起こっていた。さらに突き詰めていくともう一つの争いが起こっていた。それが「棚の奪い合い」である。
大型ショッピングモールの登場によって、棚の数も劇的に増えたがあくまでも有限、「有限の棚を店舗と店舗で奪い合う」歴史がこれまでも、今もなお続いている。

そして現在、ECサイト登場によって「商品棚が家に来た」ところまで消費者に近づき、さらにスマートフォンの普及によって「手元に来た」状態となった。まだ歴史的に20年程度のECサイトに実店舗の棚は奪われたということ
それによって、これまでのメーカーなども購買の場をECに移行し、D2C化を進めて反撃を図ろうとしている。

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第3章 リーディングカンパニーたちが目指すもの

インターネットの幕開けによって、実店舗の棚がデジタルに移り棚の獲得競争が起こったわけだが、現在ではさらに「時間獲得競争」が始まっている。

これだけ便利さが追求された世界では、以前と比べて飛躍的に時間の短縮化ができるようになった。例えば、これまで徒歩や自転車で何時間もかかっていたものが自動車や電車・飛行機などで時間が時間の短縮が可能となるなど、文明の発展が我々の生活を劇的に良い方向に変え、「可処分時間」も増えているはずである。
しかし、便利になった一方で情報量も多くなり、知らず知らず「情報」という波に揉まれ、結果として常に何かしらの情報に触れ、振り回され、逆に時間を奪われる結果となっていないだろうか。

このことから、これまで棚取り合戦を行なっていた状況から、いかに消費者の可処分時間を確保してサービスを利用してもらうかにシフトしている。
実際にメーカーが出しているヒット商品の7割〜8割が時短に関連するものであるデータもあるほどである。

具体的に各企業が何をしているのかを見てみると、以下などがある。

Amazon :AmazonGo(無人店舗)
Walmart :カーブサイド・ピックアップ(ネット注文・店舗受取)
Luckin Coffee:(ネット注文・店舗受取)  など

そして、これは小売業界に限った話ではなく、消費者の時間を獲得するためにITを駆使して各企業が様々な取り組みを行なっており、さらに激化していくことだろう。

第4章 さらなる進化、「デジタルシェルフ」へ

冒頭で記載したデジタルシェフルだが、これは「世の中の電子化が進む中で、日常の身の回りにある、ありとあらゆるものがシェルフ(商品棚)になること」を意味している。しかし、消費者にとっては便利である一方で、企業にとっては少なからずマイナスの影響も与えている。

・デジタルシェルフではお金をかけても最高の棚どりができない場合がある
・デジタル上で自社商品がどれぐらい一等地に並んでいるか可視化できない

では、デジタルシェフルによって、消費者への企業からのアプローチはどう変化するのか。消費者側の視点では主に2つの変化が起こると考えられる。

(1)データドリブンによりAIを活用して自分に必要なものが自然に届く
(2)他人の意見によって商品を購入するようになる

(1)データドリブンによりAIを活用して自分に必要なものが自然に届く
▶︎これからは消費者の情報が鍵となる時代となる。膨大なデータによって、消費者が「今欲しいもの」「本人は気づいていないが本当はあったほうがよいもの」まで学習しレコメンドあるいは届けてくれる時代がやってくる。
よって、デジタルシェルフ時代には、もはや買い物をしていることを意識することもない「無意識な領域」まで進んでいくと考えられる。

(2)他人の意見によって商品を購入するようになる
▶︎デジタルの進歩には必ず人が存在している。この情報過多の時代では、自ら能動的に商品に触れていく以外に「他人の意見」に触発されることが多くなっている。それは、友達の進めかもしれないし、口コミ、インフルエンサーの紹介、レコメンドかもしれない。つまり、そこには「自らが気がつかないマーケット」が存在しているのだ。

そしてデジタルシェルフは、5Gになることでさらに加速すると考えられる。
もちろん、専門家であってもどんな革新的なことが起こるかは明確に予想できていないが、おそらく1Gから4Gまでの進化よりも大きなインパクトが起こるだろうと言われている。

第5章 「人々が『買い物』をしなくなる未来」の先にあるもの

デジタルシェルフが究極に進むと、おそらく買い物時間は0秒になる可能性がある。買い物時間が減少し、今の自分に必要なものをレコメンドしてくれる、シンギュラリティにより何もしなくても必要なものが届く時代もくるかもしれない。しかし、どれだけ技術が進んでもそのベースはあくまで生身の人間であり、「人とのつながり」はなくならないという。だからこそ、技術の進化と並行してその価値を追い続ける企業が生き残り、これを大切にする個人が人生を謳歌する時代となるだろう。


最後にはなるが、「デジタルシェルフ」は、いままさに急激なスピードで進行しているフェーズにある。こうした変化は、否応がなしに進み続け取り込まれていく。そして生活の中の当たり前へと変わるのだろう。
今日のデジタル至上主義の時代に乗り遅れた企業が、今必死にデジタル化を進めようとしている状況はお分かりかと思う。その全てが、文明が発展したことで実現できる範囲が拡張している以上に消費者の価値観や行動が変化しているからなのである。この変化に敏感にならなければならない。

ただし、この流れに完全に身を任せてしまうのは危険が多く、一方で抗っていては時代に取り残されてしまう。
つまり、これから先重要なことは、今何が起きていて、これから何が起きるのか、その変化を敏感に捉えるとともに先を見据えていくということなのだ。

                                TOMO


☟著者プロフィール
望月智之(もちづき ともゆき)
株式会社いつも.取締役副社長

東証1部の経営コンサルティング会社を経て、株式会社いつも.を共同創業。
同社はコンサルティング会社として、現在までのべ9000社以上の企業にデジタルマーケティング支援を提供している。
自らはデジタル先進国である米国・中国を定期的に訪れ、最前線の情報を収集。デジタル消費トレンドの第一人者として、消費財・ファッション・食品・化粧品のライフスタイル領域を中心に、ブランド企業に対するデジタルシフトやEコマース戦略などのコンサルティングを手掛ける。


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