子育ては、世界一周と同じくらい楽しくて愛しい
その昔、「世界一周ができない人生なんて、生きてる意味ない」と心底思って、覚悟を決めて、長いながい、片道切符の旅に出た。
旅をすればするほど世界はどんどん綺麗になるし、歩みを進めれば進めるほど、ますます訪れたい場所も増える。「少なくともあと数年は目的地も決めず、家も持たず、このスーツケースとリュックだけ持ち歩き、旅暮らしをしよう」と続けた。
並行して、「トラベルライターという職業って、もしかして人類全員が就きたいんじゃないか……?」とばかみたいに思ってしまう瞬間があるくらい、旅をしながら仕事をするスタイルを愛していた。
二度の世界一周、三カ国の語学留学、30代半ばでの沖縄移住、何度かの大きな恋。
全部ぜんぶ、愛していた。
途中で、「もしかしたらこの命が思ったよりも早く尽きるとしたら」と考える出来事に出会ったとき、「じゃあこれからどう生きる?」と問い直したけど、やっぱり「自由に旅をして、文章を書いて写真を撮る」と即答で思えたから。
私はこのまま、きっと進んでいくんだろうなと朧げに、けれど強く想像してた。
けれど。でも。
「いつかの未来、私は子どもを持つのだろうか?」。
それはあくまでも「いつか」の話で、「いつ」なのかは全然わからず。そういう時間が長かったけど、30代半ばで子宮内膜症に向き合って、「これから選ぶ道次第では、子どもを授かりづらい体になるかもしれない」という可能性が出てきたとき。
「あぁ私、お母さんになりたい。この体で、新しい命を育みたい」。
心の底からそう思えたの。確かにそれから少し、時間はかかった。一度陽性の検査薬を見られた後に、泣き伏したこともあったなぁ。
でも、この体に、小さな命が息づいていると知ったとき。
ひかりが、見えた。世界が真白く。風が吹いて、ひかる未来(キングダムみたいだ……!)。
愛している、と心が言う。毎日まいにち、産まれてきてくれてありがとうと思うし伝える。
日々できることが増えてゆく。成長は嬉しくて、そして、過去の「できなかった君」には、二度と会えなくなるという寂しさも同時に孕むのだと初めて知った。
右手も左手もその両足も、産まれてきたばかりの頃は「自分に付いている」と知らなかったはずなのに。いつの間にか「発見(ハンドリガード、などと呼ばれる)」して、足を舐めたり、にぎにぎしたり。拳を食べて、何かを握って、掴み、そして今は「親指と人差し指でつまむ」ができる。
寝返り、ずり這い、今日からはハイハイをマスターして。つかまり立ちまで進んできたから、あとはつたい歩き、よちよち歩き、きっともう近い未来は、「行ってきます」とか一人で言って出ていっちゃうんだ……!(気が早い)
そういう、小さな、けれど赤子の君にとっては大きすぎる世界との出会いや、可能性、自由への歩みと変化の日々を。世界で一番間近な場所で、愛しい目線と笑顔をいっとう最初に浴びて、愛を返して、微笑み合う。
世界の旅を心ゆくまで楽しんでいる頃も、私、本当に幸せだったの。これ以上の幸せが想像できないよ、と思うくらいに。
なのにね。あの頃、追い求めて掴んだ道と同じくらいに。ううん、多分あの日々があったから。経験できた37歳の私だからこそ。
「子どもを持ち、育てることは、世界一周と同じか、それ以上に楽しいことだ」と、心の底からまた思えた。
こんなこと言っていいのかわからないけど、今の私にとっての子育ては、「最高の趣味」みたいなものに近いのかもな。
子を産んだあの40℃近い真夏の日から、毎日「この子に会えてよかった」と感謝をしてる。可愛すぎて、かわいすぎて、出産翌日からはずっと「第二子が欲しい……」という気持ちも変わらない。
子育ては、世界一周と同じくらい楽しくて愛しい。
もちろん眠いし、初めてのことばかりで地図もないし、離乳食を食べてくれないとかお風呂で泣いてばかりだとか、夜中なんでこんなたくさん起きるんだとか、元気すぎるよとか、戸惑うことばかりで余裕がないときは本気で皆無だけれど!(うちの場合は生後8ヶ月まで病院通いや入院があったから、それもなかなか戸惑いポイントが高かった)
でも。そういうことも、全部ぜんぶひっくるめて。楽しい、たのしい。私にとってのこの世で最高に楽しいことは、あの頃マチュピチュで昼寝をした日々、もう経験し尽くしてしまったのかと思っていたよ。浅はか、あさはか。
愛してる。産まれてきてくれてありがとう。これ以上の言葉が見つからない。柔らかな体を、精一杯やさしく抱きしめるよ。私の手が全面的に必要な、君の人生においてのおそらく短いであろう今の期間。
きっとすぐに大きくなってしまうから。それまでよければ、一緒にいさせて。
かつて、子を産むことは、私の自由を何かしら阻むものなのかと思っていた。全然違う、ちがうんだ。「私の未来」に、「私たちの未来」が加わることで、羽がすこし増えるだけ。
いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。