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“50人の壁”から“大企業病”まで。企業が直面する組織課題を「5段階」に分けて徹底考察する

30人の壁、50人の壁、100人の壁、そして「大企業病」……企業成長に伴い、組織課題は次から次へと現れます。

こうした組織フェーズごとに生じる課題には、ある程度の法則性もあります。

その法則性を解き明かしたのが、ラリー・E・グレイナーが1979年に提唱した、企業の発展段階を示す「5段階企業成長モデル」です。やや古い理論ではありますが、現在でもその有効性は失われておらず、組織デザインの基礎をなす理論の一つとされています。

先日出した記事で、現代企業が直面する厄介な難題、「事業多角化」と「人材多様性」について詳述しました。

本記事では、そうした難題が企業規模によっていかにして移ろっていくのか、5段階企業成長モデルに則って解説します。ご自身の会社がいまどの段階で、どんな課題に直面しているのかを捉える参考にしていただけると嬉しいです。


■第1段階(〜50名):創業者頼みのマネジメントと、その危機

第1段階は、社員数50名くらいまでの規模感のフェーズです。

この段階の企業の多くはシングルプロダクトを運営している状態で、事業多角化は行われていません。人材多様性という観点でも、創業者のリーダーシップに共感した、価値観やケイパビリティが似たような人たちが集まっているケースが少なくないでしょう。

創業者が自ら事業立ち上げから事業開発までを担い、ある程度の価値検証を終えて、拡大へのアクセルを踏みはじめているフェーズだと思います。

この段階で企業の命運を左右するのは、創業者のクリエイティビティやリーダーシップです。一人(もしくは少人数)の創業者が主導して事業・プロダクトを作り上げてPMFさせているのが、このフェーズなのです。


この第1段階で直面しがちだと言われているのが、「リーダーシップの危機」です。

よく「50人の壁」という言葉でも言い表されますが、要するに、創業者ひとりで組織をマネジメントするスタイルに限界が訪れるということ。

50人くらいまでであれば、役割をしっかり区切らずとも、みんなで協力しあって同じボールを拾っていく方法で事足りるでしょう。しかし、それ以上人数が増えてくると、しっかりルールを決めたり、マネジャー採用や抜擢育成を行ったりして、権限移譲を進めていくことが必要になってくるのです。

また、少人数規模に最適化した組織構造のまま、1,000人規模まで足し算的に組織を拡大してしまうと、組織構造上の負債が積み重なり、構造の改革が難しくなってしまいます。そのため、この段階から、将来をある程度見据えて組織構造を設計していくことが重要になります。

生煮えでも構わないので、理想状態までのロードマップや組織計画を掲げ、その実現にメンバーが自律性高く向かっていく組織を目指しましょう。規模が小さいときこそ、組織構造が価値の創出に繋がっている感覚が得られやすく、その重要性をメンバーやリーダーに学んでもらう機会にもなるはずです。


■第2段階(〜100名):失われる自主性、求められる“創業者色”からの脱出

第2段階は、100名くらいまでの規模感のフェーズ。

この段階は、ルールや部門の設計、マネジャーへの権限移譲をしっかり行うことで分業化し、組織的な再現性を生み出しはじめるステージ。いわゆる「THE MODEL」と呼ばれるような、システマティックな分業・管理体制が構築されていく段階とも言えます。


第2段階でよく起こりうると言われているのが、「自主性の危機」です。

いくらしっかりとレポートラインや役割分担を設定し、マネジャーや部門長が責任者として意思決定を行うシステムを構築したとしても、必ずしもそれがうまくワークするとは限りません。

しっかりと個々のメンバーのポテンシャルが発揮される環境を整備しないと、指揮系統を重視するあまり、悪い意味での官僚的な社内政治が重視される風土になってしまったり、システムに依存するあまり、マネジャーが自律的な意思決定や自主的な物事の推進を行えなくなってしまったりしてしまいます。

