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誰がプリキュアに変身するのか

*新プリキュアは「わんだふる」

さて、20周年を迎えてすっかり日本のヒーローもののひとつという地位を獲得・定着した「プリキュアシリーズ」。
2023年度の『ひろがるスカイ!プリキュア』は、あらためて「ヒーロー」にフォーカスした熱い物語展開も交えつつ、プリキュアシリーズの定石も外さず、見応えのある1年間のうちに、先般無事に大団円となりました。
レギュラー登場するプリキュアメンバーの変身者に男の子や成人女性が含まれるといったあたりも注目されて始まった『ひろがるスカイ』ですが、そのあたりの新機軸もスマートに捌いた作劇は、まさにプリキュアシリーズ20周年のその先を拓くものだったと言えるでしょう。

 → 可能性ひろがるスカイ!プリキュア男子レギュラー登場
 [佐倉智美のジェンダーあるある研究ノート]
 https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2023-02-07_HRskPr-wing


で、そんなプリキュアシリーズ。
その、この2024年度に展開される新たなタイトルとして、先日放送がスタートしたのが『わんだふるぷりきゅあ!』です。
こちらも、新たな物語世界に新機軸を打ち出しながら、メインターゲットの子どもたちが楽しめることを第1に、かつ大人視聴者をも飽きさせないよう、丁寧に工夫して編まれていると見受けられる序盤の構成です
(当記事は2024年3月10日放送の第6話までの視聴に基づいて執筆しています)。
また1年間、期待しながら見守っていきたいところですね。

 → 東映アニメーション「わんだふるぷりきゅあ!」公式サイト
 https://www.toei-anim.co.jp/tv/wonderful_precure/
 → 「わんだふるぷりきゅあ!」朝日放送公式サイト
 https://www.asahi.co.jp/precure/wonderful/


一方、そんな『わんだふる』ですが、事前情報が発表された段階で、少なからず驚きをもって受け止められた「新機軸」がありました。
それは、メインキャラとして本作での「センター」プリキュアのポジションを担うものと目される「キュアワンダフル」に変身するのが、「キュアフレンディ」に変身する「犬飼いろは」の飼い犬である「こむぎ」であるという点。

 ………え゛っ、犬がプリキュアになるの!?

 ※画像は公式のサイトや放送画面から引用要件に留意した上で貼付しています


*プリキュア変身者の最頻値

ここで今一度、じゃあこれまではいったい誰がプリキュアに変身していたのか、の再確認をしておきましょう。

結論から言って、そのプリキュアシリーズ全体での最頻値は[女子中学生]、とりわけ[中学2年生の女子]ということになります。
いわば番組のメインターゲットと想定されている幼稚園・保育園児~小学校低学年児童にとっての「少し大人な憧れのお姉さん」として最も適正な属性がソコだということにもなるでしょう。
素直に考えて、きわめて穏当な塩梅だと評価できます。

今や総勢80人以上となるプリキュアという変身ヒーローにおいて、それだけのボリュームの少女たちが、各々の信念に基づいて自分が大切に思うものを守るために戦っているのだというのも、なかなかスゴイことですね。

ともあれ、そんなわけで、代表値として2024年現在の最頻値を見る限り、「プリキュアに変身するのはおもに[女子中学生(特に2年生)]」というのは事実として間違いありません
(ここでの人数カウントに含める「プリキュア」は《テレビシリーズ各作にレギュラー登場し、スポンサーが発売する関連グッズ商品化の対象となるもの》という規準に則りました)。

◎「プリキュアの人数モンダイ」については、こちらの方のこの記事も参考になります
 → 「プリキュアは今、何人いるのか」問題を真剣に考える
  [プリキュアの数字ブログ]
 https://prehyou2015.hatenablog.com/entry/nanninpuri

*しかし「普通の人間」以外も珍しくはない

さりとて最頻値はあくまでもひとつの代表値。
当然にそれ以外の事例もあり得ますし、前述のとおり今では母数がハンパないのでその数は1桁に収まりません。

中学生でも1年生だったり3年生だったりすることはもちろん、高校生や小学生に相当する、もしくは学齢期にあるだろうと見受けられるキャラであっても学校には通っていない/通っている描写がないようなケースも複数あります。
明示的に18歳に達した成人と設定される昨年度の事例の他にも、正体を隠すための方便に「世界を旅して回っているバックパッカー」が妥当するような外見上は成人女性なケースもありました。

そして、大事なのはここから。
たとえ作中で中学生という身分を有するキャラであっても(もちろんそうでなくても)じつのところ作中での現実世界における生粋の地球人ではないというパターン、これがまたなかなか少なくないのですね。

作中での現実世界では人間の姿に擬態して中学校に通ってはいるけれども、その正体は異世界の妖精だ、というような事例はシリーズを見渡すと散見されます。
地球の精霊とか、異世界の何らかのエネルギーが実体化した結果として、人間の姿をとっているみたいな存在も然り。
あるいは遠い星からやってきた異星人や、未来から来た未来の科学で造られたアンドロイドだったりすることも。

