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あのころは若かった -episode2-

どうでもいい小ネタver.2。
当時は外資の広告代理店に出向しはじめたばかりで異様に忙しかった。新しいメンバー、新しいクライアント、新しいシステム。新しいタスク。順応するにもパワーがいるのに、うっかり婚活なんて不慣れなものまでに手を出そうとしたのがそもそもの誤りだった。完全にオーバーフローしてました。

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お見合い写真

「女はやっぱり顔!」

のひとことで見合い写真をとることになった。

寄る年波と重力に素直に流されるまま押されるままに長い年月を過ごしてきたこの顔だが、そろそろ反抗期に入らねばならない。

改めてまじまじと鏡の前で自分の顔とご対面したが、すでに遅かりし由良の助であったな、と呟かざるを得ない。それでも心根のやさしい世間様が
「まだ26~27歳にしかみえない!」
といって驚いてくれる(振りをしている)うちに殿方をだまくらかす写真をこさえておこう。

-見合い写真の黄金ルール-
・女性はなるべくワンピースやスカートで。
・色は明るめのやさしい色で。
・首まわりはなるべくあけておく。

なんだそうだ。
仕事場で着るスーツ以外は割と個性を重視した服装の多い私の手元には、以上のアドバイスに当てはまるワンピースなどなく、わざわざ実家に帰ってまで捜索をしたけれど、明るい優しい色のワンピースは、数年前の同期の結婚式で着たクリーム色の清楚な雰囲気のワンピースしかない。

確かにこのワンピースを着たらきっと相手(誰?)のご両親が諸手をあげて「嫁にきてくれ」というに違いない、とひとりほくそ笑んだ。だがしかし、清楚を演じるには少々歳がいきすぎた。

本当はお気に入りのワンピースがある。
こげ茶のワンピースだけど、黄緑や青緑、紫の細かな模様がエンドレスに入っていてウエストや胸元にも紫のトリミングがしてあるワンピース。

初夏にデートするとしたらこの一着を着ていきたい。しかし見合い写真で使ったら、きっと相手に
「あの見合い写真の服と一緒だ」
と思われかねない。

やはりここはご両親への挨拶のときくらいしか着ないであろうクリーム色のお嬢様ワンピースにしておくか?それならばデートで着ることはないので、見合い写真と服がかぶることもなかろう。
でも、いくら見合い写真といえども、自分らしさの表れていない服でいくのはいかがなものか。
かといって、写真一枚でだまくらかせるならここは女優になりきって清楚に・・・

と、写真を撮ろうと決めてから自分の妄想に振り回され2週間近く2枚のワンピースの間で揺れ動き、刻一刻と若さをうしなっていった。

結局、お見合い写真の黄金ルールには反するがお気に入りのこげ茶のワンピースで手を打つことにした。

「婚活」ブームとはなんともありがたいブームで、ちょっと前だったら写真館に「見合い写真を撮りたいのですが」などと口が裂けても言えなかっただろう。
けれど今はブームのおかげで「流行にのってるんですぅ」みたいなノリで
「お見合い写真撮ってください」と堂々といえる。あーありがたやありがたや。
ヘアメイク+写真2カットで5000円
メイクアップもするなら7000円
フルメイクだったら9000円
という料金設定に、最初は「もうこちとら化粧のセミプロだ。10年以上も化粧はしてきてるのよ、化粧なんぞにウン千円も払えるか」
と思っていたが、いざスタジオに電話をかけると、金を出し渋る女と思われやしないか、いやその顔で5000円はないだろう、と思われるのではないかと、コンマ数秒で逡巡し、結果天丼を頼む要領で「7000円コース」を注文していた。
撮影当日、やはり「見合い写真を撮る」という得もいえぬ屈辱感と戦いながらのろのろとスタジオへ向かった。カメラマンはまあまあイケメンの男性。

やばい。

見合い写真だからって相当がんばってる感がでてたらどうしよう。
まあまあのイケメンに「35のくせして若作りか」と心のなかで笑われてたらこっぱずかしい!
「ちがうんです、もともと年齢より若くみられるんです、がんばらなくっても若くみせられるんです!」
と聞かれもしないのにとんちんかんな回答を心のなかで叫びながらピンク色の背景シートの前にたった。
もちろんカメラマンさんは心のなかで思っていることはおくびにも出さず、とても穏やかにやさしい笑顔で、立ち方や手の組み方、背筋の伸ばし方など指導してくれて、笑いやすい環境を作りながらシャッターをきってくれた。
おかげでこちらも気取った、硬直した笑顔にはならずいつもの「がはは笑顔」で私らしい写真ができあがった。

きれいな撮り方はまっすぐ前を向くのではなく(まっすぐ向くと証明写真になってしまうそうだ)、片方の肩を後ろにぐいとひき、顔だけ正面を向け、
あごをちょいとひき、わずかに首をかしげるとよいみたいだ。

なるほど、確かにこの手のポーズは町のいたるところでみられるポーズだ。
小劇団の舞台案内チラシや歌舞伎町の盛り場や公衆電話のガラス戸に貼られたチラシにいたるまで、女性はだいたいこんなポーズで写ってる。
歌舞伎町のきらびやかなお店に連なるお姉さま方の写真が全部同じに見えた理由に合点がいった。

数枚撮った写真のなかからイケメンカメラマンと best shot を選んで終了。
「へええ、けっこうかわいいじゃん」
と言ったのはワタクシ本人。
スタジオの失笑を買いはしたが、まあいいでしょう。
こっぱずかしい日ではあったけれど、写真は撮っておいてよかった。
老衰でこの世をさるときでも、遺影はこれ使っとくか。

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あとがき

いや本当に敗北感満載で写真館へいったけど、ふりかえってみればあのときちゃんと写真撮っておいてよかった。小じわなんてひとつもないじゃないのさ。
今にして思えばほんと、35歳なんて全然若かった!
わたしより大人の友人たちも散々「まだ全然若いよ」と諭してくれていたのに、全く聞く耳をもたず、つい過去の自分と比較して失ったものばかりに気を取られていた。
5年後のわたしはこの会社を休んで過ごした2020年、2021年をどう思い出し、どうふりかえっているんだろう。
やっぱり「まだまだ若かったなあ」って思いだすのだろうか。

ふふ。そう考えたらなんだかすこし、未来にワクワクしてきた。

※写真は都内公園、狂い咲き(?)の桜(2021年10月!)。

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