ですから第2段階では、マネジャーや部門長が自主性を持って意思決定や事業推進をできるような工夫が必要です。

具体的には、情報の透明性を高めて意志決定の意図や戦略・戦術のスコープポイント(重点)をミドルマネジメントチームと共有しやすくしたり、育成責任を負ったりすることが重要になります。


またここで肝に銘じなければいけないのが、創業者が重視する価値観が、必ずしも組織全体を駆動しやすくする価値観だとは限らないということ。

例えばよく起こるエラーは、創業者の、全てをクイックに意思決定する起業家らしい価値観を組織全員に押し付けようとして、ルーティン業務を着実に遂行することが得意なタイプのメンバーとの間に軋轢が生まれるというもの。

創業者の仕事のやりやすさや成功体験をそのまま組織全体に押し付けるのではなく、立ち戻るべき理念や原理原則を改めて問い直し、その価値観をもとに各リーダーが考えて意思決定を行う形に変えていかないと、組織拡張性は生まれません


■第3段階(〜300名):狂いはじめる、部門同士の足並み

そして、300名くらいまでの規模感に達したフェーズが第3段階です。

このフェーズでは、部門長やマネジャーがパフォーマンスを発揮できるよう、ガイドラインや成功の型を整備し、人の育成や適正な配置も行えていることが重要になります。つまり、事業や組織の雛形をしっかりと構築し、「移譲」を成長のドライバーとすることが重要な段階と言えます。

雛形ができているということは、他の部門を作りやすくなるということでもあります。

ですから第3段階では「事業の多角化」という戦略が選択され、元の事業をもとに再現性を持ってビジネスモデルを拡張し、複数事業の展開が行われるようになっていくのです。そして、事業の多角化のために、人材多様性も高まりはじめていきます


ここで直面しがちだと言われているのが、「コントロールの危機」です。

自律的に動ける部門を複数作った結果、意思決定者である部門長やマネジャー同士の連携に齟齬が生じてきます。

企業の理念という一つの目的に向かって、複数の事業部門が連携していくことが難しくなり、混乱が起きはじめるのです。

ですから第3段階では、部門同士がお互いにハレーションなく理念に向き合えるよう、ダイナミックな組織構造の設計やミクロレベルでの調整を行っていくことがキモになります。

企業として中核に置く理念を改めて確認しながら、あらゆるメンバーが組織全体のパーパスに向かっていけるような文化を醸成するための組織開発を始めるべきタイミングなのです。


■第4段階(〜1,000名):熱量低下、先行き不透明、形骸化……各所で課題が噴出

第4段階は、組織規模的には1,000名くらいまで。

この規模になるとかなり事業数も増えていて、テック企業であればプロダクト数が数十個になっているケースも少なくありません。あわせて、部門や執行役員の数も増えていることでしょう。

その中でさまざまな役割や職能の人や部門がお互いに連携できるよう、プロセスや業務フローを調整することで成長を志向しているというのが、この第4段階だと言えます。


もはや中小企業とは言えない規模感に達しているこの段階では、各所でもぐら叩きのように課題が噴出します。しかし、それぞれに対症療法的にアプローチするスタイルでは、いつまで経っても課題はなくなりません。

そこで重要になってくる論点は、

・「ファシリテーター」としてのマネージャー育成
・「ロードマップ経営」の遂行

の2つ。以下では、それぞれについて詳しく説明します。

マネージャーを「ファシリテーター」に

第3段階以前のフェーズでは、ミッション・ビジョン・バリューなどを明確に言語化し、全員に熱量を伝播させることで組織開発を成功させる組織も少なくないでしょう。

しかし、第4段階となると状況は一変します。

まず第一に、人数規模の増大によって全員が一同に介する場を設けづらくなり、「全員に熱量を伝播させること」が難しくなるのです。

そこで重要になるのが、マネージャーが組織に熱量を生むストーリーを語り、メンバーの創造性を賦活する「ファシリテーター」の役割を果たすこと。数十人規模の組織であれば、CEOやCxOがその役割を担うことができますが、このフェーズになると、マネージャーにもファシリテーターとしての役割が求められます。