したがって、プリキュア変身者が[普通の地球人の中学生の女の子]以外である実例は、思いのほか相当数にのぼるわけです。

……と、なると、そういう場合って、少なくともアニメの映像表現上は、「犬がプリキュアに変身」と、さほどの有意差はない、とも言えてきます。

例えば2017年度の『キラキラ☆プリキュアアラモード』で、中盤から追加戦士として登場した「キュアパルフェ」、その変身者である「キラ星シエル」は、じつは正体が妖精「キラリン」だったりします。


類似の事例はシリーズ他作にもありますが、特に2011年度の『スイートプリキュア♪』で「キュアビート」への変身者となる「黒川エレン」の妖精態はかなりリアル寄りのデザインの猫の姿だったので、『わんだふる』との差異はますます僅少と言えます。

他にも『ドキドキ!プリキュア』(2013年度)の「キュアエース」への変身者「円亜久里」は、変身前は小学生相当の外見ながら、変身後は成人女性による変身かと思わせる姿となります。
いちおう作中ではそのことに重大な秘密が隠されているという設えですが、つまるところこのようなことはプリキュアシリーズを俯瞰するに特に珍しくはない。

まぁフィクションでありアニメである作中に登場する、(おもに、いわゆる)異世界の不思議な力が係わった存在がプリキュアですから、要はこういうことだってさもありなん。
しかして、このように見てくると、今般の『わんだふる』での「犬がプリキュアに」も、決して喫驚には値しないことだと理解できてきます。

もちろん『わんだふるぷりきゅあ!』での「こむぎ」は、あくまで作中の現実世界での普通の犬であり、犬に似た外見の異世界から来た妖精だったりはしない(と少なくとも現時点ではそのように提示されている)のが既存の過去作の例とは異なるところです。
それゆえに、飼い主だった「犬飼いろは」との関係性をめぐる作劇にも、従来作にはなかったドラマトゥルギーが展開できるのは新機軸かもしれません。

とはいえ、ソレはそれ。
つまるところ「犬がプリキュアに」は、多少の驚きを招来したものの、じきに視聴者は馴染み、納得して受け止めることとなったと言えましょう

*ところが[性別]が絡むと人は引っ掛かる

…と、なると、いささか釈然としない案件も浮上してきます。

昨年度『ひろがるスカイ!プリキュア』にて男子プリキュア登場と話題になった「キュアウィング」。
その変身者「夕凪ツバサ」は「12歳の少年」という触れ込みで事前の公式情報は告知されましたが、蓋を開けてみると、人間界ではそのような姿で暮らしているものの、じつは異世界スカイランドから来た「プニバード族」であることが明かされました。
プニバード族は、人間態になる能力も有しているという設定の鳥のような外見の種族で、つまるところ、いわばシリーズ恒例の「妖精」枠。

そんなわけなので、キュアウィングは「(ついにレギュラープリキュアとして)男の子が変身!」と騒がれましたが、ソコに食いつくのであれば、その前にまずは、「犬がプリキュアに!」と同等に「鳥がプリキュアに!!」なのではありますまいか!?
そして、「鳥がプリキュアに!!」を腑に落とすのであれば、「男子もプリキュアに」もまた、とやかく言うような事象ではない、とするべきでしょう。


たしかに2023年時点で、妖精が人間態を経てプリキュアに変身する前例はすでに多々あったわけですし。プリキュアシリーズの歴史的な経緯を勘案すれば「ついに男子も」をこそフィーチャーするジェンダー的な意義もわかります。
でも、こうして見てきた流れでこの案件を再考すると、やはり人は性別が関わる事項により大きな印象を持ってしまうのだなとも思わざるを得ません。

「男子もプリキュアに」!
そのことが、それほどまでも時代の進展を象徴するトピックスとして、筆頭の話題になってしまう。それは、本来はそんなことはあってはならないことだったとされていたがゆえの逆説です。
おそるべきジェンダーの壁の強固さだ、と言ってもよいかもしれません。
さらに踏み込んで言うなら、私たちは「性別にまつわる規範意識を、他の諸規範よりも一段上位のものとして内面化している」「性別越境にかかわる規範侵犯には、他の規範侵犯よりも一層のタブー感を抱いてしまう」、そういうふうに社会化されてしまっている。そういうことにもなるでしょうか。

*「大好きなパパと結婚したい」

性別についての越境・規範侵犯を人がより重大に感じてしまう現象については、以前にこんな話を聞いたこともあります。

とある幼稚園児の男の子が、父親のことを大好きなあまり、大好きな相手とはそうするものだという世の習わしに従い「大きくなったらパパとケッコンする!」と日頃から言っていて、両親はそうした発言も、その子なりの素直な好意の発露として微笑ましく見守っていました。
ところが、ある日幼稚園から帰ってくるなりしょんぼりした様子で「ボク、大きくなったらママとケッコンする…」と母親に告げるではありませんか。
いったい急にどうしたのかと訝しんだ母親が経緯を聞き取ったところ、なんでも幼稚園の先生から「パパとは男どうしだからケッコンできないよ。するならママとにしなさい」と諭されとのこと。

………いゃぃや、ママとも結婚できないからっ!

