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【イベントレポート】アンケート結果から見る、がん罹患経験者にとっての周囲からの嬉しかった関わり、辛かった関わりとは

みなさんはがん罹患後、周囲の方からどのような声を掛けられることが多いでしょう? 
一般社団法人がんチャレンジャーさんは、2020年に「寄り添い方ハンドブック」を作成し、延べ1万人以上の方々にがん罹患経験者へのかかわり方のヒントを提供してこられました。
今回のイベントでは、同法人代表理事の花木裕介さんより、その活動の一環として実施されたがん罹患経験者向けアンケート結果をもとに、周囲からの嬉しかった関わりや、辛かった関わり、望むかかわりなどについての集計結果を、ご自身の体験談とあわせてご紹介いただきました。

この記事は、2024年6月5日に花木祐介さんとTomopiiaのCNO(Chief Nursing Officer)の十枝内が上記アンケートの結果や体験談をテーマに対談したイベントのレポートです。

◇私の体験から:花木裕介さん

●発症
2017年、38歳のとき、仕事中、何気なくついた頬杖。首にピンポン玉くらいの腫れに気づきました。耳鼻咽喉科にかかるも、なかなか明確な診断が得られませんでした。意を決して総合病院で精密検査を受診したところ、結果はまさかのがん宣告。首のしこりはその腫瘍が転移しているものでした。38歳の働き盛り、2児の父親としてこれから数十年健康体で生きていくだろうと漠然と考えていた自分の未来予想図が一瞬で崩れ去りました。

●尽きせぬ不安と恐怖
「前年の健康診断はオールA だったのに。。。治療には長期休職が必要だが、その後、本当に仕事に戻れるだろうか。家族は、仕事は、俺の命はどうなってしまうのだろうか……?」
さらなる転移のリスクもある進行、がんの上にさらに尽きない不安に襲われました。

●約半年にわたる治療の日々
抗がん剤治療2か月で8回投与。放射線療法2か月で計35回。苦しくも未来を信じて家族とともに前を向いて治療に取り組みました。 私の周りには大きく3つの人間関係がありました。
プライベート:家族、知人・友人、カウンセラー・社労士など専門職
勤務先:産業医、同僚、上司
医療機関:医療従事者、相談支援センター
それぞれにいろいろな関わりがあり、そこに「うれしかったこと」「つらかったこと」ありました。

●「うれしかったこと」「つらかったこと」の一例
なかでもうれしかったことをあげると
家族:「いっしょにがんばっていこう」という言葉
知人・友人:じっくり傾聴してくれたうえで「何か必要なことあれば声を掛けてほしい」「応援している」といった一定の距離を持った一言
上司・同僚:「後の仕事は任せておけ」「席を空けて待っているぞ」といった安心感をくれる言葉
カウンセラー:定期的に通っていたカウンセリングで、自分の話をじっくりと傾聴し共感してくれた
といったことでした。

いっぽうで、つらかったことは
家族:自分の意思に反する情報(医療機関、治療方法など)が一方的に集まってくると、断るのに苦しかった。
知人・友人:こちらが望んでもいない栄養食品や治療方法などを、一方的に押し付けられた。
上司:「絶対に大丈夫」「弱気になったら負けだぞ」のような、こちらの気持ちが沈んでいるときにかけられる、一方的な励まし。
医療者:「こういうルールですから」不安があり相談しても突き放された感じがした。
このように、こちらの思いや考えを聞くことなく一方的に向けられたアドバイスやメッセージに心が苦しくなりました。
 こういった自分の経験もあり、一般社団法人がんチャレンジャーではがん罹患経験者を対象に「寄り添い方」に関するアンケート(2021年6月実施)を行いました。

◇「寄り添い方」に関するアンケートの結果(2021年6月実施)

アンケートの質問項目は9つです。
(図参照 いずれもⓒ一般社団法人がんチャレンジャー)。
おもな結果を抜粋して紹介します。

がん罹患告知時の年代(質問①)は40代49.2%、30代27.1%、50代18.6%で40代が約半数を占めています。
性別(質問②)は女性が8割強です。

「他者とのうれしかった関わりがあったか」でほとんどの人が「あった」(94.1%)と回答しています(質問③)。そのかかわりがあった人は多い順に家族64.9% 友人60.4% 医療従事者47.7%となっています(質問④)。

具体的には(質問⑤)、家族から「夫が抗がん剤でつるつるになった私の頭を見て『かわいいよ』と言ってくれたこと」、「小さい娘が『ママずっとそばにいてね』といってくれたとき必要とされていると感じた」。友人から「ママ友が子どもの行事に出られないとき、画像や動画を送ってくれたり『これから大変だね』とそっと寄り添ってくれた」。勤務先の上司「社長から(職場の人事)『いつまでも待つから。籍を置いておくから』って言われて心置きなく休職できたこと」、医療従事者から「初発のときに同じ病気の人を紹介してくれた、主治医や医療相談員さんが『がんばってきましたね、自分でよくやってきましたね』と声をかけてくれた」などがありました。