つまり、一人ひとりのマネージャーが、自らが預かる組織に対して会社全体、ないしは事業のストーリーを語り、そのストーリーを実現するための熱量を生み出さなければならないのです。

ですから、数十人規模の組織のうちから組織規模の拡大を見据えた上で、CEOやCxOが語るストーリーを自分なりの言葉で語り直し、メンバーをファシリテートできるマネージャーやリーダーを育てる必要があると言えるでしょう。

高まる「ロードマップ経営」の必要性

また、この規模感になるとどうしてもプロセスが硬直してしまい、“マニュアルのためマニュアル”のようなものも増えてきます。

自分たちでしっかりと頭を使って事業を作り、創造性を発揮していくというプロセスが失われやすい──つまり「形式主義」に陥りやすいと言われています。「部門ごとに定められたオペレーション通りにやること」に重きが置かれるようになり、慣習への固執が生じるようになるのです。

その結果、「大局観を持ち、中長期目線で意思決定できる経営リーダーが育っていない」「新しい探索の芽が生まれなくなってしまう」「『慣習を疑わない』文化が定着してしまう」ことなどが問題となります

そして、組織規模の増大に伴い、組織開発の中で向き合う「わからなさ」の種類も変わります。

数十人規模の組織であれば、マイルストンのタイムラインは数ヶ月や1年程度の短期間である場合が多いため、「結果が出るかはわからないが、とにかくやりきる」ことも可能でしょう。しかし、このフェーズになると、5年後や10年後を見据えたマイルストンを設定しなければならなくなり、「とにかくやりきる」というパワープレイだけで乗り切るのは難しくなります

形式主義を脱し、中長期的な「わからなさ」のもとでの事業成長を実現するためのポイントは、部門ごとに1〜3年程度の中期的な目標やそれに対する道筋を設計し、未来に対する納得感や理解度を高めることです。

そのために有効なのが、「ロードマップ経営」という手法です。

現時点で確定している情報を整理し、周囲の必要な情報を埋めていくかたちで部門ごとにロードマップを描き、3年後にたどり着いていたい状態を明確にイメージする。そこから逆算して今を捉えていく目線や、そのための姿勢を共有していく……そうした経営スタイルが必要になるのが、第4段階だと言えるでしょう。

もちろん、いくら精巧な未来地図を作り上げても、実現されなくては意味がありません。ロードマップを引いたからといって、短期的に積み上げていくことの重要性は変わらないでしょう。

しかし、数百人規模の組織がそうした行きあたりばったりのスタンスだけで突き進むと、大抵は行き詰まってしまいます。

短期的な合理性と、中長期的な合理性は得てして矛盾する。これは経営における大きなパラドックスの一つとも言えるでしょう。短期的にやり切る手法は大切にしながら、常にリフレクティブに未来地図をアップデートする。両者を行き来しながら変容し続けられる経営組織を作り上げることが重要なのです。


■第5段階(1,000名〜):終わりなき組織デザインの問い

最後の第5段階は、1,000名規模を超え、数千人から数万人の規模感に達したフェーズ。

もはや「大企業」と呼んでも差し支えない規模に成長したこの段階では、事業多角化も相当に進み、人材多様性もかなり高まっていることでしょう。

その結果、組織の遠心力が凄まじい勢いで働くことになります。求心力を高めるための施策を講じなければ、人材は段々と組織を離れていってしまう段階だと言えるでしょう。


とはいえ、無闇に経営陣を中心とした統制を強めて求心力を高めようとした結果、外部環境変化についていけず、競争優位性が弱まってしまうケースも散見されます。

言い換えると、組織学習が起こりづらくなるのがこのフェーズだと言えます。

知識や行動、認知の変化が一時的なものではなく、再現性のあるものとして組織ルーティンの変化が起これば、組織学習が成立したと言えるのですが、組織が1,000名を超えるこのフェーズではそれが生じにくくなります。

外部環境に応じて、組織全体が常に今起こるべき行動変容に向き合える状態を実現することは、少人数スタートアップなら比較的容易でも、1,000名以上の組織では非常に難易度が高い。その規模になると、組織にさまざまな固定観念が根付いてしまっており、組織内で繰り返されている行動パターンを抜け出すことが難しくなってしまうからです。

