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【エッセイ】二十歳になってから

2002年6月、二十歳になりましたので、二十歳に関するお話を二つ。

「はじめての年齢確認と小さな奇跡」

二十歳になって解禁されるイベントはたくさんあるが、私が最も楽しみにしていたのは「年齢確認」である。

あれこそ大人にしかできないイベント。レジの液晶にいっぱいに映る「二十歳以上」というボタンを押す体験。年齢を確認するため身分証をサッとだす仕草。あの「手続き感」にとっても憧れがあった。
そしてついに今夜、私も手続きができる‼︎

「タ〜ラララララ〜ラ、タララララ〜♪」
聴き馴染みのある入店音は、今夜私のためだけに用意されたファンファーレのように聴こえた。さて、私は早速お酒コーナーに向かう。するとそこには黄色背景に赤字という警告を示す配色でこう書いてあった。

[お酒は二十歳になってから]

は〜〜〜あ。警告されちゃあ仕方ないなあ。
二十歳まで、我慢しないとなあ…。
二十歳まで俺もあと……あれ?
はぁ〜〜〜い‼︎ 二十歳でぇ〜〜〜〜〜す‼︎
こんな大きくなりましたぁ〜〜〜〜〜〜‼︎
お母さん産んでくれてありがとう〜〜〜‼︎

今日の私は最強である。
しかし、ここである問題が立ちはだかる‼︎

お酒多すぎ問題。
多すぎて何を買えば良いのかわからない。
まるで、親戚からたまに貰うちょっと高いチョコのバラエティセットのよう。
ちなみに私は中央横によくあるアーモンドチョコを1番に食い漁る。

え、ちょっと待って。よく考えたら、ドリンクコーナーの冷蔵庫、半分占めてるじゃん。これほんと、未成年の人、損じゃない?こんなの、コンビニの、半分も、楽しめないじゃないか。はーあ、早く、二十歳になれたらな〜〜。
ん?二十歳?あ、二十歳でぇ〜〜〜〜〜〜す‼︎
未成年の皆、早く俺のSTAGEに上がってきな〜〜?

今日の私は最高である。
ちなみに選んだお酒は、ほろ酔いのホワイトサワー。
友達に報告したら「女子大生かっ!」って言われた。
はい、そうです。私は女子大生です。

早速レジに…おっとっと。
お兄さん、ひとつ忘れちゃぁいやせんか。
「アテ」が無ェでござりやしょうに。

最近知ったことはおつまみを別名「アテ」ということだ。
何を当てるんですかね、くじですかね、ボールですかね。
もしくは誰かに宛てるんですかね。
誰かに気持ちを伝えるには、彼宛てに手紙で伝えるという、ひとつまみのロマンがいるとか、そういうことですかね。

選んだのはさきイカ。
いつか私が、如何にイカが好きかというエッセイでも書きましょうか。

さて、戯言はさておき。ついにレジに辿り着いた二十歳の三代。
はじめてのお相手は、恐らく同じ大学生の男性。
「お願いしま〜す」
早速レジの台にほろ酔いとイカを置く。
さあ、来い‼︎年確‼︎

ピッ、ピッ。

「2点で、293円になります。年齢確認ボタンをお願いします」

ほう…?身分証はボタンのあとなのか…?
焦らしてくるじゃないかお兄さん…。
さて、念願の年齢確認ボタン。
押させて貰おうじゃない。

ピッ。

「ありがとうございます」

ほう…。これはあれだな。
プリペイドカード買った時と同じだ。
ただのボタンだこれ。

だがしかし、まだ身分証が残っている。
さあ、来い‼︎手続き‼︎

「袋おつけしますか?」
「あっ。お願いします」

ほぉ〜?聞いてこないとは。
こいつ、まさか。
俺のこと“老け顔”と思ってるな…?
許すまじ。

なんだか腹が立った私は、財布のカード入れに手をかけ、「あっ、そうだ」とハッキリと口に出して「出さなきゃ感」を演出し、何も言われていないのに保険証を出してやった。

「え?あっ…、はい。…………おっけーです。ありがとうございます」

勝っっった‼︎(何が?)
腹が立ちながらも、私は二十歳の仲間入りを果たしたのだ‼︎
求められてないとかどうでもいい。手続きができればそれで良いのだ。
(その数日後知ることになるのですが、年齢確認は顔写真付きの身分証でないといけないため、私はただ他人に保険証を見せつけた男でした。)

さて、気持ちよく帰ろうと思ったが、どうにも身分証を求められなかったことがまだ認められない。店員の名前を覚えてやろうという、二十歳になって考えられない小さな器に従い、名札を見てやった。
するとそこには、こう書いてあった。

[さかや]

………酒屋ならもっと厳しくしろよ‼︎


「ビールの味」

先日、バイトが一緒になったおじさんの話だ。
その日は派遣のバイトで、飲食店を周り、コロナ対策をしているかどうかをひとつずつ調査するバイトで、ほとんどの時間を歩くことに使った。
おじさんは色んなことを教えてくれながら一緒に歩いてくれた。

「この近くで潮干狩りしちゃダメですよ。取った貝に毒がありますから」
「この海の沖にでちゃだめですよ。ホオジロザメが出ますから」

教授してくれた知識がどれも物騒なのは気になったが、おじさんはとても博識だった。
就業時間が残り2時間ほどになると、炎天下と疲れで、私たちはシャツに汗を溜めながら無言で飲食店を目指す、悲しき生物になっていた。

その時ふと思いついて、私はあることを聞いた。
「こういう時に、ビールが美味いんですかね」
おじさんには、ホオジロザメの時の嬉々とした表情は無く、短く答えた。
「そりゃもう、そうですよ。なんで急に?」
「いやあ僕、ついこの間二十歳になったんですけど。まだビールを美味しいと思えないんですよね〜」
おじさんは、永遠に続く県道の先を見つめながら言った。

「ビール自体はね、実は美味しくないんですよ。頑張ったことか、疲れたこととか、そういうのが味になったもので、ビールはそういう『概念』なんですよ」

本当に意味がわからなかったけど、多分良いことを言ってくれたんだと思う。

バイトの就業始め、おじさんは普通にコンサルタントの仕事をしながらこの派遣に来ていることを教えてくれた。現に歩いている途中も、電話一本で部下に指示を出しながら目的地を目指していた。

「なるほど、そしたら僕も今日は初めて、美味しいビールが飲めるかもしれないです」
「ははは、良いですね。よく味わってください」
「〇〇さんも、今日はゆっくり休んでくださいね」
「いやあそうもいかなくて、さっき電話してた人に会うために、この後会社に行かないといけないんですよ」

バイトの就業始め、私はなぜ派遣のバイトもしているのか、おじさんに理由を聞いた。
「いやあね、今年息子が大学受験でして。お金がいるんです」

おじさんのビールは、どうりで美味いわけだ。

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