質問⑤ 差し支えない範囲で、上記(③④)はいつ頃どのようなかかわりで、あなたはどのようなお気持ちになったのかをお聞かせください。

逆に「他者からのつらかった関わり」も「あった」が76.3%を占めており(質問⑥)、その関りは多い順に家族34.3% 親族33.3% 友人25.6%(質問⑦)となっており、身近な人であることがわかります。

具体的には(質問⑧)、
家族から「私が入院したことで仕事に影響が出たと夫から言われた」「親には罹患したことを責められ、勤務先は解雇された。しばらくは絶望感しかなかった」、
親族から「本人は寄り添っているつもりがはた迷惑・それでもありがとうと言わなくてはいけなくて負担」「いろんな商品やサプリを売りつけられた。宗教を勧めに家まで上がり込んできた」、
友人からは「5年後くらいから地味な後遺症に悩まされているなか、子育てと転勤族の夫と自身の体調を考えて専業主婦でいたところ、一部のママ友・友人たちからヒマ人と思われ役員などをお願いされることも多く、つらい気持ちになった」、
勤務先の上司から「がんになったと当時の上司に話をしたとき、食べていたものが悪かったのでは?ふつうにしていたらがんになんてならないと言われた」「会社の病気休暇制度をくわしく確認しない上司に怒りを覚えた」、
勤務先の同僚から「同僚が『私は検診に行ってまだ大丈夫だったー』と言っていた。いいなぁとうらやましく思った」、
医療従事者「告知されてまだ動揺していたころ、(転院しているので)複数の医師から『人間みんな死ぬんです』と言われました。『へっ?どういうこと?仕方ないってこと?それで励ましているつもり?』とあきれたけど、言い返せませんでした。医師のマニュアルにでも、そう言うように書いてあるんでしょうか。ステージ4でも積極的に治療したいと相談しても『治りませんよ』と繰り返されることも。型にはまったことしから言わないなら、せめて黙って思いを聞いてほしいです」などが挙げられています。

がん罹患患者さんとの関りではよく「寄り添い」という言葉が出てきます。
大きくグループ分けすると
「相手の立場にたった、罹患者主体のかかわり」
「聴く、受け止める」
「理解しようとする気持ち、共感」
「声かけ」
「察する」
「そばにいる、一緒に」
「適度な距離感」
「普段どおり」

の8つに分けられました。
 
アンケートの詳細は、「一般社団法人がんチャレンジャー」のHPより無料ダウンロードいただけます。

また、がん罹患者にかかわる方必携「寄り添い方」ハンドブックも無料ダウンロード提供しています。

【調査概要】
調査件名:「寄り添い方」に関するアンケート(がん罹患経験者対象)
調査日  :2021年4月14日(水)〜5月31日(月)
調査方法:「キャンサーペアレンツ」 SNSコミュニティを活用したインターネット調査
調査対象:キャンサーペアレンツ会員
※がんチャレンジャー代表の花木がキャンサーペアレンツ会員である縁から協力依頼を行い、アンケート実施・協力を得るに至った。
回答状況: 118名より回答
設問数  :最大9問 


◇トークセッション 花木 裕介×十枝内綾乃

「病気をもった人である前に、社会や家族の一員です」(十枝内)

「一人の人として扱ってほしいと思うことがあります」(花木)



花木:アンケート結果を見てどういう印象を受けましたか?

十枝内:医療従事者としては少し耳が痛い部分はありますね。同じ言葉を投げかけても「うれしい」と受け止められるときと「つらい」と受け止められるときがあるんですよね。だからしっかり話を聞くことが大切です。いわゆる「傾聴」ですが、それもただ聞くだけでいいのか、それに対して声をかけたほうがいいのかも考えないといけません。

花木:フェイストゥフェイス(対面)だと表情などから情報も受け止められますが、TomopiiaさんがされているSNSを使ったコミュニケーションだと文章が中心となるコミュニケーションですよね。どのようなところに気を使われていますか?


対談中の花木裕介さん

十枝内:対面のコミュニケーションとのいちばんの違いはSNSだと文字に残ることです。読んだ瞬間に「いやだ」と思った言葉がそのまま印象に残ってしまうので気を付けないといけません。
それとニュアンスが文字だけだと伝わりにくいです。たとえば対面なら「つらいね」と声を掛けながら肩にそっと手を添えることができますが、SNSで文字だけで「つらいね」だとそれだけしか伝わらない。だから言葉のニュアンスを伝えるために対面以上に言葉を添える必要はあります。

花木:SNSだと一生残る可能性がありあますね。いい言葉が残ればいいですが、傷つけるような言葉が残ると困りますよね。

十枝内:だから送る前に何度も読み返します。それでもすれ違うときはありますよ。看護師って気質的に「何かアドバイスしてあげたい」と思いがちなんです。でもユーザーさんは必ずしもアドバイスを求めてはいません。ただ聞いてほしいだけのときもあります。だからユーザーさんのペースに合わせることが大事です。病院だとどうしても「問題解決型」のコミュニケーションになりがちですがTomopiiaではたいせつなのは「アドバイスすること」より「話を聞くこと」と伝えています。

花木:どんなコミュニケーションがとれたときに喜びを感じますか?

