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まさかの”田園ミステリー”で脳内寸止め劇場。でも面白い、池井戸潤原作TVドラマ『ハヤブサ消防団』

『半沢直樹』の日曜劇場枠がオリジナルドラマで勝負する裏で、池井戸潤原作の『ハヤブサ消防団』がテレ朝系でドラマ化された。

これまでと趣の違う作風とドラマ版の俳優陣が微妙に地味だったのであまり注目していなかったのだが、やはり面白いという評判を見て見始めたところ、思いのほか面白くて視聴を継続している。


▼あらすじなど

本作は最初に書いた通り社会派ドラマのイメージが強い池井戸潤原作の小説のドラマ化だが、主人公はしがない作家でスランプ解消のためにかつて祖父が住んでいた田舎に引っ越すという、サラリーマンのサの字も出ないようなストーリーになっている。

しかし、引っ越し先のハヤブサ地区、八百万町では田舎特有の人付き合いがあり、助け合いの精神で自警されている『ハヤブサ消防団』への加入を求められるなど、戸惑いも見せることになる。

そんな中、最初に自分に声を掛け優しくしてくれた近所のおじさんの家が火事になり、否応なしに消火活動に協力する中で地元を守るという意識が芽生え、消防団への参加を決断する・・・というような話の流れとなっている。

そして、その火事がここ最近連続で起きていて、放火なのではないかという疑惑が湧くも、容疑者と目されていた人物が死体で発見されたり、同じように都会から移り住んできた女性の登場と、サスペンス・ミステリーの体を示し始め、ついにはその疑惑が消防団の中にも向けられるようになるなど、緊張感のある展開が続いていく。

▼全体像が掴めない居心地の悪さ

本作、『ハヤブサ消防団』はいろいろ捉えどころのないところがあり、その魅力を一言で語るのは難しい。

原作者から社会派と思いきや田舎~!?みたいなのもそうだし、主演の中村倫也のふにゃふにゃした(誉め言葉です)掴みどころのない主人公像、消防団を始めとした地元民の濃ゆい感じの関係性と謎を感じさせるミステリーとのバランス、かと思えば消防シーンではきびきびとした動きでお仕事ドラマみたいな緊張感があったりと、どう見てよいのか良く分からない。

しかし、だからダメという訳ではなく、先の読めないワクワクがあり、笑っていいのか深読みした方が良いのかその分からないところも含めて楽しんでいる。

▼本作独自の魅力・見所とは?

全体としてはミステリー仕立てになっていると感じるが、そもそもこうした横溝正史風の田舎の風習に基づいた不可解な殺人事件みたいなシチュエーションが、近年では「TRICK」とかでパロディ的に行われることが多く、後は「金田一耕助」のシリーズが時々リメイクされるくらいで、懐かしいとともに新鮮さも感じる。

そこに芸達者な面々が熱いやり取りを繰り出すもんだから、思わず笑ってしまいそうになるがそう思わせといて・・・とか深読みしだすとコワっみたいなところもあって、脳内寸止め劇場になってパニくってしまう。

演出側も狙ってやっているのか、地元の居酒屋の調理シーンを意味ありげにじっくり見せて「何入ってるの~!?」みたいなミスリード(ですよね?)させたり、悪趣味だなと思いつつもついつい見入ってしまう。

職場では濃いキャラ設定の山本耕史演じる編集者が主人公の元を訪れて、田舎の面々に囲まれるとタジタジになったり、かと思えば翌日にはちゃっかり馴染んじゃう辺りも面白い。

そうやって変な考察を放棄してのんびり見出すと、逆にいかにも怪しいソーラーパネルの営業員などはだんだんどうでも良くなってきて、消防団のみんなのグダグダをもっと見せてみたいな感覚になっていくのもまた楽しい。

▼意図的に残したゆるさと無駄

このアンバランスさは以下の原作者のインタビューを見ると原作にもあるもののようで、作者の地元をモデルにした体感をベースに”田園の風俗を描く”というのが当初の目的だったとのこと。

そのような狙いのため、連載誌からの単行本化に当たってもあえて大幅な直しを入れずに、意図的に冗長な部分も残したことが明かされている。

これを見るとドラマ版の、完成度は高いのに今一つ視点が定まらない感じも納得で、作者の言う「田舎の雰囲気やそこに暮らす人たちの息遣い」を大事にした結果なんだなと感じる。

加入していないので見ていないが、TERASAでは本編とは打って変わってスピンオフの「恋の妄想♡消防団」が配信されているとのことだが、さもありなんというか社会派とかお仕事物とかミステリーといった枠組みではなく、キャラクターの関係性が魅力のドラマなんだなということを再認識させられた。

自分は原作未読なので、ストーリー自体の先も知らないが、謎解きも含めて『ハヤブサ消防団』の面々の行く末を見守っていきたいと思う。

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