スイスフランショックで感じた、中央銀行って・・・?の話
先日、2016年のドナルド・トランプ vs ヒラリー・クリントンの大統領選挙相場の思い出を書かせていただきました。
せっかくなので、私がマーケット業務に従事した11年間の中で、もう一つ、強烈に記憶に残っている相場のお話をしたいと思います。
2011年9月 SNBによる通貨防衛策
2011年9月6日(私は社会人1年目)、それは突然の出来事でした。
私の斜め前に座っていたFXトレーダーがいきなり大声で叫んだので、EBS(金融機関が使うFXのシステム)の板を見ると、EUR/CHF(ユーロ・スイスフランのペア)が真っ赤になり、信じられないような値動きをしていたのです。明らかに異常事態でした。
その直後、スイスの中央銀行であるSwiss National Bank(SNB)から、
「1ユーロ=1.20スイスフランを防衛」
と、無制限介入のリリースが。
伝わりにくいかもしれません(かつ地合いは全く異なります)が、今のドル円相場に例えるならば、
「1ドル=180円を防衛するために無制限ドル買い介入を実施します」
と突然日本銀行がドルを買い上げ、発表するようなものです。
(当時、日本円とスイスフランは「安全通貨」などと呼ばれ、共に通貨高に苦しめられていました。時代は変わりますね。)
社会人1年目の私は、ただただ騒然とするフロアを、眺めているだけでした。
2015年1月 スイスフランショック
さて、本題はここからです。
約3年半後の2015年、私はニューヨークのFXデスクに勤務していました。
当時冬は朝5時(東京19時)出社でしたので、フロアには毎日私が一番乗りだったのですが、1月15日だけは違いました。
すでにマーケット部門の上層部が何人も出社し、フロアは騒然となっていました。
パソコンを開いて私も愕然としましたが、私が自転車で通勤している僅かの間に、なんとSNBが1ユーロ=1.20スイスフランの防衛中止を、突然発表したのでした。
当然、マーケットは大変なことになりました。
EUR/CHFは防衛ラインの1.20から一気に0.90付近まで急落(僅か数分間で30%近くも下落)し、底値をどう見るべきかすらもわからない状況でした。(おそらくトレーダーの手元のミスにより、明らかにオフ・マーケットの取引もついていた。)
この相場の”ヤバさ”は、具体的な値動きの話だけでなく、その瞬間に、世界で数社のFX業社(個人から証拠金を預かって運営していた会社)が破綻に追い込まれた、という事実だけでも、そのインパクトの大きさが想像できると思います。もちろん、その裏にいる多くの個人投資家も破綻しました。
もう10年近くも前の話ではありますが、
これは、暗号資産とかの話ではなく、世界で最も流動性が高いと言われる外国為替市場の、しかも、先進国の通貨ペアで、実際に起こった話です!
中央銀行って一体なんだろう
SNBからすれば、このような事態になることは容易に想像できたはずです。当然、そうせざるを得ない、様々な背景はありました。
ただ、マーケットの世界において、中央銀行の存在は絶対でした。(中銀関係者の発言ニュアンスひとつでマーケットを動かす影響力があります。)
その中央銀行が、このようなマーケットとの対話方法を選んだことは、当時の私にとって大変衝撃でした。
後から「スイス・フランショック」と呼ばれるこの一連の相場を生で見ていた私は、
「中央銀行って一体なんなんだろう・・・」
と深く考えさせられたものです。
現在、私はいわば、
「世の中を幸せにする直接金融の形」
を模索するような事業に挑戦しています。
よく「伝統金融」などという言葉が使われますが、
その最前線で感じた様々な経験は、原点の一つになっています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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