十枝内:いちばんの誉め言葉は「楽しかった」ですね。ユーザーさんはいろんな思いを持ちながら病気と闘っておられます。それを吐き出す場がない。そこに私たちとコミュニケーションをとることで、散らばっていた思いがだんだん言語化されて(表現できる)言葉が増えていく。私たちが「看護師」として、ではなく「(ひとりの)人」として、プライベートのことも含めて対話ができるようになる。そうして「楽しかった」と言われるとうれしいですね。

花木:たしかに患者の立場としても「相手がカウンセラー、第三者だから言える」というのはありますね。

十枝内:家族にはふだんから「申し訳ない」という気持ちがあるから言いたくても「言えない」「言っちゃいけない」という気持ちをもっている人は多いです。
家族には病気じゃなくても言いたいことってありますよね。それが病気だと言えなくなってしまう。「吐き出すこと」って大事なんですよ。黙っていると心の中で増幅していきますから。
だからなんでも言ってもらったらいいんです。看護師だからって気を遣わずに対話の相手が「たまたま看護師だった」くらいに思っていただけたほうがいいです。

花木:なんでもいいんですか? 看護師の方に話すのは真面目な話しかいけないのかなと思っていましたが。

十枝内:逆にカルテを見ているわけじゃないので医療相談は受けられないんです。医師からの指示があるわけではないし。どちらかと言えばカウンセリングに近いものだともいます。
もちろん医療の知識はありますから、一般論としては治療のことや医療者との付き合い方などは話せますよ。

花木:そうなんですね。そう聞くとハードルが低くなった感じがします。
「看護師資格をもったおしゃべり相手」と思っていいんですね。

十枝内:はい。専門的な治療の相談は専門の病院に行っていただくのがよいですが、女性の場合、罹患によって気軽におしゃべりできる友だちと疎遠になることもありますよね。私たちは患者さんに「寄り添い」の押し付けをしないように注意しながら対話をしています。
ただ、ケータイでのやり取りになるので、向き・不向きで言えば文章を書くのが好きな人がご利用いただくには向いていると思います。文章を書くのが苦手な人はむずかしいかもしれません。

花木:Tomopiiaさんとの対話には文章だけでなくて動画とか画像を使ってもいいんですか?

十枝内:個人情報に注意していただければもちろんいいですよ。自分で撮ったワンちゃんやお花の写真、自分で描かれた絵などのやり取り……もありますよ。

花木:そうなんですか、イメージ変わりました!

十枝内:病気と言ってもそれは人生の一部分でしかありません。その前に社会とか家族の一員ですから。

対談中の十枝内綾乃さん

花木:そう言われるとありがたいです。私も治療を始めて6年になりますが、今でも「がん経験者の花木さん」として扱われていると感じます。そうじゃなくて一人の人として扱ってほしいと思うことがあります。

十枝内:人はいつも同じではなくて、気持ちも時期によって違います。「病気と向き合っているとき」と「そうでないとき」では同じ励ましの言葉でも受け止め方が違うときもあります。温度感って大事ですからそれに合わせて言葉を選ぶ必要があります。だからこそ「じっくり話を聞く」ことが大事なんです。。

花木:文章による看護コミュニケーションに興味をもった人はどうすれば良いですか?

十枝内:Tomopiiaの公式LINE「Tomoガーデン」に登録をしてもらえればわかりやすく使い方も説明していますので、ぜひご興味もった方はご覧ください。
本日はありがとうございました。

(構成:Tomopiiaアドバイザー 松井貴彦)


【登壇者プロフィール】
◎花木 裕介(はなき ゆうすけ)
一般社団法人がんチャレンジャー 代表理事
2017年12月(38歳)のとき、ヘルスケア企業で管理職を目指すさなか、中咽頭がん告知を受け、標準治療(抗がん剤、放射線)を開始。翌8月に病巣が画像上消滅し、9月より復職。2021年2月、局所再発により標準治療(手術)を実施。現在は経過観察中。
社内でのキャリアアップが遠のく中、新たな生きがいを見い出すべく、フルタイム勤務の傍ら、2019年11月に「がんチャレンジャー」法人を設立。
がん判明後より、ブログ『38歳2児の父、まさかの中咽頭がんステージ4体験記!〈がんチャレンジャーとしての日々〉』(現在は『中咽頭がんリアル日記』)を開始し、執筆継続中。 2019年2月、「青臭さのすすめ 〜未来の息子たちへの贈り物〜(はるかぜ書房)」を出版。他にも著書あり。その他、国家プロジェクト「がん対策推進企業アクション」におけるがんサバイバー認定講師、千葉県がん対策審議会専門委員としても活動している。
note「挫折を味わったミドル世代係長のつぶやき」も執筆中。


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