この幼稚園男児の「大きくなったらパパとケッコン」発言を、子どもの無邪気な発言として微笑ましく受け止めるのなら、結婚したい相手が父親でも母親でも、べつにかまわないはずです。
方や、真面目に訂正を入れようというのであれば、母親となら本当に結婚できるかのように語るのは明確に誤りですから、学校教育法1条校である幼稚園という教育機関の教員の発言としてはきわめて不適切となります。
にもかかわらず、この幼稚園の先生は無意識のうちに、近親婚よりも同性愛のほうがより上位の禁忌だという認識を内面化してしまっていて、それがこういう発言に表れたのでしょう。つまり親と結婚したい気持ちであれば微笑ましくとも同性どうしの結婚は認められない、という思い込みなわけです。
このような同性愛へのタブー意識、異性愛主義への囚われは、早急に改めていきたいところですが、なかなか一筋縄ではいかないことを象徴するエピソードかもしれません。

*「男子プリキュア」の今後

実際、『ひろがるスカイ!プリキュア』作中ではキュアウィングを殊更に特別視するわけではなく、ごく自然に他の仲間と同等に扱われるなど、先進的な描写が心がけられているようでした。が、反面、スポンサーの商品展開の面では積極的な展開が躊躇されていると解せることもあるなど、世の中全体では、まだ対応しきれていない側面も垣間見えました。
それだけ、性別をめぐる規範意識は、まだまだ私たちの意識の中で強固だということにもなるでしょう。

プリキュアシリーズが20周年に達し、ヒーローものとしての本質が、もはや例えば同じ日曜朝の仮面ライダーや戦隊ヒーローと違わないものになっても、いまだに前者は女の子向け、男の子向けは後者だという認識は根強いわけです。
現在の大学生世代であっても、授業後のリアクションペーパーに、幼少期のジェンダー体験として、そのように大人から言われたと書いてくる事例は、少なくありません。

前記事で述べたように、「女性の仮面ライダー」はもはや普通になりました。
それと対になるように、今後は「男子プリキュア」もあたりまえになっていく流れは確実にあります。
そのことが、少しずつであっても、世の中を変えていく力になる、そう信じて行動していくことが、現在の私たちにとって重要なのではないでしょうか。

 → 令和の仮面ライダー、それはもう特筆事項ではない
 [佐倉ジェンダー研究所web令和本館]
 https://note.com/tomorine3908_nt/n/n4ff9b047dd75


ちなみに、『わんだふるぷりきゅあ!』でも、「…こいつも6月ごろプリキュアになるんじゃね?」と目される男性キャラは配置されています。
すなわち、「キュアフレンディ」に変身する「犬飼いろは」の幼馴染だという「兎山悟」
(当記事ヘッダー画像 中央)。

幼馴染という立ち位置は、つまり『デリシャスパーティプリキュア』での「品田拓海」に似ていますが、品田拓海が変身した「ブラックペッパー」は[プリキュア]の称号を有していなかったことから一歩進めて、今般の兎山悟が「キュア◯◯」に変身するとなれば、大いに画期的でしょう。
上述のようにキュアウィングの変身者・夕凪ツバサは異世界の鳥型妖精と言えましたし、品田拓海もじつは父親が異世界出身者であるという設定が物語中盤で明かされましたから、この兎山悟がプリキュアになれば、生粋の[普通の地球人]初の男子プリキュアだということにもなります。

はてさてどうなるのでしょうか。
ファンのSNSでのやり取りではすでに期待が高まっていますし、その様子には「男子プリキュア」が特に特異な事象ではないという認識にひとつ近づいた印象も感じられます。
期待して見守っていきたいところですね。

*そもそも「女の子」の定義が絶対ではない

補足になりますが、「男子プリキュア」登場以前のプリキュア変身者が、すべて「女の子」だったかというと、それは[「女の子」の定義]しだいです。

前述のとおり、異世界の妖精の人間態や異星人などのケースは複数ありますが、これらには地球の生物学は適用しきれないでしょう。
なので「生物学的性別」の概念は当てになりません。
現に雌雄同体の種族だとされる異星人プリキュアはいました。
未来の科学で造られたアンドロイドなんて、まずもって生物ではないですし。

となると、それらの場合、たまたま地球のジェンダー観念に照らして「女の子」に見えるので、視聴者(や、作中での周囲の登場人物たち)がそのように解釈しているだけ、だったということになります。
否、全員がそうなんですけどね。

 → 性別なんてどうでもいいキングオージャー
 [佐倉ジェンダー研究所web令和本館]
 https://note.com/tomorine3908_nt/n/n05170c92e674


この先、プリキュアシリーズでも「性別不詳」プリキュアが登場する可能性は、当然に低くはないです。

その暁に、ついついそのキャラの性別が判然としないことに落ち着かなさを感じてしまったりせずに済むように、私たちは、そもそも性別って何なのか、社会生活に各々の男女いずれかに二元化された性別属性って必要なのか、今あらためて懐疑的に再検討しておくべきなのではないでしょうか。

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