※「組織学習」という言葉の定義はさまざまですが、ここではフーバー(G.P. Huber, 1991)による「情報処理を通じて、学習主体(である組織)の潜在的な行動の範囲が変化すること(そのとき、組織学習が生じた、とみなす)」を採用します。

だからこそ、しっかりと組織学習が成立するための組織デザインに経営投資を行わないと、競争優位性が失われてしまうのです。

この段階はもはや、事業多角化と人材多様性の課題が各所で噴出し、終わり無い組織デザインの問いに向き合うフェーズに差し掛かっているとも言えます。

こうした状況を生き抜いていくため、とりわけ重要だと考えているのが、

・「ファクトリー型」組織から「ワークショップ型」組織への移行
・「選択と集中」戦略から「分散と修繕」戦略への移行

の2点です。

「ファクトリー型」組織から「ワークショップ型」組織へ

「ファクトリー型」組織とは、経営層が定めた「問題」について現場メンバーがひたすらに「解決策」を磨き続ける経営スタイルを取る組織のこと。

外部環境の変化に柔軟に対応するためには、現場と対話しながら「理念」を探究する経営層と、理念を体現するための「問題」を自ら発見し、素早く柔軟に「解決策」を探索する現場メンバーによって構成される「ワークショップ型」組織への移行が求められるのです。

ワークショップ型組織に移行するための組織デザインについて語り始めると、それだけで本を一冊書けてしまうくらいのボリュームになってしまうので、ここでは導入だけに留めます。気になる方は、まずは以下の記事などを読んでみてください。

「選択と集中」戦略から「分散と修繕」戦略へ

「選択と集中」は、従来の成長戦略の中でももっともポピュラーな考え方として知られている、事前に目標を立てて計画的に実行するスタイルのこと。

しかし昨今は経営においても個人のキャリア戦略においても、そのオルタナティブとして、以下の3ステップによって進んでいく「分散と修繕」戦略への移行が重要だと考えています。

(1)目標ではなく、明らかにしたい「問い」や「理念」を立てる
(2)設定した「問い」や「理念」に関わるタスクに「分散」投資する
(3)得られた洞察を手がかりにして、「問い」や「理念」を”修繕”する

この点に関しても、詳しく知りたい方は、以下の記事などをチェックしてみてください。

ただここで注意したいのが、「選択と集中」戦略を完全に捨て去ればよい、ということを言いたいわけではない点。

むしろ、「選択と集中」戦略を取ることも、「分散と修繕」戦略の中に含まれています

分散、すなわち多角化することと、修繕、すなわち理念に立ち戻って振り返ること。両者を行き来することが「分散と修繕」戦略ですが、「多角化すること」の中には、時に「選択と集中」戦略を取ることも含まれるのです。

「ワークショップ型」組織、「分散と修繕」戦略という二つは、僕が代表取締役Co-CEOを務めている株式会社MIMIGURI(文科省認定研究機関として、経営多角化の理論開発・経営層育成・組織コンサルティングを行っています)でも最重要事項としている論点。本記事のいち項目として語り尽くすのは不可能なので、今後、僕のnoteでも詳しく解説していく予定です。



本記事では、「5段階企業成長モデル」に則り、組織フェーズごとに発生する課題と、簡単にではありますが、それらを解決するためのポイントを紹介しました。

各フェーズごとの人事制度の設計論については、以前、組織・人事コンサルタントの金田宏之さん(株式会社インプリメンティクス代表取締役)をお招きしたイベントでも議論したので、より多角的に各フェーズについて考えたいという方は、こちらもご参照ください。

今後もこうした難題への処方箋としての組織デザインにまつわる知見を、このnoteや、MIMIGURIが運営するオンライン学習プログラム「CULTIBASE Lab」、オンライン対話型学習プログラム「CULTIBASE School」にてたくさん蓄積・発信していきますので、ぜひチェックいただけると嬉しいです。


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