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PLANETS School 課題

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#エッセイ

発表しない芸術活動のススメ

クラリネットを始めてわずか2年余りの吹奏楽部員だったとき、初心者集団の中学生にはとても吹きこなせないような「難曲」でコンクールに出場した。若さゆえの体力と根性に物を言わせ、ありあまる時間のすべてを注ぎ込み、たった7分の曲のために部員全員で毎日何ヶ月もの練習を重ねた。一音ずつ音をとり、つなぎ合わせ、テンポを上げた、青春の断片を押し込めたような一曲を、広いホールで三度演奏した。いつもと違うステージ、照

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車椅子のみいちゃんが亡くなった

車椅子のみいちゃんが亡くなった

小学生のとき、同じ学年に車椅子に乗っている女の子いた。仮にみいちゃんと呼ぶことにしよう。

みいちゃんは一人だけ別のクラスだった。当時、「特殊学級」と呼ばれていたみいちゃんのクラスに、わたしはときおりクラスメイトといっしょに遊びにいった。同じ教室で授業を受けたことはなかったし、みいちゃんがわたしたちのクラスに来たこともなかったので、何がきっかけでいっしょに遊ぶようになったのかは覚えていない。わたし

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米澤穂信と青春の残り香

米澤穂信と青春の残り香

小学生の頃から本の虫だった。朝、登校と同時に図書館によって本を借り、昼休みには読み終わってしまうので別の本を借りにいく。上級生の図書委員に「同じ日にはもう一冊は借りられない」と言われて「そんなのルールに書いていない」と食ってかかるような子どもだった。

好き嫌いなくなんでも読むのだが、特に気に入っていたのはミステリだ。今では主要な作品は大方読み終わり、よくあるトリックが出てくると「このタイプか」と

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聞くことが教えてくれたこと

突然だが、私は勉強が好きだ。小さい頃から勉強が楽しくて仕方がなかった。学ぶことは新しい世界への扉を開いてくれる。勉強すれば人は幸せになり、それが広がれば世界は平和になるとけっこう本気で思っている。だから私が大学で専攻していたのは教育だったし、新卒のときに選んだのは教育系のベンチャー企業だった。

5年ほどの間、ざっくりと言えば個別指導の塾の先生として、小学生から高校生くらいの生徒たちに勉強を教えて

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いいパン屋の近くに住む幸せ

いいパン屋の近くに住む幸せ

数年ほど前に渋谷区のはずれにある富ヶ谷に住んでいた。代々木八幡と代々木上原と駒場東大前の3つの駅のちょうど真ん中あたりで、どの駅からも少し遠い。自宅から目と鼻の先には首都高速中央環状線の富ヶ谷インターチェンジがあり、トラックが行き交う三車線の広い道路の脇には新旧のマンションが立ち並ぶ。殺風景で、ここには何もない。そんなふうに言われることもあるけれど、私は富ヶ谷が好きだった。

じつは、富ヶ谷はパン

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